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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
41/149

42 死んでも治らない

 錬金術研究所へ。

 そのまま二階にあるカミーユの研究室に入る。

 目の前に居るのは、セリーヌ、アシュー、ノエル、ルード。

「エル。どうしたんだ?」

「アリシア居るか?」

「本当にノックしないわよね。アリシア、エルが来たわよ」

 セリーヌに呼ばれて、研究所の奥に居たカミーユとアリシアが顔を上げる。

「エル?」

「エルロック。どうした?」

「これの血液型を調べてくれ」

「なんだ?それは。患者の汗か?」

「いいから。プリーギが入ってるから取り扱いには気をつけろよ」

 アリシアが血液型を診断する溶液を準備して、血液型を調べる。

「Θ-?存在しない血液型?」

 アリシアが実験用の血液の中に、サンプルの液を垂らす。

 実験用の血液が、どんどん透明に変わって行く。

「エル。どこで手に入れたんだ」

「プリーギが王都で流行った原因は?」

「地震による水脈の変化で、王都に流れ着いた病原が堀で増殖したってことになってるぜ」

「水中では増殖しないはずだけど。誰の調査結果だ?」

「所長がそう発表したんだ」

 アレクの指示で間違いなさそうだな。

「地震が原因の割には、流行までずいぶん時間があるけど」

「怪我をした状態で堀に入る奴が居なかったから、感染者が出なかった。その為発見が遅れ、新年のイベントで大量に感染したことが流行の発端だってさ」

 報告として上げるなら、そんなところなんだろう。

 ラングリオンで原因を作ったと言うわけにはいかないからな。

 病原は何処にでも存在するようなものだ。昔流行った病が、偶然によって再燃したって報告は、他国でも発生の恐れがあるという警鐘にもなるし、十分な調査報告だろう。

「グラシアルにも薬のレシピとサンプルを送ったところだ。その報告と共に、情報を近隣の国に広めるようにも頼んでいる。しかし。報告書の嘘を、私はどう受け止めるべきなんだ」

 大晦日に、怪我をしているリリーが堀に入って感染しなかったんだから、この調査結果が間違ってることをアリシアは知ってる。プリーギが堀に入り込んだのは、確実にその後なんだから。

「エルロック。この病は、もう流行することはないのか?この病原がどこから出たものなのか、お前は知っているのか?」

「知ってるけど教えられない。でも、この病が流行したのは本当に偶然だ。将来的にどこでも流行る可能性があるものに違いない。そういう意味で、この調査結果は信頼できる内容だよ。病原の完全な根絶は難しいから薬に頼るしかないんだ。……予防薬は出来たのか?」

「ほぼ完成だぜ。いくつか実験をしてみないといけないけどな」

「手伝うよ」

「それはありがたいけど。これをどこで手に入れたのか、本当に言う気ないのか?」

「アレクは知ってる」

 知っている上で出した調査結果だ。

「そうか」

「良かった。……なら大丈夫だよね」

「さ。実験に戻るわよ」

「この国の皇太子は、随分と信頼されているんだな」


 ※


 ドラゴン王国時代。人間が菜食だった可能性について考えたことがある。

 乳製品は使うが、肉や魚、卵は一切使わないレシピ本が見つかったから。あれは、俺が知ってるドラゴン王国時代の言語で書かれていたものだけど。

 それと似たような食べ物の選択をし、かなり食べ物の好みについて変なことを言っていたのがエレイン。

 肉や魚を食べているところは見なかった。食べてるのは野菜ばかり。

 乳製品については、チーズも好きじゃないって言っていた。その製法によっては、菜食主義者が食べない製法のものがあるからかもしれない。

 俺が作って持って行ったサンドイッチも、バゲットに詰めたのは野菜だったから食べていた。バターも塗ったけど気にしては居ないようだったから、食べられるんだろう。

 甘い物が好きじゃないって言っていた割には、コーヒーに砂糖を入れなければ飲めないと言っていた。観察してみると、朝食のパンに甘いジャムを塗っていたり、甘い物は好きなようだった。トマトのキャラメルも気に入って食べていたようだし。

