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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
38/149

39 誰が敵で誰が味方か

 その後は何事もなく、陽が昇る頃には目的地に到着した。

 二階建ての屋敷。

「到着を知らせて来るから、ここで待機していてくれ」

 ディフが屋敷の方へ走って行く。

 隣接した街のない屋敷。作りが古いから、建てられたのはかなり昔だろう。

 貴族の別邸にしては、手入れがあまりされてないように感じる。特別、愛でるべき場所もないし。

 昔は誰かが使ってたけど今は使われてない空き家かな。

 最初に馬車が出た時は東に向かっていたはずだ。馬車で一晩で到着する距離で、街道を使わずに森を通り抜けて来たんだから……。王都からそんなに離れた場所じゃないだろう。

 ここはただの中継地点か、クロエの誘拐を指示した相手と合流する場所なんだろうけど。

「お待たせいたしました。ご案内いたしますので、こちらへ」

「はい」

 兵士について行く。

「お前らはこっちだ」

『グリフとは別行動だな』


 ※


「こちらへどうぞ」

 通されたのは二階にある一室。

『部屋の中には誰も居ない』

 兵士が開いた部屋の中に入る。

「こちらで、しばらくお待ちください」

 後ろで扉が閉まり、鍵がかかる。

 さて。どうするかな。

「屋内には何人ぐらい居るんだ?」

『十人も居ないと思うが』

「グリフたちを入れて?」

『おそらく』

 次の指示待ちかな。

 窓を開いて外を眺める。

 本当に何もないところだ。

『大人しく待ってるの?』

「グリフは何も言ってなかったからな」

『エルが何かする必要なんてないわよぉ』

 暇だから、本でも読んで待ってるか。

 窓辺に椅子を持って来て、椅子に座って本を開く。

『外の監視をしておこう』

『そうだねー』

『誰か来るの?』

『可能性がある』

『誘拐されてる割りにのんびりしてるわね』

『危害を加えられることはまずないからな』

『ふふふ。今は囚われのお姫様だもんねぇ』

「誰がお姫様だよ」


 ※


『馬車が到着した』

『あれ、見たことある人だわ』

『ドーラ子爵だ』

 確か、娘のアルシオーヌを会わせに来てたな。

 クロエの誘拐を指示したのはドーラ子爵?

 俺の協力が必要だったのは、クロエと直接会ったことがある相手だったからか。

『プレートアーマーなんて、どこかの置物みたいな装備ねぇ』

『プレートアーマー?』

『全身を覆う鎧のことだ』

『子爵の傍に居る人?』

『近衛騎士だろうな』

『ほかにも大勢兵士を連れてるな』

『十人以上居るわねぇ』

 なんでそんな装備の部隊を引き連れて来たんだ。

『エル。誰か来る』

 え?馬車が到着した直後に?

『ロニーだ』

 鍵の開く音がして、ノックもなしに扉が開く。

「久しぶりだね、エル」

「久しぶり」

 一人みたいだな。

「遅くなってごめんね。そのまま椅子に座ってていいよ」

 本を閉じて仕舞うと、ロニーが椅子ごと俺を縛る。

「何か手伝うことは?」

「大人しくしていてくれれば良いよ」

 何もするなってことか。

「エルは本当に素直だね」

「もう少し普通に頼めないのかよ」

「口開けて」

 口を開くと、ロニーがドロップを放り込む。

「持続時間が長い改良品」

「甘い」

「乱暴に扱われなかった?」

「平気。傷一つつけるなって命令を出したのはお前か」

「もちろん。アレクの大切な人に何かあったら大問題だからね」

「俺は替え玉だろ」

「今も昔も、アレクが大切にしてる相手だよ」

「なら、なんで馬車を襲わせたんだ」

「何の話し?」

「お前じゃないのか?」

『誰か来る』

「違うよ」

 じゃあ、一体誰が?

 尾行がないことはディフが確認済みなのに。

 扉が開いて子爵が入ってくる。

『部屋の外に、複数の人間を待機させてるな』

 さっきの兵士か?

