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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
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41 最強の異名

 ニバスでグリフと別れ、二十一日に王都に到着。

 ロニーに懐かないフランカとファルは、グリフの提案でガラハドに預けることになった。

「グリフが帰って来るまで、二人を頼む」

「俺の家は無駄に広いからな。子供の一人や二人、いつでも預かってやるぜ」

 パーシバルの時もそんなことを言っていたな。

 紫竜ケウス討伐の後、ローグがアレクの従騎士をやることになったから、ガラハドがパーシバルの面倒を見ていたのだ。そのまま三番隊に入ることになったわけだけど。

「三番隊の仕事を手伝いな。パーシバル」

「何やらせても良いんっすか?」

「あぁ」

「じゃあ、これからイーストの見回りに行くんで、ついて来てください」

「わかった。ファルはここで待ってろ」

「え?俺も行くよ」

「連れてってやりな。良い子にしてたらお菓子がもらえるかもしれないぜ」

「お菓子?」

「……ファル、行くぞ」

「了解」

 普通に、王都の案内をしてやるって言えば良いのに。

 パーシバルが、フランカとファルを連れて、いつも一緒に居るメンバーと宿舎を出ていく。

「今度はどこで拾って来たんだ?」

「俺が拾ったわけじゃない。グリフが引き取ったって言っただろ。詳しい事はグリフかロニーにでも聞けよ」

 近衛騎士の仕事の内容について、俺が話すわけにもいかないし。

 ただ。フランカの投げナイフの技術も、ファルの尾行の技術も。未成年の子供が身につけているとは思えないほど優秀なものだ。かなり小さい頃から密偵や暗殺者として育てられていたのは間違いない。

 でも、幼少期からそうやって育てられた人間なら完全に上司の命令に服従するはずだ。それなのに、二人は上司である子爵を裏切った。しかも、フランカは早い段階で俺の正体にも気づいていたのに、それをドーラ子爵には話していなかった。

 ……何か理由があるのか?

 今は何も聞かないでおくけど。

「暇なら稽古に付き合ってくれ」

 アレクが居ないから、剣術大会に向けた稽古が出来ない。

「良いぜ。それなら一つ、俺と賭けをしないか?」

「賭け?」

「お前が勝ったら、面白い事を一つ教えてやる」

「面白い事?……ガラハドが勝ったら?」

「そうだな。リリーシアが作ったレイピアでも貰うか」

「嫌だよ。あれは誰にも渡さない」

「じゃあ、エルが殿下の従騎士になるってのはどうだ」

「騎士になんてなりたくない」

「なら、賭けに値するな。好きな方を選んで良いぜ」

 嫌だって言ってるのに。

「賭けの内容が等価じゃないぞ。リリーが作ったレイピアや、俺が騎士になることを賭けられるほどの話しなのか」

「あぁ。それは間違いないぜ」

 どんな内容なんだ。

「エル。良いことを教えてやる」

「良いこと?」

「決闘や賭け事っていうのはな、勝つためにやるんじゃないんだ」

「?」

「運命を決める為にやるんだよ」

 運命か。

「わかった」

『えっ?』

 その意味は、身に染みてわかってる。

「その賭けに乗る。俺が負けたらアレクの従騎士になるよ」

『大丈夫なの?』

「そうこなくっちゃな」

『勝てるの?エル』

『難しそうだねー』

『大きな怪我をしなければ良いが』

 負ける気、ないけど。


「真剣勝負だ。剣を抜け」

 サーベルを抜いて、演習場の中央に立つ。

 ガラハドの得物は大剣か。

「ルールは、だいたい剣術大会と同じにしておくか。敗北条件は、敗北の宣言、所定の枠から出ること、得物を落とすこと。それから、剣による相手の一撃を食らうこと、だ」

『エル、頑張って!』

『相手はガラハドだ。無理はするな』

『気を付けてねぇ』

「ん」

 サーベルを構えると、ガラハドも大剣を構える。

「かかって来い」

 風の魔法で加速して、一気にガラハドの近くまで行って、下からサーベルで斬り上げる。

 振り降ろされた大剣がサーベルの刃に当たる。

 サーベルの角度を変えながら、振り降ろされた大剣の逆側、左手に移動し、大剣に当たったサーベルを持つ手首を返して、大剣の軌道上から外れたサーベルをガラハドに向かって振る。

