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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
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38 作法見習いの成果

 食事が終わって、外がすっかり暗くなるのを待って馬車に移動する。

 装飾は派手じゃないけど、悪くない馬車だ。

 アレクの敵対者か……。

 有名な貴族の名前が出て来なきゃいいけど。

「殿下とはどこで会ったんですか?」

 セイムだっけ。敬語なんて使わなくて良いのに。

 グリフとセイムは俺の護衛と称して、近い席に座ってる。

 御者のウォールの隣に居るハンドが前方の警戒を、ディフが後ろの席で後方を警戒している。

「昔、助けていただいたことがあったんです」

「へぇ」

「吸血鬼種と罵られて、大勢に囲まれているところを。誰も助けてはくれない中、殿下だけは私に手を差し伸べて下さいました」

 ……昔、そんなことがあったっけ。

 吸血鬼種というだけで何をしても良い風潮があったから。

 今はきっと、王都でだって、そんなことはないと思うけど。

「いつから殿下のところで働いてたんですか?」

 どこまで話すかな……。

 言葉に詰まっていると、後ろから声がかかる。

「俺たちは、殿下から直接護衛を仰せつかってる。何を話してくれても守秘義務は守る」

 会話は全部聞いてるんだな。

 情報を引き出せるだけ引き出そうって魂胆か。

「城で働くようになったのは最近のことです。新年の外遊中にお会いしました。メイドとして働くことを勧められて、後日、その時に頂いた手紙を持って王城に向かったんです」

「会ったのは偶然だったのか?」

 こっちも探りを入れてみるか。

「もう一度お会いしたいと思っていましたから。殿下と会えるように取り計らってくれた方が居たんです」

「誰だ?」

「王都の薬屋とおっしゃられておりましたよ」

「薬屋?」

「……もしかして、黄昏の」

 前に居るハンドも聞いてるのか。

 俺のことも知ってるみたいだな。

「え?死んだんじゃ?」

「死んだって噂と、生きてるって噂が混在してるからな」

 混在してるのか。

「俺は死んだなんて思ってないが」

「ディフ?」

「家族が喪服を着てるのに、なんで?」

 リリーのことか。

「勘だ」

 ……この辺で話しを切り上げておくか。

「何のお話しですか?」

「……なんでもない。その薬屋の容姿は?」

「詳しくは覚えていませんが、金髪碧眼だったと思います」

「え?碧眼?」

「そうか」

 俺が薬屋であることも、ブラッドアイであることも、アレクと繋がりのある人間だってことも知ってて、俺が死んだことについて疑問を抱いているなら、クロエの正体に気付きそうなものだけど。