「ヴェロニク。先に接触するなと言っておいただろう」

「子爵。それ以上近づかないで」

 近づいて来ようとする子爵の動きをロニーが止める。

「文句を言いたいのはこっちだよ。乱暴に扱うなって散々忠告したのに、この部屋に来てみたらクロエは縛られているし、一体何をするつもりなの」

 俺を縛ったのはお前だろ。

「いや、それは手違いだ。彼女を縛るつもりなんてなかったんだ」

「信用できないな。それ以上クロエに近づくなら斬るからね」

 ロニーが自分の剣に手をかける。

「落ちつけ。わかった、話し合いをしよう」

「彼女がアレクの大切な人だってわかってるよね?」

「あぁ、間違いない。私も一度会っているからな。……クロエ、私のことは覚えているか?」

「一度お会いしましたね」

「子爵、私は剣術大会が終わるまでクロエを預かってって頼んだだけだよ。今からこんな扱いをされるんじゃ、このままクロエを預けておくなんてできないんだけど?」

 内通者はロニー本人か。

「預けるも何も。もう彼女は私のものだ」

「何言ってるの。クロエは主君のものだよ」

「わからないか?彼女を手中に収めることが何を意味するのか」

「わからないな」

「大会で優勝できるほどの剣術の腕を持ち、魔法使いとしての才能にも溢れた最強の騎士にして、国民からの人気は絶大、有力な貴族を完全に掌握し、次の国王として申し分ない完璧な存在」

「竜殺しにして美しきビオラの君。称える言葉に尽きない、私の主君のことだね」

「そうだ。その皇太子の、唯一といっても良い弱みがここに在るんだ。彼女さえ手に入れば、望みはいくらでも叶うんだぞ」

「本気でそんなこと思ってるの?」

「本気だ。どうだ、このまま内通者として私たちの仲間にならないか」

「内通者?私が主君を裏切っているとでも言いたいの?勘違いしないで欲しいな。主君がクロエを大切にするのは構わないけれど、クロエが将来の王妃になるなんて考えられない。だから、同じ考えの子爵に協力を頼んだんじゃないか」

「現にクロエが私の手の内に入るように画策したのはお前だぞ。殿下がお前を許すと思うのか。このまま仲間になる方がよっぽど良いだろう」

「冗談じゃない。どうして三等騎士である私が従属しなければいけないの」

「従属じゃない。仲間だ」

「仲間?リーダーは子爵じゃないってこと?」

「ラングフォルド辺境伯だ」

 どこの辺境伯だっけ。名前しか覚えてないな。

「あぁ……。あの田舎者」

「田舎者とはなんだ」

「田舎者じゃない。古い風習にしがみついて馬鹿をやったからアレクに粛清された辺境伯だね。未だに伯爵の地位を持ってるのが信じられないぐらいの小物だ。あんなのの下に付くなんて御免だね。よっぽど有能な子爵がたくさん居るのに」

