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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
34/149

35 夜を彩る七色Φ

 さて。夕飯を作るかな。

「何を作るの?」

「秋野菜のテリーヌだよ」

 食材を並べていると、俺の後ろでケーキの仕上げ作業をしていたリリーがこちらを見る。

「どうして、その食材を選んだの?」

「春菊は彩りに良いし、里芋は触感が良いだろ?秋と言えばきのこが美味いからな」

 リリーが食材を見ながら唸る。

「嫌いなものでもあるのか?」

「え?ないよ。大丈夫」

 不満そうに見えるのは気のせいか?

 それ以上何も言わずに、リリーがケーキの仕上げ作業に戻る。

 そういえば、聞こうと思ってたことがあるんだ。

「リリー。コールポ、プピーオ、ナイリ、コッロの意味を教えて」

「え?」

 わかるかな。

「コールポは体。プピーオは瞳。ナイリは爪。コッロは心臓だけど……」

「なんだって?」

 コールポの転移先はグラシアル。その意味は体。

 プピーオの転移先はクエスタニア。その意味は瞳。

 ナイリの転移先は竜の山。その意味は爪。

 コッロの転移先は砂漠。その意味は心臓。

「どうして、そんな変なこと聞くの?」

「俺だって知りたい。じゃあ、リリーシアって名前は、セルメアの古い言葉で何を表すんだ?」

「え?私の名前?セルメアの古い言葉に、そんな言葉ないと思うよ。だって、私の名前はグラシアルの初代女王リーシアにちなんだ名前だから」

 だよな……。

 じゃあ、なんで?

 体、瞳、爪、心臓なんて。

 人間の体の一部?……いや、人間とは限らないか。他にも尻尾や羽を意味する言葉が出てくるかもしれない。

 エレインに聞かなきゃわからないけど。

 遺跡の魔法陣は中心って意味だったのに、なんで周りの言葉は体の一部を示すような言葉なんだ?

「ハラーロもあるの?」

「ハラーロ?」

「髪って意味」

「なんで?」

「瞳とか爪って、魔法使いが精霊と契約する時に渡すものだから」

「あぁ……」

 そういえば、そうだな。

 精霊と契約する時に肉体の一部を渡すのは、その精霊との繋がりを作るためだ。

 精霊が契約者の呼びかけに応じて、契約者の目の前に転移できるのは、肉体の一部を持っているから。

「歯は?」

「デンツォ」

 他に、精霊に捧げるものって言ったら……。

 だめだな。これ以上は調べてみないと解らない。他にもあるのか?

 

 っていうか。なんで体の一部と、リリーの名前が同列なんだ。

 リリーシアという言葉がセルメアの古い言葉に存在しない以上、リリーシアという言葉がリリー自身を示しているとしか考えられないんだけど。

 アレクとの実験で、リリーがその場に居なくても、リリーシアという言葉を転移先として使えた理由は、他の言葉と性質が同じなら説明がつく。

 本来の出口ではない場所にグラシアルの転移の魔法陣の出口を描いた場合、新しく描いた方の魔法陣に引っ張られることは実験済みだ。

 もし仮にリリーの目の前に出口が存在したとしても、新しく描いた魔法陣に出るに違いない。リリーが目印の役割を果たしたとして、そこからある程度距離がある場所でも、転移の魔法陣の出口は使える。

 だから。他の言葉とリリーシアは、転移の魔法陣を使う上で同じ役割を果たしていると考えられるんだけど……。

 

 ん……。これは、赤ワインで煮込もうかな。

 あれ?なんで家に、この銘柄の赤ワインがあるんだ?

 いつも料理に使ってるワインじゃない。

 ……あぁ、キャラメルを作るのにリリーが買って来たのか?

「リリー、この赤ワイン使って良いか?」

「うん、いいよ」

 

 スタンピタ・ディスペーリ・転移先・メタスタード。

 封印解除。体の部位。転移。

 ……気味の悪い呪文だ。

 転移先を示す言葉って、場所や方角を示す言葉だと思ってたのに。

 なんで、体の一部?

 そういえば、俺が導き出した転移の魔法陣の理論。俺は、安定的に二つの魔法陣を繋ぐ方法として、魔力を込めた宝石の片割れ同士を魔法陣に埋め込む方法を考え付いたんだ。

 遺跡の魔法陣も、中心と他の魔法陣を安定的に使うために、何らかの媒体を利用したとしたら?

