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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
42/149

43 足らないことΦ


『エル、助けて』


 ヴィエルジュの二十三日。

 トゥンク村に向けて出発した二日目。

『どうしたの?エル。急に立ち止まったりして』

『何か見つけたー?』

『急がないと、日暮れまでに次の街に到着しないぞ』

『結構きつい予定組んだものねぇ』

 今の。気のせいだと思うんだけど。

「リリー、どうしてるのかと思って」

『ロニーの話しだと、ヌサカン子爵の元に到着しているはずだが』

『今日はぁ、アレクとグリフが合流する日よねぇ?』

 そして明日、アレクとリリーが合流する予定の日だけど……。

『気になるなら、イリスを呼んでみたら良いんじゃないー?』

 ちょっと、呼んでみるか。

「イリス、来い」

 しばらくして、イリスが目の前に姿を現す。

『何か用?』

「リリー、どうしてるかと思って」

『リリーなら、アレクと一緒にセズディセット山を目指してるよ』

「え?」

『あれー?』

『そうなの?』

『そんなにびっくりすること?アレクと一緒に行動するように言ったのはエルじゃないか』

 確かに、リリーに送った地図の裏に、アレクと一緒に行動すること、って書いたけど。

『歩きながら話したらぁ?』

 そうだな。

 急がないと次の街まで到着できない。

「リリーは、シールと一緒にヌサカン子爵邸を目指してるんじゃなかったのか」

『その予定だったんだけどさ。十九日にセズディセット山の砦でアレクと合流したんだ。二十三日にエルが来るって言うから、砦で待ってたんだよ』

「十九日?アレクが、十九日に砦に居たって?」

『うん』

 アレクが王都を出たのは十五日の夜。

 砦を目指す最短距離は、西大門を出て、街を二つ回ってニバスまで迂回し、ニバスから乗合馬車に乗ること。そのルートを使ったとしても、到着に要する時間は五日。

 っていうか、アレクがニバスに寄れば、絶対に誰かがアレクを見つける。ニバスは乗合馬車の街で王都の玄関口だ。アレクの顔を知ってる人間も多いだろう。だから、アレクがニバスに寄るはずはない。

「ロザリーと一緒だったんだよな?」

『もちろん』

 街に寄らずに、馬を使って野営のみで移動すれば到着は可能だろうけど、ロザリーを連れた状態で、そんな方法を取るとは考えられない。

 魔法を使った可能性……。砂の魔法でどれだけ早く移動できるかはわからないけれど、あれは攻撃魔法のはずだから、やっぱりロザリーを連れているなら無理だ。

『アレクが十九日に到着って、不可能なの?』

「実質、不可能だと思うけど……」

 アレクの目的は、ロザリーをヌサカン子爵に預けてウィリデの調査に行くこと。俺の到着が二十三日と知っている以上、急いで移動する理由もないだろうし。

『あのさ。アレクはウィリデの調査後、エルを追いかけるらしいよ』

「は?」

『エルからもらった地図を見て言ってたんだ。どう考えても無理だと思うんだけど』

「追いかけるって……。王都に帰るって意味じゃないのか」

『うーん。北を目指すとしか言ってなかったけど。リリーはエルを追いかけるって思ってるよ』

「リリーはそれ、疑問に思わなかったのか」

『エルに会えるって楽しみにしてたけど』

 なんで、疑問に思わないんだ。

 ……やっぱり、トゥンク村を目指さずに南に向かうべきだったのか。

『ふふふ。流石、リリーねぇ』

 本気でこっちに向かうつもりなのか?

 十九日に砦にたどり着いた方法と同じ方法を使って?