 エレインは食べ物に関して、かなり気を使っている。気にしていた理由は、食べてはいけない成分を含んでいるものがあるからだろう。

 甘い物が好きじゃないと言ったのは、菓子の多くが卵をを含んでいるからだ。

 だから。エレインは……。


―あの子を巻き込むのはかわいそうだぜ。気づかないふりをしてやってくれ。

―こいつが血の中に居る限り、何を食っても平気なんだよ。


 転移の魔法陣について。

 あの魔法陣が、エレインの里の人間だけが使えるものであることは明らかだ。あれは呪文を知らなければ使えない。

 そして、エレインはグラシアルに飛ぶ魔法陣についてこう言っていた。

―失敗した人が居るみたい。だから使ってないわ。

―だから怖かったの。変なところに飛んで、捕まって。殺されるかと思ったわ。

 リリーはルミエールの本名も、ルミエールが世代交代しているという話しも知らなかった。だから、これはルミエールを直接知らない、外の人間の推測だ。

 エレインが言っていた、グラシアルに飛んで帰らなかった人間。それがルミエール。


―古い馴染みだ。リグニスとアルディアも、俺と同じ。


 昔から存在し続ける名工たちは、みんな……。

―ちゃん付けで呼ばないで。これでもあなたよりは年上よ。

 エレインは、自分が長寿であることを知っている。

 そして、自分と俺たちが違う人間であることも。


―千年以上も昔のことなんて忘れたな。


 クレアドラゴンとブラッドドラゴン。

 草食で、血の色が透明か無色のクレア。

 肉食で、血の色が赤いブラッド。

 それは、人間にも当てはまる。

 クレアとは、ブラッドよりも遥かに長命で、菜食で。おそらく肉食を行うことによって血が赤く染まる種族。

 プリーギが浄化という意味なのは、ブラッドに堕ちたクレアを、クレアに戻す役割を持つからなのだろう。

 けれど、それはブラッドとして生きる人間には毒にしかならない。……はずだった。

―有り得ない。男のクレアなんて。

―可能性として、考えてはいたけれどぉ。初めて見たわぁ。

 ガラハドは、以前にプリーギが流行った時代、光の勇者と魔王の時代にプリーギに感染し、浄化に適応したブラッドなんだろう。

 あの血液型。

 Θ-。

 これはクレアの血液型に違いない。

 ガラハドはもともと、ブラッドの中でも希少な血液型であるΘ+だったんだろう。

 ブラッドに堕ちたクレアは、Θ-からΘ+に血液型が変わる。それを戻す役割が、プリーギ。だから、もともとΘ+の血液型だったガラハドは、Θ-に変わってクレアに変化したのだ。


 新年のイベントの最中。傷を負ったガラハドが堀に落ち、ガラハドの血からプリーギが堀の水中に流れ出た。そして、一緒に落ちた怪我をした人々が一斉に感染し、王都に広まった。

 偶然だ。

 誰かが悪いわけじゃない。

 もしくは、ポラリスの予言によって、起こると決められていたことなんだろう。


 ※


「エル、私との約束覚えてる?」

「ロニー?」

 あれ?なんでここに?

 っていうか。研究室に居るの、カミーユとロニーだけ?