「おぉ、上手いもんだな」

 大剣の柄で、ガラハドが攻撃を受け止める。

 続けてサーベルを突き刺すと、攻撃をかわしたガラハドに薙ぎ払われ、サーベルで受け流しながら二歩後退する。

 横から薙ぎ払われた大剣をかわして、サーベルで斬りつける。それを避けたガラハドに向かって、サーベルを斬り返したところで、横から大剣の攻撃を受けそうになり、跳躍してかわす。

 このまま風の魔法で浮き上がってガラハドの後ろに回ってサーベルを……。

 着地の直前で後ろ回し蹴りをされて、吹き飛ぶ。

『エル!』

 いってぇ。

 片手をついて受け身を取り、すぐにサーベルを構え直す。

「もう降参なんて言わないよな」

「言うわけないだろ」

 まだ斬られてない。

「エル。お前、右手でもサーベルは扱えるんだろ?」

「使えるけど」

「たまに持ち手を変えるっていうのも面白いかもしれないぜ」

 両手でサーベルを握って、右から左に薙ぎ払う。サーベルの刃が大剣とぶつかった瞬間、サーベルを右手だけで持って斬り返し、ガラハドに向かって突き刺す。

「こんな風に?」

 サーベルはガラハドの脇をすり抜ける。

「練習済みか」

 全然攻撃が当たらないな。

「アレクから剣術を習ってるんだ」

「そんなの、すぐにわかるぜ」

「わかるのか?」

「まだまだ殿下の真似だけどな」

 サーベルを弾かれて、後退する。

「大会で優勝できると思うか?」

「弱い奴しか出なければ勝てるぜ」

 そんな都合の良いことが起こるなんて考えられないけど。

「剣術大会で絶対に勝てない相手って誰だと思う?」

「なんだ?それは」

「不吉なことを言ってた奴が居たんだ」

「絶対に勝てない相手なんか居るわけないが。……ルールの穴でもついてるってことじゃないのか」

「ルールの穴?」

 剣術大会のルールは、相手を敗北させた方が勝ち。敗北条件は以下。


 敗北を認める。

 自分の得物を落とす。

 場外へ出る。

 魔法を使って相手に攻撃をする。

 審判が瀕死の判定を出す。

 相手を殺す。


 絶対に、相手に勝たせないようにする方法……。必ず相手を敗北させる方法がある?

 審判を買収なんてことは不可能だよな。審判が瀕死の判定を出すかどうかは、見た目で明らかな場合のみ。剣術大会は陛下とアレクが見てる前で行われるんだ。不正なんて不可能。

「ほら、よそ見をするな」

 目の前に大剣が降ってくる。

 サーベルを横に構えて受け止める。

 ……これ、やるなって言われてるんだよな。

 剣術大会は体力勝負でもある。次の相手と戦うことも考慮して、体力を残しておかなきゃいけないから、体力の削りあいになるような鍔迫り合いや、今みたいに自分が完全に不利になる体勢に持ち込まれそうになったら、なるべく回避するように言われているのだ。

