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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
35/149

36 能ある鷹は爪を隠す

「クロエ。借りにも彼女なんだから、もう少し可愛げのある態度を取ったらどうだ」

「フェリックス様の彼女になった覚えはありません」

「黒髪と金髪のカップルがうろついてるって情報を広めたいって言ったのはお前だぞ」

「その通りです。演技で構いませんので、お願いしますね」

「お前、本当は女なんじゃねーの?」

 思い切り、殴ろうとした瞬間。

 そのまま腕を引かれる。

「非力だな」

『リック。離せ』

『エルに何かしようとしたら、ただじゃすまないわよぉ』

『エル、一人で行動した方が良いんじゃない?』

『アレクなら王都の外で捕まるようなことはしないだろう。陽動など必要ない』

『こんな馬鹿と一緒に居る必要ないわ』

「お前ら、俺が聞こえると思って散々なこと言いやがって」

 ようやく腕を離された。

『自業自得じゃないー?』

『からかうのも大概にしろ』

「あー、うるさい」

「独り言ですか?フェリックス様」

「嫁の方が力あるんじゃねーのか?」

「あるでしょうね」

「いいのかよ、それで」

「何か問題がありますか?」

「なんつーか。お前の好みって変わってるんだな」

 別にわかってもらいたいと思わないけど。

 

 街に入ろうとしたところで、兵士に止められる。

「失礼ですが、身分証を見せて頂いてもよろしいでしょうか」

「ほらよ」

 リックが身分証を見せる。

「これは俺のメイドだ。文句は言わせないぞ」

「フェリックス王子殿下でしたか」

 菫のマントに剣花の紋章のついたサーベルを持ってるからな。なんだかんだ言って兄弟の顔は似てる。王族の顔なんて、直接会ったことがない限り見間違えるだろう。

 しかも、右目に眼帯なんてどう考えてもアレクの変装だ。

 菫眼と碧眼のオッドアイはアレクの代名詞。アレクはどうしてもそれを隠さなければならないから。

 検問早いな……。

 アレク、上手くやってると良いけど。

「名前を伺ってよろしいでしょうか」

「クロエと申します」

「ご協力ありがとうございます」

「じゃあな」

 っていうか。俺は身分証なしで良いのか。

「いつもこんなことしてるんですか」

「王族に従者の一人や二人ついてるのは当たり前だろ」

 一人や二人じゃ絶対に足りないだろうけど。

「身分証持ってるのか?」

 自分の名前のは持ってるけど。あれを出すつもりはない。

「秘書官の官位章があります」

 それで何とかなる。

「そういやそうだったな。で?ここは感染者の報告がある街なんだっけ?」

「領主様に会いに行きましょう」

 誰だったかな。

 王都の周辺の街や土地は、王都に住んでる貴族や騎士の血縁が、国王から任命を受けて管理を任されている。任されていると言っても、実質、世襲制なんだけど。

 領主への面会を頼んで、医者の同席を頼むと、すぐに医者をそろえた面会の場が用意された。

 一国の王子殿下を待たせるようなことはしないだろう。

「ようこそ、フェリックス様」

「急な面会の申し出を受けてくれて感謝するよ」

 まともに喋ってたら喋ってたで、ちょっと違和感あるな。

「いえ、滅相もございません」

「早速用件を話そう。クロエ」

「はい。王都から派遣された、医者のクロエと申します」

「お噂は聞いております。あなたがこの病気の救世主ですね」

「救世主?」

「ご存知ありませんか。今蔓延している病が、吸血鬼種だけが治せる病だと耳にしております」

 そんな噂が流れてるのか。ロザリーのことだろうけど……。

 噂を広めてるのは誰だ?アレク?