 馬よりも早くて、ロザリーを無理なく安全に連れて歩けるような移動手段。

 一瞬で遠くに飛べるのは転移の魔法陣だけど……。

 そういえば、転移の魔法陣があった遺跡はオートクレール地方の北東。距離的には、ジュワユーズ地方にあるセズディセット山とも近いよな。

 ……そうか。使えるんだ、あれ。

 グラシアルの転移の魔法陣を描いて呪文を唱えれば、遺跡の魔法陣に飛べるのは実証済みだ。アレクはそれを知ってる。

 地図で確かめてみなきゃいけないけれど、遺跡の魔法陣を使えるならロザリーを連れて十九日までに砦に到着することが可能かもしれない。ロザリーを拾って、すぐに転移の魔法陣で飛んで。馬を使って砦を目指すなら、そんなに日にちはかからないだろう。

 でも、トゥンク村には使えない。

 トゥンク村の周辺に遺跡があった覚えはないし、都合良く誰かが出口を設置するなんてこともないだろう。

 ってことは、ほかの方法を使うのか?

『あのさ、エル』

「ん?」

『ちょっと言いにくいんだけど。リリーは今、気絶中なんだ』

 え?

「気絶?……気絶って、リリーが?なんで?何があったんだよ」

『落ちついてよ。気絶させたのはレイリスだから心配しなくて良いと思う』

「なんでレイリスがリリーを……。っていうか、なんでレイリスが一緒に居るんだ?」

 砂漠に居るはずなのに。

『だから、いろいろ事情があって、』

「事情って?リリーに何が……」

『エル、少し黙っててねぇ?』

『イリスがこっちに来たってことはさ、リリーは大丈夫なんだよねー?』

『大丈夫だよ。心配要らない』

 気絶してるのに心配要らないなんて。

『良かった……』

『イリス。詳しく説明してくれ』

『上手く説明できるかわからないんだけど……』

『見たままで良いわよぉ』

『うん……。アレクが王家の敵って呼ぶ相手が突然現れて』

 え?

『アレクがエイルリオンを召喚して戦って。リリーが封印解除の呪文を唱えて参戦したんだ』

 は?

『それから、レイリスが駆けつけて敵を追い払って。リリーに何か魔法を使って、リリーが気を失ったんだよ』

 ちょっと、待て。

 なんだって?

『エルの知らないところで、大冒険してるのねぇ』

『無事で良かったな』

『レイリスが来たなら大丈夫じゃないかなー』

『エイルリオンって、召喚できるの?』

『あれは特別な剣だ』

『イリスちゃんが知ってることはそれで全部なのぉ?』

『見たままのことは話したよ』

「リリーは、怪我してないのか?」

『してないよ。アレクが守ってたから』

 良かった……。

『今言ったのって、ボクがエルに呼ばれる直前の出来事だからね』

「直前?」

 じゃあ、さっきのって。

 リリーに呼ばれたような気がしたの、気のせいじゃなかったのか?