 しかも相手は大剣だから、これはかなり不利な状況。

 ……あまり使いたくなかったけど、仕方ない。

 真空の魔法を込めて、大剣を自分のサーベルに引き寄せる。

 大剣の剣先を地面に押し付け、その下をくぐってすり抜け、ガラハドの右手へ逃げる。

「その魔法をもっと有効に使えば、簡単に優勝できるんじゃないのか」

「こんなの反則だろ」

 真空の魔法を使えば、上手くいけば相手の剣をこちらの意のままにできてしまう。

「リリーシアと戦った時のことを言ってるのか?」

「うるさいな」

 リリーみたいに強い相手と戦う時に、どこまで役に立つかわからない方法だけど。

「剣術大会で絶対に相手が勝てない技になると思うぜ」

『真空の精霊が人間に味方するなんて有り得ないわぁ』

 真空の精霊は、人間と契約したがらないから。

「この魔法を使う相手なら、俺には絶対に勝てないよ」

 魔力比べになるなら俺の方が有利だろうから。

 もし相手が真空の魔法を使ってくるなら、こっちも魔法で応戦する。

 間合いを取って、サーベルを構え直す。

 ……なんだか、色々試されてるな。

 実力は確実にガラハドの方が上。

「エル。ちゃんと狙って来い。剣術大会では、相手を傷つけることを目的に戦わないと勝てないぞ」

「狙ってるよ」

「殿下の従騎士になりたいって言うなら歓迎するが」

「嫌だって言ってるだろ」

「なら、勝ちに来い。俺も本気で行くぞ」

 最強の傭兵、ガラハド。

 決闘でも、戦場でも、誰もガラハドが血を流すところを見たことがないから、最強の二つ名を得たという。

 一撃でも当てられなきゃ、剣術大会で勝てる見込みがないかもしれない。

 深呼吸。

「良い目だ。かかって来い」

 当てる。

 風の魔法で加速する。

 振り降ろされた大剣を受け流し、一歩引く。

 さっきと攻撃の重さが違う。まともに受けていたら、確実に力負けして斬られる。

 続けて繰り出された攻撃も受け流す。……まだ、隙が見えない。

 もう一度。……違う。これは、たぶん誘われてる。

 繰り出される攻撃を剣で受けながら、後退する。

「後がないぞ」

 これ以上後退すれば、場外に出て敗北になるライン。

 大剣の攻撃を受け流しながら、左手に避ける。

 来た。

 続けて繰り出される攻撃を、両手にサーベルを握って受ける。

 そして、手首を返して……。

 ガラハドが後退しようと、大剣に込めた力を抜いた瞬間。

 サーベルに力を込めて、思いきり大剣を弾く。

「!」

 そして、右手で持ったサーベルでガラハドの腕を斬りつける。

 攻撃が、入った……?

「え?」

『これは……』

 ガラハドの腕には、切り傷が出来たはずなのに。

 なんで……?

「上手くやったな。攻撃すると見せかけて、全力で剣を弾きに来るとは思わなかったぜ。お前の勝ちだ」

『え?エル、勝ったの?』

 ガラハドが大剣を降ろす。

 俺は、確かに斬ったんだよな?

「言っただろ、お前が勝てば面白い事を教えてやるって」

『有り得ない。どういうことだ』

「これが、最強の異名の正体ってわけだ」

『ユール、何か知っているか?』

『あたしも、その存在を確認したのは初めてねぇ……』

『ユールも知らなかったのー?』

「傷の手当てをして来るから待ってな」

「俺が治す」

 ガラハドの腕に手を当てて、大地の魔法を使う。

「緑の魔法なんて、フラーダリーみたいだな」

「……同じ魔法だよ」

 魔法で傷が塞がる。

 普通の傷と同じ……?

『エル、先に確認しておくことが二つある』

「ガラハド、二つ、確認したいことがあるんだけど」

「何だ?」

『ガラハドは男なのか。クレアなのか』

「は?」

 今、何て言った?

「おい、どっから声出してるんだ?エル」

 それを、聞けって言うのか?

「変なこと聞いて良いか?」

「いいぜ」

「ガラハドは男だよな?」

 ……やっぱり、笑われた。

「そんなこと、初めて聞かれたぜ。お前はしょっちゅう聞かれてそうだけどな」

「うるさいな。良いからちゃんと答えろ」

「男に決まってるだろ。変なこと聞く奴だな。精霊にでも言われたのか」

「そうだよ。後、もう一つ。クレアなのか」

「クレアだぜ」

『有り得ない。男のクレアなんて』

『可能性として、考えてはいたけれどぉ。初めて見たわぁ』

「何の話しだ?」

「そうだな。どこから話すか」

 クレア……。

 クレアって、クレアドラゴンと同じ?

 クレアドラゴンの特徴は、草食で、血が透明か乳白色なこと。ブラッドドラゴンの特徴は、肉食で、血が赤いこと。

 透明な血。

 俺はつい最近、その存在を確認したばかりだ。

「サンプルをくれ」

「良いぜ」

 注射器を取り出し、ガラハドから血を抜く。

「取り扱いには気をつけろよ」

 この中に、プリーギが含まれている……?