 それに、何かを使ってる?

 精霊に肉体の一部を捧げることで繋がりを作れる原理と同じ?

 あの魔法陣の下に埋まっているとでも?

 ……まさか。

 仮に本当に埋まっているとしても、それが長い年月をかけて存在し続けているわけがない。

 あれはレイリスが来る前からあった魔法陣だ。

 少なくとも八百年以上前から存在する魔法陣の下に、生き物の体の一部が存在し続けているわけがない。残ってたとしても骨ぐらい……?

 骨?

 いや、ちょっと待て。

 あの棺。

 ロザリーって、千年前から封印されて生きてたんだろ?

 魔法陣に使われている体の部位が、すべて同じ方法で封印されていたとしたら?

 体、瞳、爪、心臓が、それぞれ分解されて、転移の魔法陣と共に封印されいる?

 ……ん?

 転移の魔法陣を使う呪文は、封印解除・体の部位・転移。

 封印されているものが体の部位だとしたら、最初に唱える封印解除って、その封印を解除するって意味じゃないのか。

 転移の魔法陣の起動のたびに解除してるっていうのもおかしな話しだから、一時的、もしくは限定的な封印解除なんだろうけど。

 わざわざ封印してあるものの封印を解除する理由。

 その目的は、一つしか考えられない。

 ずっとわからなかったことの答え。

 転移の魔法陣を使用するための力として、封印されているものの力を利用する。


 スタンピタ・ディスペーリ。封印解除の言葉で遺跡の魔法陣は起動する。その時に、一時的に封印魔法をかけられたものの封印が解除される。

 そして転移先・メタスタードで、転移する。この時に、転移先と現在地を繋ぎ、転移先へ転移する。

 これが、遺跡の転移の魔法陣の原理。

 だとすると、封印されているものって相当な力を持った何かってことになるんだけど……。

 それって本当に生き物なのか?

 地上で最も強い生き物って言ったらドラゴンのイメージだけど。

 ドラゴンが埋まってる?

 そういえば、紫竜フォルテも、生きたまま封印されてたんだよな。

 ドラゴンの寿命は桁外れに長いはずだから、生きてても疑問には思わないけど。

 

 ……っていうか。この理論、少し強引な気がする。

 エレインは、遺跡の魔法陣が精霊の遺産って言っていたんだ。

 これが正しいとしたら、かなり面倒だ。

 なんで、そこまで面倒な細工を、精霊が人間の為に作ったんだ?精霊には必要ない装置なのに。

 ……?

 いや、違う。逆なんだ。

 あれはそもそも、人間の為の転移の魔法陣じゃなかったとしたら?

 精霊が、何らかの生き物を封印しただけの、封印の為だけの魔法陣だったとしたら?

 精霊が自分の使わない転移の魔法陣を編み出す理由なんかよりも、よっぽどしっくりくる。

 転移の魔法陣としての利用は、人間がその力を利用して、後に開発したものの可能性がある。

 だって、転移の魔法陣を使用するための言葉って古代語じゃない。精霊が作ったものなら、精霊の言葉である古代語を使うはずだ。それなのに、転移の魔法陣の呪文として使われているのは、セルメアの古い言語、もしくはドラゴン王国時代に存在した、もう一つの言葉だ。

 精霊があの魔法陣を作った目的は、何かを封印すること。

 転移の魔法陣としての利用を考えたのは、ドラゴン王国時代の人間か、メディシノ王国の人間。

 この理由はかなり信頼できる内容だ。

 

 でもそうすると、精霊は何を封印したんだ?

 精霊は自然そのもので、生き物に干渉なんてしないはずだ。

 精霊が、そこまで干渉しなければいけない理由?

 

―大陸を覆う地震が起き、不治の病が流行り、古い力が復活し、大地から伸びた手が世界を終わりに導く。

 

 これが、アレクの予言に出てくる古い力?

 精霊が封印しなければならなかった力。

 精霊が封印しなければならなかったもの。

 精霊が殺すことが出来ないもの。

 それって……。人間?

 まさか。

 転移の魔法陣の下に、封印された人間の体の一部が埋まってる?