「吸血鬼種の救世主ね」

「いえ、お気に障る表現でしたら申し訳ありません」

 威圧するなよ、リック。

「構いません。私が吸血鬼種であるのは事実です。もし呼んでいただけるのでしたら、メディシノと呼んでいただけると幸いです」

「メディシノ?」

「はい。古い言葉で医者を表します。……王都で開発された新薬をお持ちいたしました。この薬を患者に注射することで、すぐに容体は改善します。しかし、この病は感染によって抗体が出来ることはありません。現在、予防薬も開発中ですが、完成までは、薬による治療に頼ることになります」

 持っていた薬箱を出す。

「病気の判断が難しい場合は、こちらの診断キットをご利用ください」

 それから、病気の診断キット。

 どっちも研究所で作ったものを貰って来た。

「それはありがたいです」

「薬が量産され次第、もっと多くの薬が届くでしょう。重症患者から順に治療を行ってください。私はこの病について詳しい知識を持っています。何かご質問はありますか?」


 ※


 医者の質問にいくつか答えて、ランチの誘いを断って、リックと一緒に適当なレストランでランチを食べる。

 食事の最中はドロップを舐められないから、声を変えられない。

「お前、そんなに軽装なのに、どこから出したんだ?あの薬」

「ん。……リックにもやるよ。圧縮収納袋」

「なんだそれ?」

「アイテム袋。その口を通るやつで、薬や布、紙なら縮んでいくらでも入る。武具とか宝石とか、鉱物でできたものは縮まないから入らない。その中には俺が作った薬がいくつか入ってるから試してみろよ」

「口調戻ってるぞ」

「ん」

 声を変えてないから忘れてた。

『エル、喋る必要はない』

『そうよ。その恰好で男声って変だもの』

 リックが中から何か出す。

「金貨?」

 ……あ。忘れてた。

「ほらよ」

 リックから金貨を受け取る。

「で?薬がいくつかとマント……。おぉ、こりゃあ便利だな。どこで売ってるんだ?」

『売ってないわよぉ』

『エルが作ったものだ』

「天才錬金術師の名は伊達じゃないな」

 この金貨。

 何かに加工しようかな。

『なんであの金貨だけ別の袋に入れてたの?』

『大事なものだからでしょぉ?』

『……あ、もしかして、あの時の?』

『あの時?』

『アンジュは知らないだろうな』

『後で教えてあげるねぇ』

「いわくつきの物なのか」

『あんたになんか教えないわよぉ』

「おい、この性格の悪い精霊をどうにかしろ」

 ユールは好き嫌いが激しいからな。

 ドロップを舐める。

「ごちそうさま」

「ようやく食い終わったのか。すぐに次の街を目指すか?」

 頷く。

 あと一つ、回れるだろう。


 ※


 次の街でも似たような説明をして、その日はそこで宿を取る。

 この辺りはあまり感染は広がってなさそうだな。

 でも、明日行く街は重症患者が居る可能性がある。

 王都から北の港へ向かう街道沿いは人の出入りが多いのだ。アレクが俺に王都の周囲の感染者のデータしか渡さなかったってことは、港へは既に誰かが派遣されてるんだろう。

 港に感染者が居れば、被害が一気に拡大する。港は人の量が多いことはもちろん、船内という狭い空間で感染者と過ごす為、感染リスクが上がる上に、長距離移動によって別の土地に拡散するからだ。

 感染から発症を自覚するまでに十日から十五日かかることを考えれば、今から対策をとっても遅い。国外にも感染者が出てるだろう。冒険者ギルドを通じて病の情報は広がってるはずだから、各地で対策を練ってもらうしかない。まともな国なら、早々にラングリオンから薬のレシピを取り寄せているはずだ。