「お前が研究に集中してるから、他の連中は帰ったぜ」

「なんでロニーが?」

「あの二人をガラハドに預けたら、城に戻ってくるように言ったよね?」

「……忘れてた」

「そんな事だろうと思ったぜ」

「本当、エルって信じられないようなことをするよね」

「俺に用事なんてないだろ?」

「あるよ。これを渡したかったんだ」

 ロニーがそう言って目の前に瓶を置く。

「ワイン?」

「仕事を手伝ってくれたお礼」

「どこのワインだ?」

「セルメアだよ。珍しいからプレゼント」

 セルメアのワインか。

 あまり飲んだことないんだよな。

「用事はそれだけ。それじゃあね」

「あぁ」

 ロニーが研究室を出ていく。

「一緒に行かなくて良かったのか?」

「なんで?」

「お前、まだ死人やってるんだろ?城から出てたらまずいんじゃないのか?」

 一応、フードをかぶって歩いてはいるけど。

「カミーユ、一緒に飲もうぜ」

「はぁ?俺は明日も仕事なんだよ」

「一本ぐらい付き合えよ。明日からまた出かけなきゃいけないし、そのままカミーユの所に泊まって出かけるよ」

「勝手に決めるな」

「良いだろ?」

「……はいはい。好きにしろ」

『カミーユって、本当にエルに弱いよねー』

『エルは何を言っても聞かないと、諦めてるんだろう』


 研究所を出て、カミーユのアパートへ。

「夕飯、パスタで良いか?」

「何でも良いぜ」

 ワインのグラスを二つ用意して、真空の魔法でワインのコルクを吹き飛ばす。

「出来るまで待ってられないのかよ」

 ソファーに座って、グラスにワインを注ぐ。

 綺麗な赤。

 なんだか変わった匂いだな。

「乾杯しようぜ」

「わかったよ」

 料理を中断して、カミーユが来る。

 カミーユが持ったグラスに、自分のグラスを合わせる。

「乾杯」

「乾杯」

 匂いもそうだけど。味も変わってる。葡萄で作ったワインじゃないのか?これ。

「チーズとサラダでも食ってろ」

 カミーユがテーブルにチーズとサラダを置いてキッチンに戻る。

 一杯目のワインを飲み干して、グラスにワインを注いで、チーズをつまむ。

 そういえば、ロマーノ・ベリルは、赤はブラッド、白はクレアって呼ぶんだよな。

「この前、ロマーノ・ベリル・クレアを飲んだんだ」

「まじか。良く手に入ったな」

「アレクが買ってくれたんだ。すごく美味しかった」

 あれ……。

「どうやって手に入れたんだろう。すごく……」

 ん……?

「なんだって?聞こえなかった。もう一回言ってくれ」

「すごく、難しいと思うんだけど」

「何が?」

「手に入れるのが」

 なんか、変な感じだな。

「ロマーノ・ベリルを扱ってる商人は限られてるって話しだからな。酒屋に行っても、なかなか手に入らないぜ」

 グラスにワインを注いで飲む。

「そうじゃ、なくって……」

 あぁ、この感覚。酔ってるんだ。

 

 ※

 

「あなたのような美しい人に出会ったのは初めてです」

 あぁ。これ。

 養成所の時の、劇の台詞だ。

 サンドリヨンの劇。

「いいえ、少し言い方を変えましょう。私は王子として、婚約者を探す為、毎夜催される舞踏会で美しい娘と出会っています。しかし、私の心を揺り動かすような方には、一度も出会ったことがないのです」

 王子の愛の告白シーン。

 あの時は、ばたばたしていて。確か、即興でやったんだっけ。

「あなたの、その美しい瞳を見る瞬間まで」

 懐かしいな。

「私はあなたの虜になってしまったのです。この先、あなたなしでは生きられない」

 あの言葉が、すごく嬉しかったから。

「私はあなたに愛を誓いましょう。どうか私の愛を受け取ってはくれませんか」

 カミーユが手を差し伸べた手を。

「愛しい人。その手を取ってもよろしいでしょうか」

 迷わず受け取った。


 ※


『エル、気が付いたのか』

「ん……」

 体を起こす。

 ここ、どこだっけ?

 ソファーの上?ブランケット?

「お。ようやく起きたのか」

「カミーユ……?」

 向かいのソファーにカミーユが座ってる。

「酔っぱらうなんて、らしくないな」

 そうだっけ?