「仲間にはカンタール子爵もモール子爵も居る」

「ちょっと数字に強いからって、小麦の横領を行っていたカンタール子爵に、アスカロン湾の利権の件で失脚したモール子爵ね。他に居ないの?もう少しましな人」

 子爵が舌打ちをする。

 アレクの敵は、ラングフォルド辺境伯、カンタール子爵、モール子爵とドーラ子爵。

「もう居ないの?」

 ……沈黙。

 居ないのか、どうしても口にしてはいけない相手なのか。

「くそっ。交渉は決裂だ。始末しろ!」

 扉が開いて、兵士が入ってくる。

「こんな狭いところで戦ってクロエに傷がついたらどうしてくれるの」

 ロニーが短剣で俺を縛っているロープを斬って、俺を抱える。

「逃がすか!」

「下で待ってるよ」

 そして、そのまま窓の外へ飛び降りる。

「離せ」

「暴れないで」

 ロニーがそのまま着地する。

 これ、魔法使ってないよな。

「大丈夫か?」

「私の心配してたの?エルは軽いから平気だよ」

 屋敷の中から兵士が出てくる。

 さっきの連中とは別部隊だろう。

「大人しくしててくれる?」

「冗談じゃない」

 ロニーが剣を抜くのに合わせて、アレクのサーベルを抜く。

「戦うメイドなんて聞いたことがないよ」

「エミリーから教わったって言うからいいよ」

 ずっと大人しくしてるのも飽きたから。

「アレクに怒られるな」

 近衛騎士の仕事に俺を巻き込んだことを、アレクは良く思わないだろうからな。

「弓兵を警戒してくれ」

『了解』

 ロニーが光の魔法で、一か所に固まっている兵士を攻撃する。

 眩しい。闇の魔法で視界を良好にして、一人目に斬りかかる。

 交差した剣を力で押し切って弾き、相手を薙ぎ払う。

 向かって来た二人目の攻撃をかわして蹴り上げて、左手の三人目に向かってサーベルを振り降ろす。その勢いのまま弧を描いて、後ろに居る四人目を斬り上げる。

 右手から再度攻撃を仕掛けて来たのは二人目の兵士。相手が振り上げた剣の下をくぐって移動し、後ろからその兵士を斬りつける。

 流石、アレクのサーベルだな。切れ味が良すぎて、気をつけて戦わないと致命傷を与えかねない。

 サーベルを鞘に仕舞う。

「相変わらずエルは甘いね」

 屋敷の扉が開いて、子爵と数人の兵士が現れる。

 あれ?あのプレートアーマーはどこに行ったんだ?

「なっ、私の部隊が!」

「皇太子の近衛騎士を何だと思ってるの?子爵。私を殺そうとした報いは受けてもらうよ」

「行け!全員、かかれ!」

 ロニーが光の矢を放つ。

「あれを!クロエを捕まえろ!」

 向かって来る兵士を、ロニーが薙ぎ払っていく。

 俺に近づける気はなさそうだな。

「ガヘリス!どこに行っていたんだ!」

 屋敷の扉を開いて現れたのは、プレートアーマー。

『扉の影にディフとセイムが居る』

 扉を開きっぱなしにして出て来たのは、二人がこちらの様子をうかがえるようにする為?

『セイムが移動したな』

 ってことは。屋内を移動して俺の近くに来るのかな。

 俺の立ち位置は窓辺だし。

「ガヘリス、かかれ!」

「そんな重い鎧で私と戦おうって言うの」

 ガヘリスと呼ばれたプレートアーマーが剣を抜く。

 ……あれ?

「行くよ」

 ロニーが振り下ろした剣をガヘリスがはじいて剣を伸ばす。ロニーはその剣を軽くかわして、アーマーに攻撃を加えると、アーマーに傷がつく。

「そのアーマーは特注品だ。そんな貧弱な剣で斬れるわけがないだろう」

 ロニーの愛剣が貧弱な剣なわけないだろ。

 それに、どんな鎧にも必ず弱点がある。ロニーがそれを狙わないと思えないけど……、狙わないみたいだな。

 何度か剣が交差する。ロニーの方が有利。

 ガヘリスの方は、少し動きが硬い。明らかに鎧を着ないで戦った方が良いだろう。

 二人が鍔迫り合いをしている最中、複数の投げナイフがロニーに向かって放たれる。

 ロニーがそれをかわして数歩移動したところで。

『エル、後ろだ』

 後ろから延びた腕に捕まった。

「大人しくしていてください」

 窓を開く音も聞こえなかったな。

 羽交い絞めにされただけで、セイムは武器を持っていない。

「良くやった!」

 子爵がそう言ったけれど、ロニーは構わず戦ってる。

『ディフも移動したな』

 こっちに来るのかな。

「クロエがどうなっても良いのか!」

「私に言ってるの?それ」

「大人しくしろ!」

「馬鹿だな。取引に応じる材料がないよ。子爵はクロエを殺さない。殺してしまえば取引に使えないからね。今、この場にクロエを救えるのは私だけ。それなら私が君たちを一掃してクロエを連れ帰るのが一番良いと思わない?」

 クロエが死んで困るのは子爵で、クロエを死んでも守らなければならないのがロニー。

 だから、この場合。

 子爵が俺の身柄を拘束しに来るよりも、ロニーの味方が俺を拘束したふりをするのが理想的な形なんだけど。

「セイム。お前はどっちの味方なんだ?」

「え?」

『エル。警戒しろ』

 警戒?