『絶妙なタイミングだったのねぇ』

「本当にリリーは大丈夫なのか?」

『もう。大丈夫だと思ったから、エルの呼びかけに応えたんだよ。アレクとレイリスがリリーの傍に居るんだし。そんなに心配なら、今からリリーの傍に行けば良いじゃないか』

 今から向かう方法……。

 転移の魔法陣で、オートクレール地方の遺跡に向かって……。

 だめだ。アレクとリリーがどう移動するかわからない以上、俺が今から予定を変えるわけにはいかない。アレクは俺の予定に合わせて行動してるんだし。

『予定を変更してリリーを置いて来たツケが回ってきたみたいねぇ』

 リリー……。

『ごめん。……エルが心配するってわかってたよ』

「いや。教えてくれてありがとう、イリス」

 俺にリリーのことを言うか、悩んでたんだな。

「リリーはアレクとレイリスが居るなら大丈夫だ。俺がイリスでも、二人に任せていれば大丈夫だって判断するよ」

 レイリスが敵を追い払ったってことは、レイリスが居る限り、もう一度襲ってくることはないのだろうし。

 っていうか。

「なんでリリーは封印解除の呪文を唱えたんだ?」

 言わないでって言っておいたはずなんだけど。

『それ、さっぱりわからないんだ。突然言ったからボクもびっくりした。止める暇もなかったよ』

 リリーが自分の力のことを知ってるとは思えないんだけど。

「イリスは、リリーの力に心当たりあるか?」

『レイリスは、パスカルがリリーに置き土産をしたって言ってたけど』

「置き土産?」

『うん。ボクも、はっきりとは言えないんだけど。パスカルが何かリリーに力を与えたのは確かなんだと思う。……ほら、パスカルはリリーに力を使ったから』

 そのタイミングって……。

『それなら、エイダと力を合わせたんじゃないかしらぁ?』

「力を合わせた?」

『ほら、二人は一つになるつもりだったでしょぉ?その為に、完全に力のバランスを合わせたはずなのよぉ』

「エイダよりもパスカルの方が力が強かったから、その余剰分をリリーに渡したってことか?」

『そういうことぉ』

 そういえば、アリシアはリリーの力が水色に見えるって言っていた。

 それはパスカルの力をリリーが持っているからなんだろう。

 でも、何百年も力を使い続けてきたパスカルと、棺でずっと眠っていたエイダなら、エイダの方が力が余っていたんじゃないのか?

 どうして、パスカルの方が強い力を……。

 いや。パスカルが持っていた力は、きっと氷の力だけじゃないんだ。

 だって、転移の魔法陣。あれを起動できる力がリリーの中に一緒に封印されているはずだから。それは氷の力じゃない。

 パスカルが持っている氷ではない力。……それって、リックが言っていた神の力じゃないのか?

 アルファド帝国の皇帝が手に入れたという神の力。それは、もともとパスカルが守る神の台座にあった封印の棺から手に入れた力だ。

 パスカルがリリーに与えた力、アルファド帝国の皇帝が手に入れた力、そして、封印の棺に封印されている力は、すべて同じもの。

「神の力……」

 一体、何なんだ?何の神の力?

 力そのものを指すのか?それとも、神自身を?

 どうして神が封印されてる?

 俺の予想では、あれは精霊が封印したもののはずなんだけど……。どうして精霊が、神を封印するんだ?それに、神だとしたら、どうして呪文の言葉が体の部位?

 ……そういえば、リックが言っていた。砂漠にも封印の棺があるって。

 砂漠に飛ぶ呪文はコッロ。その意味は心臓。

 あれを調べれば何か分かるのか?

『エル……』

「ん?……あぁ」

 どこまで聞いたっけ。

 リリーが封印解除の呪文を唱えて……。おそらく、神の力が出て来たんだろうけど。

「封印解除の呪文を唱える前と後で、リリーに何か変化があったのか?」

『変わったのはリリーじゃなくて、リュヌリアンみたいだよ』

「リュヌリアン?」

『リリーは一度、リュヌリアンで敵に向かって攻撃したんだ。でも、その時は、斬ったけど斬れなかったんだ』

「相手は亜精霊だったのか?」

『見た目にはそう見えたけど……。でも、リリーは全く手ごたえを感じてなかったみたいだし、違うみたい。リリーが封印解除の呪文を唱えた後、敵を斬ることが出来たから』

「剣の属性が変わったってことか?」

『アレクのエイルリオンはさ、もともと敵を切ることが出来たんだ。だから、同じようなものになったんじゃないかな』

「同じようなものって……」

 エイルリオンは、ラングリオンの初代国王が、神から託された剣だ。

 簡単に同じようなものになんてなれるのか?同じ神の力じゃないことは確かなんだけど。

『呪文の後は、リリーもアレクと同じように、相手の体を真っ二つにしてたからね。でも、あいつ、斬っても斬っても元通りに再生するんだよ』

「再生……?」

―精霊は、リンの宿るものによって切断されたものは再生できない。

「あり得ない。だって、アレクは、リンの宿るもので切断されたものは再生できないって言ってたのに」

『エル。エイルリオンは、リンの力が宿らない剣だ』

「リンの力が宿らない剣?」

 剣として生まれたものには、すべてリンの力が宿るはずなのに。

 ……いや。だから特別な剣なんだ。

 そして、リリーの剣も同じものになった。だとしたら、属性が変わったというよりは、リンの力を消しただけかもしれないな。

 つまり、通常の剣、リンの力の宿るものでは斬れない……?