 ……馬鹿げてる。

 なんで、精霊よりも、ドラゴンよりも弱く、寿命も短い人間が封印されなければならないんだ。

 きっと、違う何かが……。


 だめだ。推測だらけ。

 どこかに 綻びがあればすべて崩れる。

 エレインに聞かなければいけない。

 転移先を示す言葉を全て。


 っていうか。

 これじゃ、リリーに飛べる理由の説明が全くできない。

 遺跡の魔法陣同士を繋いでいる力が、封印されている何かだったとしたら、リリーはなんなんだ?

 あの魔法陣の起動条件と同じ、転移の魔法陣の条件を満たす何かをリリーが持ってる?

 違う。持ってるんじゃない。封印してるんだ。

 だって、封印解除の言葉に反応するんだから。

 リリーが八百年以上前に封印された何かと同じものを封印しているなんて考えられないけど……。

 だとすれば、それに代わる何か?

 代用品があるのか?

「リリー。最近、体の調子が悪かったり、変な感覚に陥ったことはないか?」

「え?ないよ。私は感染しなかったから」

 そういう意味じゃないんだけど。

 自覚症状は全くない?

「リリー。あのさ……」

「うん?」

―記憶の封印の解除方法は、本人が、スタンピタ・ディスペーリ、つまり封印解除の言葉を唱えることだったんだ。

 もし、リリーが何かを封印しているとして。

 スタンピタ・ディスペーリって言ったら……?

「セルメアの古い言葉。誰かに聞かれても、何も答えないでくれるか?」

「え?どうして?」

「セルメアの古い言葉は語らないで欲しいんだ。何か聞かれても、復唱もしないで欲しい。俺が居ない間は、ずっと」

「うん。わかった」

 怖くて試せない。

 何故、リリーに飛べるのか。

 確証を持てる理由を探さないと。

 

 ※

 

 夜。

「もう、一人で眠れるから大丈夫よ」

 頬を膨らませるキャロルの頭を撫でる。

「寝るまでそばに居るよ。誕生日だから」

「今度、きのこのテリーヌの作り方を教えてくれる?」

「いいよ」

「包丁、嬉しかったわ。世界に一つだけの包丁ね。大事にする」

「喜んでくれて良かった」

 アヤスギが届けてくれたのは、チューリップの絵が彫られた包丁。

 キャロルは相当気に入ってくれたらしい。

 良かった。

「ほかに欲しいものはなかったのか?」

「ないわ。なんでも自分でそろえられるもの」

「そうか」

「ねぇ、エル。リリーに話したっていう、マーメイドの物語を話してくれる?」

「いいよ」

 懐かしいな。

 

 ※

 

「……そして、マーメイドは、彼のキスによって人間の姿に戻り、幸せに暮らす」

 そういえば、リリーに続きの話しを作るって約束していたな。

 キャロルの方を見ると、目を閉じて、もう眠っている。

 もう一度頭を撫でてキャロルの部屋を出る。

 台所に顔を出すと、リリーが驚いた様子でこちらを見た。

「エル、」

 目の前には、ブリキの缶?

「えっと……、出かけるの?」

「あぁ。何してたんだ?」

『別に話しても良いんじゃないの?』

「エルが、ちゃんと家に帰って来た日に見せてあげる」

「その中身を?」

「うん」

 何を隠してるんだ?

 まぁ、いいか。今度見せてくれるみたいだし。

「イリスは連れて行かないの?」

 どうしようかな。

『ボク、リリーのそばに居るよ。心配になったら呼び出して』

「わかった。じゃあ、出かけてくる。……城の方角を見てたら面白いものが見えるかもしれないぜ」

「面白いもの?」

「あぁ」

「じゃあ、見てようかな」

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 さて。……やるか。


 ※


 黒髪の鬘をかぶるだけで変装は完了。

 闇の魔法で姿を隠して堀に近づく。

 ちゃんとあちこちに仕掛けが置いてある。

 よし。

 持ってきた杖で闇の魔法陣を描いて、闇の魔法を集める。

 炎の魔法を込めた闇の玉をいくつも作って、堀の氷の上にいくつも漂わせる。

 っていうか、どんだけ広範囲なんだよ。

 堀を氷漬けにした奴って一体どいつだ?どう考えても人間業じゃない。

 ……リリーの可能性。

 それ、封印魔法と何か関係あるのか?