 けど。

 たぶん、ロザリーはこのことを知らない。

 千年前の航海技術でどこまで船が移動できたかはわからないけど、北方への人の出入りの多さと、他国への急激な感染の拡大は考えないだろう。

 メディシノとしてロザリーが優先すべき仕事は、薬の治療が手遅れになる可能性がある、重篤な患者の治療。つまり、目指すのは王都に流れるシレーヌ川の川上だ。

 だとすれば、ロザリーの立ち寄る街は一目瞭然。

 アレクは確実にロザリーを見つけられるだろう。


「そろそろ寝たらどうだ?」

「ん……。もう少し」

 これを、紐に通して完成。

「何作ってたんだ?」

「ペンダント」

「金貨のペンダント?悪趣味だな」

「別に見せびらかすために作ったわけじゃない」

 金貨を首から下げて、服の中に仕舞う。

「そんな形にしたら使えないだろ」

「使うつもりないから良いんだよ」

「変な奴」

『あんたになんか言われたくないわよぉ』

「……さっきから、この性格の悪い精霊は何なんだ」

「俺の精霊はみんな性格も良いし、優しいよ」

「お前、相当変わり者なんだろ」

 っていうか。

 こんなに良く喋る相手と旅するのなんて初めてじゃないか。

「で?俺はいつまで付き合えば良いんだ」

 地図を出して、リックに見せる。

「明日中に街を三つ回って、明後日にこことここに行って、東の街まで連れて行ってくれ。それで解散」

「随分ハードな旅程だな」

 リックと別れた後は、そのまま南を回って、王都の南にあるニバスを目指す。

 ニバスは、多くの乗合馬車が駐留する場所。セズディセット山の温泉地に向けた馬車もある。

「他にもやることがあるんだ」

 地図をしまう。

「ずっと女装して歩くのか」

「アレクは、吸血鬼種への迫害をやめさせようとしてる。今、このタイミングで病の救世主としてメディシノが外を歩くことは重要なことなんだ」

「吸血鬼種なんて、砂漠じゃ珍しくもなんともないけどな」

「砂漠はどんな人間も受け入れる」

「お前は砂漠の出身だったな。……そういや、砂漠を旅してる時に、変なものを見たんだよ。蜃気楼にしては珍しかったな」

「砂漠で蜃気楼なんて珍しくないだろ」

「そうなんだけど。蜃気楼にしてはやけにはっきり見えたんだよな。あれ」

「あれって?」

「棺」

「……棺?」

「大きさは良くわからないけど。全面白塗りで、金の装飾があったな」

 それって。

 メモを出して、絵を描く。

「こんな感じの?」

「あぁ、そうそう。こんな感じだったな。知ってるのか?」

「いつ、見たんだ」

「ジェモの……、いつだったかな」

「ジェモって、去年の?」

「あぁ。日にちまでは忘れたけど。地震の後だったのは確かだぜ」

 あの棺は、リリーが砂漠に行った時に壊したって言ってなかったか?

 壊したのはトーロのはず。

 なんで?

 なんで、砂漠に同じものがもう一つ存在するんだ?

 エイダが入ってたはずの、封印の棺が。

 いや、違う。エイダの入ってた封印の棺は、もともと神の台座にあったものだ。

 グラシアルの北にある、神の台座に。

 ん?

 グラシアル?砂漠?

 なんだ、この、妙な符号は?

 ……封印の棺。

 ポラリスが王都に出る前に、俺はポラリスから封印の棺について聞いている。


―あれはもともと、神が罪深い魂を閉じ込めておくために作ったもの。


 ポラリスが語る言葉は、真実。

 神が、罪深い魂を閉じ込めておくために作ったものだって?

 罪深い魂。

 精霊によって肉体を封印された、生き物。

 それが、同じものだとしたら?

 転移の魔法陣の下、もしくは近くに封印の棺が存在する可能性。

 ……神の台座に飛ぶ転移の魔法陣が存在した?


 転移の魔法陣が存在する場所。

 コールポはグラシアル。

 プピーオはクエスタニア。

 ナイリは竜の山。

 コッロは砂漠。

 そして、セントオがラングリオン。

 俺が知ってるのはこれだけ。

 このほかに、神の台座に飛ぶ転移の魔法陣が存在する?

 ……でも、セントオを中心にして飛ぶなら、方角的にグラシアルと神の台座の位置って被ってそうだけど。

 もしも、グラシアルの転移の魔法陣に飛ぶための棺が、神の台座にあったとしたら……。

 いや、それはない。

 だって、あれは八百年前に砂漠に移されているんだ。

 エレインが、グラシアルに飛べる魔法陣があるって知っている以上、やっぱりグラシアルにも棺が存在すると考えた方が良い。

 エレインの話しぶりからして、転移するのに失敗した人間が居るのは最近の話しのようだったし。

 あれ?