 炎の魔法を込めた闇の玉を作る。

「そんなの、兄貴に聞かないと……、」

 時間が許す限り、作っておくかな。

 警戒……。

 新手が居るってことだよな。

 たぶん、馬車を襲撃した連中。

 ロニーじゃないなら、他にもクロエを狙っている奴がいるに違いないから。

『ディフも来た』

「兄貴!えっと……」

「離して欲しいんだけど」

「……セイム、離してやれ」

 セイムが俺を離す。

「ヴェロニク様!新手です」

 ロニーに聞こえるように声を上げると、ロニーとガヘリスが戦闘をやめて、屋敷の門を見る。

「ガヘリス、何をやってる!」

 屋敷の門から、ローブを着た集団が現れる。

 ローブに描かれた紋章は……。

「神聖王国の魔法使い?」

「援軍か!」

 援軍?

 子爵が走って行くと、集団の中から一人が前に出る。

「クロエの誘拐、ご苦労様でした。彼女はこちらで預かります」

「なんだって?約束が違う。彼女はこの後、ラングフォルド辺境伯の元に運ぶ予定だ」

「伯爵の馬車はここには来ません」

「どういうことだ」

「我々の主も、ラングリオンの皇太子を惑わした吸血鬼に興味があるというわけです。吸血鬼が救世主などと呼ばれては困りますから」

「ふぅん。主君の敵対者を集めてクロエを誘拐させて、横取りしようって考えていたわけ?」

「我々が関わっているという痕跡は残せませんから」

「クロエを護送中の馬車を襲ったのも君ってこと?」

「子爵が関わるとうるさいですから」

「騙したのか!」

「まさか、神聖王国の有名な神官が引っかかってくれるとは思わなかったな」

「余裕ですね。いくら皇太子の近衛騎士といえども、魔法使い十人を相手に戦えますか?」

「そうだね。一人だとちょっときついかな」

「子爵。どちらの味方に付きますか?」

「くそっ、ガヘリス、ヴェロニクを殺せ!」

「良い選択です」

「そんなところに居て、巻き込まれても知らないよ」

 まだ仕掛けないのかな。

 闇の玉が二十個も出来たんだけど。

 闇の魔法も十分集めたし。

「お前ら、屋敷に隠れてろよ」

「クロエさん?」

「違う。そいつは……」

 魔法使いたちが散開して、ロニーに向かって複数の光の矢を降らせる。

 神聖王国の魔法使いなら光の魔法を使うに決まってるからな。

 十分に集めた闇の魔法で、光の矢を包んで消す。

「消えた……」

 ロニーとガヘリスが、魔法使いに向かって走って行く。

 二人の周囲に闇の玉を移動させ、闇の魔法で相手の魔法使いの影を縛る。

 炎の魔法がいくつか発動して、悲鳴が上がる。

 闇の魔法の効果に気付いた神官が、闇の魔法の効果を消す。……光の魔法が使えるなら効果を相殺できるからな。

「クロエの確保を!」

 乱戦区域から離脱した魔法使いの一人がこちらに向かって来る。

 魔法を使おうとしたところで、後ろから複数のナイフが飛んで、魔法使いを攻撃する。

「いつから味方なんだ?お前たち」

「さっき」

「は?」

「ガヘリスを倒すのを手伝わされたんだ」

「なんで手伝ったんだよ」

「ぶっ殺したいほど嫌な奴だから」

「なら仕方ないな」

「クロエって、本当は口が悪いのか」

「メイドの修業の厳しさは教えてやっただろ」

 ディフが投げナイフを放つ。

 そのナイフの先に居る魔法使いに向かって闇の玉を二つ放つと、魔法使いが悲鳴を上げて倒れる。

 視線をロニーの方に向けると、ずっと乱戦区域でうずくまっていたドーラ子爵と、神聖王国の神官が縛られていた。

「ガヘリス、どういうことだ」

「いいかげん、部下の剣が違うことぐらい気づいたらどうなんだ?」

 グリフが兜を外す。

「お、お前は……、常盤のグリフレッド」

「もう鎧脱いで良いか?動きにくくて仕方ないんだよ」

 ロニーと茶番を演じてたグリフが鎧を外す。

「終わったみたいだな」

 


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