「パスタ食うか?」

「食べる」

 全然、寝る前のことが思い出せない。

 

「ほらよ」

 カミーユがテーブルにパスタを置く。

 焦がしバターときのこの香りが良い。

「美味い」

「どういたしまして」

「俺、どれぐらい寝てたんだ」

「俺がパスタを作って、食い終わるまでの間だ」

 思ったよりも時間は経ってなさそうだな。

「エル。少し、話したいことがあるんだ」

「話したいこと?」

「彼女と別れてさ」

「年末に一緒に居た相手?」

「そうだよ」

「そんなに好きな相手だったのか?」

「好きな相手と付き合ったことはないぜ」

「なんだそれ。じゃあ、今までずっと、好きでもない相手と付き合ってたのか」

「好きになれるかもしれないだろ?一番好きな相手のことを忘れられるかもしれないからさ」

「意味が解らない。一番好きな相手と付き合えよ」

「出来ないんだよ」

「なんで?」

「好き過ぎて。自分のものになることが想像できない」

 その気持ちは、わからなくもないけど。

「いつから好きなんだ」

「……もう、十年近いな」

「は?」

 十年って。

「それ、俺と会う前の話しか?」

「会った後だよ」

「俺が知ってる奴?」

「知ってる」

「同じクラス?」

「それ以上聞くな」

「全然気づかなかった」

「どうせお前は絶対気づかないと思ってたから心配するな」

『ただでさえ鈍感なエルには、一生無理よねぇ』

「そんなに好きなら告白しろよ」

「無理だ」

「なんで?」

「結婚したから」

「え?結婚?」

 同じクラスの奴で結婚した奴なんて居たっけ?

 ……シャルロが結婚したのも知らなかったからな。居たとしてもわからない。

「だからさ、エル。その子の代わりに、俺を振ってくれないか」

「俺が?告白する気があるなら、本人に言えば良いだろ」

「まともに言えないから、こうやって頼んでるんだろ」

「もう少し、頼む相手を考えられなかったのか」

「その自覚はあるのか」

 今まで、さんざん俺に一般の感覚からずれてるって言ったのはどこの誰だよ。

「頼むから聞いてくれ」

「わかったよ。その代り、俺は俺の返事しかできないからな」

「いいよ」

「後悔するなよ」

「後悔なんて好きになった時からしてる。……愛してる」

 ……?

「え?」

 ちょっと、待て。

「今ので終わりか?十年も好きだった相手に告白するのに、それだけ?」

「なんて言って欲しいんだよ」

「だって。サンドリヨンの劇の時はもっとちゃんと言ってただろ」

「はぁ?いつの話ししてるんだよ。……っていうか、覚えてるのか?お前」

「覚えてるよ」

「信じられないぐらい忘れっぽい、お前が?」

 酷い言われようだな。

「どうでも良い事はすぐに忘れる癖に、なんで、」

「どうでも良くないから覚えてるんだよ」

―あなたの、その美しい瞳を見る瞬間まで。

「俺の瞳を肯定的に捉える人間なんて全然居なかったから。劇の台詞でも、嬉しかった」

―私はあなたの虜になってしまったのです。

―この先、あなたなしでは生きられない。

「あなたなしでは生きられないって。その、好きな相手に言ってみろよ」

―愛しい人。

―その手を取ってもよろしいでしょうか。

「俺なら迷わずその手を取るぜ」

 だから、あの時。その手を取ったんだから。

「……エル」

「あ。でも、結婚してるんだったな」

「……そうだよ」

『エル。振ってあげるって言ったんだからぁ、ちゃんと振ってあげたらぁ?』

「じゃあ、振ってやる。俺はリリーを愛してるし、リリー以外に欲しいと思わない。結婚したってことは、そういう相手を見つけたってことだ。遅いんだよ。もっと早くに言え。もっと早く知ってたら、きっとカミーユを選んでた」

「なんだよ。その救いようのない振り方は」

「自業自得だ。先に言わないお前が悪いんだよ。ぐずぐず悩んでる暇があったら、とっとと自分のものにすれば良かったんだ」

「……あー、もう、信じられねぇ」

「最初に言っただろ。こんな話しの相手に俺を選んだのが悪いんだよ」

 カミーユがため息を吐く。

「あぁ。俺が間違ってたよ。……お前、救いようのない馬鹿だからな」

 ちゃんと協力してやったのに。

 


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