 気づかないから、散々噂に振り回されて、今はクロエを誘拐することになんてなったんだろう。

 あ、内通者が居るんだっけ。

「あの、それで、お城に行って、殿下の元で働くことになったんですか?」

「はい。エミリー様が、メイドの修業をしてくださいましたから」

「エミリー?」

「殿下の書斎を任されているメイドです」

「メイドにも修行が必要なんですか?」

 仕事をするのに何の勉強もしないなんて考えられないけど。

「はい。ものすごく厳しい修行でした」

「厳しい修行?」

「それは、もう。皇太子殿下の書斎で働くということは……」

 いくらでも話してやるぜ。

 本当に、厳しかったから。

『作法練習じゃなかったのね、あれ』

『エミリーって完璧主義者よねぇ』


 ※


「……大変なんですね」

 話しを真面目に聞いていたセイムが少しぐったりしている。

 区切りの良いところまで愚痴れたし。そろそろ休むかな。

「少し休んでもよろしいでしょうか」

「あぁ。まだ先は長い。ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」

 脇にあるブランケットをかけて、背もたれにもたれかかって目を閉じる。

 丁度、口の中のドロップも無くなって来た。


「大したことは聞けなかったな」

「この人、ただのメイドじゃないのか?」

 グリフが笑う。

「話しを聞く限りそうだけどな」

 本当にメイドの仕事をやってたんだからしょうがない。

「でも、メイドなんていくらでもいるだろ?わざわざ一からメイドの修業させたってことは、それぐらい傍に置いておきたかった相手ってことじゃないのか?」

「兄貴、どう思う?」

「フレッドの言う通りだ。自分の書斎のメイドに面倒を任せるなんて、特別扱いに違いない」

「でもさ、寵姫なのに普通に働かせるなんて。もっとこう、良い生活してそうなもんだけど」

「メイドの修業ってのは、貴族の令嬢もする」

「え?」

「作法見習いだからな。貴族と渡り合うのに必要な礼儀作法を身に着けるんだ」

 良く知ってるな。

「花嫁修業ってことなのか」

「そんなところだ」

 自分より上級の家に、貴族の令嬢が作法見習いに行くのは良くあることだ。

 そこで見初められれば位の高い相手の家に嫁げるし、その家との繋がりができる。貴族の令嬢にとって、どこで作法見習いをしたかは社会的地位を示す指標になるのだ。要するに、婚姻に有利になる。

 養成所に通ってる連中には全く関係ないことだけど。

 馬車の揺れが心地良い。本当に眠くなってきた。

 俺がやることなんて特になさそうだから、寝てようかな。


 ※


「襲撃だ!」

 え?

「セイム、彼女を連れて隠れてろ。ハンド、フレッド、ウォール、行くぞ」

「クロエさん、こちらへ」

 手招きをされて、馬車を降りる。

「暗いので足元に気をつけて下さい。手を貸しますか?」

『喋っちゃだめよぉ?』

 口を開きかけて、首を横に振る。

「ついて来てください」

 セイムについて木々の合間を小走りで移動しながら、ポケットのドロップを口に入れる。

「どこに行くんですか?」

「隠れられそうな場所を探して、隠れるんです」

 いつの間に森に入ってたんだ。

 寝てたから気づかなかったな。

「敵は誰ですか?」

「えっと……、敵は敵です。あなたに危害を加えようとしてる人です」

 クロエに危害を加えなければいけない人間なんて想像つかないけど。

『様子を見てきてあげようかぁ?』

『オイラも行くよー』

『私も行くわ』

『メラニー、エルをお願いねぇ』

『了解。危険があったら知らせてくれ』

『わかったわ』

『まかせてー』

「この辺りに隠れていましょう」

 遠くで金属と金属がぶつかる音が聞こえる。

 グリフが居るなら何人に囲まれたって平気だろうけど。

「いつまで隠れているんですか?」

「騒ぎが収まったら、木に登って様子を見るんで待っててください」


 ※


 しばらくして、金属の音が止む。

「見てきます」

 セイムが軽い足取りで木の上に登る。

『ただいま』

『ただいまー』

『ただいまぁ』

「おかえり」

『相手は八人。特に見どころもなかったわよぉ』

『近衛騎士ってすごいのね。あっという間に倒しちゃったわ』

 魔法使いは居なかったってことかな。

『木の上の弓使いは、別の人が倒したみたいだけど』

『ディフは、投げナイフの名手みたいだよー』

 投げナイフなんて、暗殺用の技術じゃないか。相当訓練しないと的に当てるのは難しい。

 見上げると、セイムが木の枝から跳躍して降りてきた。高所からの着地にしては、静かな着地だ。

 ……セイムの動きといい。二人とも暗殺者として育てられたんじゃないのか?

「無事に終わったみたいです。馬車に戻りましょう」

「はい」

 セイムに続いて、来た道を戻る。

『エルが戦わないなんて変な感じね』

『戦わせちゃまずいからじゃなぁい?』

『どういうこと?』

『そのままの意味よぉ』

『すぐになんにでも首を突っ込むから利用されるんだ』

 今回は、俺が首を突っ込んだわけじゃなくて、巻き込まれただけなんだけど。

 


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