 無自覚で魔法なんて本当に使える?

 なんで氷の魔法なんだ。

 イリスがそばに居ないのに。

 そういえば、アリシアが、リリーの光は水色だって言ってたな。

 氷の精霊の力でも封印されてるのか?

 だから転移の魔法陣が使える?

 だったら安心なんだけど。たぶん違うだろうな。

 転移の魔法陣と氷の精霊の力が関係あるなんて思えないけど……。

『エル、堀を一周したみたいだぞ』

 炎の魔法を込めた闇の玉。全体に回ったみたいだな。

 よし。それじゃあ、点火!


 氷漬けの堀から、一斉に火柱が上がる。

 それと同時に、花火が夜空にきらめく。


 結構余ってたんだな。カウントダウンの時の余り。もしかしたら追加で作ってくれたのかもしれないけど。

 城壁の上で、兵士が右往左往しているのが見える。

 あ。魔法部隊に消されたらまずいな。……出てこないところを見ると、たぶんシャルロが根回ししてくれたんだろうけど。

 っていうか。レティシアに怒られるな、これ。

 目の前で、堀の氷が一気に蒸発していく。

 プリーギは高温と乾燥に弱いはずだから、これで堀のプリーギは死滅する。

 

 堀が空っぽになったのを見計らって、今度は夜空に向かって炎の刃を一本放つ。

 そして。


 夜空の高い位置で、三重の輪を交差させた花火が上がる。


 ミカエルのサイン。

 久しぶりに見たな、あれ。

 それが合図。


 今度は一斉に、水柱が上がる。


 これで炎は消える。

 良く、こんなに水柱が用意できたと思うけど。

 カミーユとシャルロならなんとかしてくれるだろう。

 闇の魔法を解いて、西大門を目指して走っている途中で、肩を叩かれる。

「早かったな」

 右目にモノクル。

 ……碧く見えるように加工してるのか、それ。

「いいのかい。あのサインは君たちのサインだろう」

「俺たちがやった痕跡なんて、シャルロが残すわけないだろ」

「そうだったね」

「名前は?」

「シュヴァリエ」

 いかにもな偽名だな。

「俺はリックと黒炎に乗って北へ向かう」

「気を付けて、クロエ」

「あぁ。いってらっしゃい、シュヴァリエ」

 西大門の外に用意されていた茶毛の馬に乗って、黒衣の騎士が去る。

「本当、お前らって仲良いよな」

 右目に眼帯をつけて菫のマントを羽織ったリックが言う。

「居たぞ!」

 王都の方から声が聞こえる。

「さて、お姫様。行くとしようか」

 リックが黒炎にまたがって、俺の手を引く。

 光の精霊が放った光が黒炎に乗った俺とリックを照らす。

 リックが黒炎を走らせる。

「悪いな、黒炎」

 乗ってるのがお前のご主人様じゃなくて。

「おー、見てみろよ。虹が出てるぜ」

 美しい満月が輝く夜だから。

 月に照らされて薄い虹が浮かぶ。

「そういえば、月の大精霊と対になる精霊って知ってるか?」

「対になる精霊?」

「光の精霊と闇の精霊、水の精霊と大地の精霊、風の精霊と真空の精霊、炎の精霊と氷の精霊」

 反対の属性を持つ精霊のことか。

 月の精霊の対になる精霊は……。

「太陽の精霊?」

「そう。でも、砂漠で月の精霊は、砂の精霊って呼ばれてるだろ?」

「あぁ」

「月の大精霊も太陽の大精霊も、地上には存在しない外部から来た力だって言われてる」

 レイリスは月から来たからな。

「月の精霊が砂の精霊と呼ばれるように、外から来た精霊は、こっちに馴染む力に変わるってわけだ。だったら、太陽の精霊も違う呼び方があると思わないか?」

「確かに」

「俺は、あれがそうだと思ってるぜ」

 リックがもう一度、夜空を見上げる。

「虹……?」

 確か、月が夜に優しく輝くのは太陽の光を利用してるからだっけ。

 虹は、必ず太陽の力に由来する?

「その姿を確認出来た奴は居ないけどな」

 誰も見たことのない精霊。

 リリーは知ってるのかな。

 虹の精霊。

 


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