「俺はどうせ感染しない」

「やっぱり、その瞳は特別なんだな」

「ロザリーをアレクに預けたのは、ガラハドか」

「そうだ。俺はメディシノの安置場所を幾つか知ってるからな。あんなさびれた遺跡に居るよりも、殿下に預けた方が安全だ」

「アレクはどこまで知ってるんだ」

 確か、新年にガラハドが堀に落ちたって、誰かが言っていた。

 プリーギの流行の原因は、おそらく……。

「全部話したぜ」

「そうか。なら良い」

「……エルは殿下に似てるな」

「似てる?どこが?」

「殿下がエルに似てるのかもしれないが」

「どういう意味だ?」

『兄弟ということだろう』

 兄弟って、そういうものなのか?

「エレインは?」

「あの子を巻き込むのはかわいそうだぜ。気づかないふりをしてやってくれ」

「食べ物は?」

「こいつが血の中に居る限り、何を食っても平気なんだよ」

「ルミエールって知ってるか?」

「古い馴染みだ。リグニスとアルディアも、俺と同じ。……なんだよ。せっかく俺がとっておきの秘密を教えてやったって言うのに、全部知ってたのか?」

「知らない。ずっと考えてたことの答えだから。確認をしたいだけだ」

「天才ってのは怖いね。どこでばれるかわかったもんじゃないな」

 俺だって。

 傷ついても赤い血を流さない人間の存在なんて。

 実際に目にしなければ、信じられない。

「何歳なんだ」

「千年以上も昔のことなんて忘れたな」

「千年だって?」

「俺はメディシノの国王から、メディシノが入った棺のことを聞いてるんだぜ」

 そうだ。

 ロザリーが棺に封印されたのは、ルミエールの短剣の鑑定結果と照らし合わせれば、千年前のはず。

「この辺にしておくか。続きはまた今度だ。フランカとファルが帰ってきたぜ」

 ファルが何かを持って走ってくる。

「エル!お土産だぜ」

 この匂い。

「ほら」

 ファルが紙袋の中身を開く。

「焼き栗か。そういえば、もうそんな季節だな」

 リリーのマロンケーキも美味しかったな。

 後から、フランカとパーシバルたちが来る。

「他にも色々あるんっすよ。お茶にしませんか?」

「本当に菓子を買って来たのか」

「それじゃあ、詰め所で休憩にするか」

「わっ」

 ガラハドがファルを肩車する。

「何するんだよ!」

「良い眺めだろ」

「兄貴、」

「諦めろ、ファル」

 ガラハドが楽しそうに笑いながら、フランカたちを連れて歩いて行く。

「隊長と何してたんっすか?」

「稽古だよ。剣術大会に出るから」

「エルロックさんが?」

「アレクの名代で……。あぁ、誰にも言うなよ。どうせ偽名で仮面被って出るんだから」

「はぁ……。なんで剣術大会って偽名で出て良いんっすかねぇ」

「王族が出たがるからじゃないのか」

「そうっすねぇ……」

「俺はこれから用事があるんだ。フランカとファルのこと、頼んだぜ」

「了解っす。……あ、瞳が赤に戻ってますよ」

 フランカとファルを預けに来るだけの予定だったから、今日は一滴しか使ってない。

 王都を歩くなら、もう一滴、使っておくか。

「不思議な薬っすね。その色になると、雰囲気変わります」

「逆だよ。ブラッドアイが珍し過ぎて、気を引くだけだ」

「俺は、ブラッドアイ以外のエルロックさんってなんか違う気がしますよ」

「違う?」

「上手く言えないんっすけど。あ、リリーシアさんから聞きましたよ。髪の長さの話し」

「何の話しだ?」

「……覚えてないんっすか?」

『リリーに髪を切るか聞かれたじゃない』

 あぁ。遺跡に行く日の朝の話しだっけ?

「切ったんですよ。髪」

「え?」

『えっ?』

『切ったのぉ?』

「なんで?」

 パーシバルが笑う。

「切って欲しくないなら、ちゃんと言わなきゃダメじゃないっすか」

 ……切って欲しくないわけじゃないけど。

「髪なんてすぐにのびるし、自分のことなんて、自分で決めるものだろ」

「そんなことだから、リリーシアさんを怒らせるんですよ」

「……俺のせいで切ったのか?」

「本人に聞いてみたらどうっすか?」

 リリー。なんで……。

 次、リリーに会えるの、いつなんだ。

 


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