 ちょっと待て。

 それだとおかしい。

 だって、グラシアルで転移の魔法陣を使うようになったのって、かなり昔だろ?

 いつかはわからないけれど、最近ってことはないはずだ。

 だったら、失敗した人間が現れたのってかなり昔のはず?

 ……なんか、良くわからなくなってきた。


 っていうか。

 封印の棺には何が入ってたんだ。

 もともと、神が罪深い魂を閉じ込めておくために作ったものを、エイダが使ったんだとしたら。

 中に入ってたものは、どこに行ったんだ?


 ある時期に、封印の棺が開かれた。

 そして、封印の棺の中にエイダが中に入った。

 次に、八百年前に、封印の棺が開かれ、エイダが飛び出し、また閉じる。

 そして俺が開いて、最後にリリーが開いて壊した。

 人間が簡単に開けるものなのか?封印の棺って。

 最初に開いたのは誰だ?


 しかも。

 なんで砂漠に封印の棺があるのに、わざわざアルファド帝国は、神の台座から封印の棺を運び出したんだ。

「リックは砂漠のことに詳しいんだよな」

「あぁ」

「アルファド帝国が、封印の棺を神の台座から運んだ理由、知ってるか?」

「知ってるぜ。神様が入ってるからだ」

「神様?炎の大精霊のことか」

「さぁ。アルファド帝国が当時祀ってたのが炎の神じゃなかったことは確かだぜ。今も昔も、この辺りは月の女神への信仰が厚いからな。当時のアルファド帝国の皇帝が神の啓示を受けて、神の台座から持ち出したって話しだから」

「神の啓示?月の女神の?」

「俺が見た文献では神の啓示としか書いてなかったな。八百年ぐらい前に、およそ一年がかりで、何百人も死者を出しながら神の台座に向かったんだよ。その結果、棺を開いて出て来たのが災厄だったわけだけど」

「何百人も死者を出しながら向かったってことは、封印の棺が神の台座にあるって、絶対の自信を持っていたってことだよな」

「だろうな」

「砂漠にあったことは知らなかったのか?」

「砂漠にもある?」

「リックが見たのは、たぶん封印の棺だ」

「炎の大精霊が入ってるやつか?」

 ……話しがかみ合わないな。

 もともと砂漠に封印の棺があった、という文献は存在しないってことだろう。

「神の啓示……」

 本気でそこまで信じられる情報だったのか?

「結局、求めていた棺の中に神は居なくて、東が砂漠になったんだから、当時の皇帝の信頼は地に落ちたんじゃないのか?」

「そう思うだろ?でも、その後、同じ皇帝が三十年に渡って君臨し続けてるんだ。逆らう者に対して絶大な力を見せつけてねじ伏せた。皇帝は神の力を手に入れたんだ」

 神の力?

 ……力って。

 エイダはその後、封印の棺に戻ってるから、エイダのことじゃないよな。

 運ばれてきた直後には、エイダと一緒に何か別のものが入っていたのか?

 俺が開いた時には何もなかったけど……。

「そして、アルファド帝国の躍進はここからスピードを上げるんだ。少々強引な戦争にも打ち勝ちながら、一気に領土を拡大していったのがこの時期。およそ二百年かけて、アルファド帝国最大領地を手に入れた帝国は、同じく神の啓示を受け、聖剣エイルリオンを手にした初代ラングリオン国王と英雄たちによって滅ぼされたってわけだ」

「全然知らない内容だ」

 たぶん、ラングリオンの初代国王に聖剣を授けたのは違う神なんだろうけど。

「砂漠にまつわる話しならいくらでも話してやるぜ」

「棺の蜃気楼を見た場所、教えてくれないか?」

「砂漠の北方。月の渓谷からそんなに離れてなかったと思うけど」

「近くに港町がある?」

「あぁ、あったぜ」

 間違いない。

 砂漠の転移の魔法陣の近くにあるんだ。

「ありがとう。すごく勉強になった」

「……アレクがお前を可愛がるの、解る気がするわ」

「なんで?」

 何故か、リックが俺の頭を撫でる。

「あんまり無理するなよ」

 何が?

 


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