「リンの力の宿るものでは斬れない敵って一体なんだ?亜精霊でもないし、人間でもなさそうだよな」

『わからないよ。ボク、事情も何も聞く前にこっちに来たんだからさ。姿は人間みたいだけど、人間じゃないみたいで。黒い槍の魔法を使って、アレクと対等に戦ってた』

「アレクと?」

 アレクと対等に戦える奴なんて居るのか?

「確か、最初に王家の敵って言ってたな」

 王家の敵。エイルリオンで戦わなければならない相手。それって……。

「アルファド帝国の皇帝……?ベネトナアシュ?」

 封印の棺から神の力を手に入れた、アルファド帝国。その力は、おそらく代々の皇帝に受け継がれ、アルファド帝国の発展に貢献した。

 しかし、その横暴な支配故に、別の神から信託を受けてエイルリオンを手にした初代国王と英雄たちによって滅ぼされることになった。

 殺されて首を切り落とされた最後の皇帝の名は、ベネトナアシュ。

 ……あれ?

 アレクとリリーが戦った相手がベネトナアシュだろうとなんだろうと、エイルリオンじゃないと倒せない相手に違いない。つまり、古い神の力を持った何か。

 これ、かなりやばいんじゃないのか。

 だって、次に起こる事って……。


―大陸を覆う地震が起き、不治の病が流行り、古い力が復活し、大地から伸びた手が世界を終わりに導く。

―終わりを延ばしたければその命を捧げよ。


 アレク……。

「アレクは俺と合流するつもりなんだよな」

『これからレイリスと一緒にセズディセット山の西を目指して、明日ウィリデの調査を行って、こっちに向かうって言ってたよ』

「……わかった」

 どういう方法を使うのかは、来てもらわないと解らないけど。

 これ以上、一人で考えても仕方ない。アレクとリリーと会うまで保留だ。

「そうだ。イリスに聞きたいことがあったんだ」

『何?』

「なんで、リリーは髪を切ったんだ?」

『え?髪?……リリーの?』

「そうだよ」

『気になるの?』

「気になるよ」

『だって、リリーが髪を切るか聞いた時は、どうでも良いって言ってたのに』

「どうでも良いなんて言ってない」

『えっ、そうなの?』

『あんなにリリーを怒らせたのにー?』

 何で怒ったのかわからない。

「好きにすれば良いって言ったじゃないか」

『どうでも良いって意味に聞こえたわ』

「なんで?切るか切らないかって聞くことじゃないだろ。……っていうか、どれぐらい切ったんだ」

 パーシバルから聞きそびれた。

『ねぇ、エルって本当は、リリーに髪を切って欲しくないの?』

「切って欲しくないよ」

 あんなに綺麗な髪を切るなんて。でも。

『どうしてそれを言わないんだ』

「切るか切らないかなんて、俺が言って変わることなのか?リリーは俺が何と言おうと、したいことをするだろ」

 だから、剣術大会に出場させない為の方法としてリュヌリアンを取り上げたんだから。

「それに、髪なんてすぐに伸びるんだから、リリーが切りたいなら反対する理由なんてない。きっと、短く切っても可愛いだろうし」

『あぁ。なんてわかりにくいの』

『たぶんそれ、ちっともリリーには伝わってないからね』

「なんで?全部、ちゃんと言っただろ」

『そうだったかなー?』

 言ったはずだけど。

 


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