表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
29/149

30 キャラメル

「あーっ、もう!どれだけ変わってるのよ!」

「セリーヌ、休んできたら?」

「それかキャロルとリリーシアちゃんのアップルパイでも食え。ほら」

「ふがっ」

 ノエルがセリーヌの口にアップルパイを押し込む。

「アップルパイ?」

「そういやエルは知らないのか」

「ばたばたしてたからね」

 キャロルとリリーが作ったものだってことも、アップルパイがこの部屋にあることも、今初めて知った。

「食べる」

「え?お前、甘いもの食わないだろ」

「アシュー、コーヒー淹れて」

「まだ飲むの?何杯目?」

 何杯目だったかな……。

「なぁ。これに変わる成分ってないのか?」

「他の部署で、既存の薬品で殺せないか調べてるんだろ?」

「今のところ、良い結果は皆無だけどな」

 アップルパイ。

 ……甘い。

 けど、シナモンがたっぷり入ってて美味い。

 シナモンか。

 まだ、キャラメルも持ってたっけ。

 後で食べよう。

 冷めきったコーヒーを飲み干して、コーヒーを淹れているアシューの横にカップを置く。

 炎の魔法でランプに火を灯す。

「ありがとう」

 今、研究室に居るのは六人。

 ルイスは仮眠室で寝て、ロニーはリュヌリアンとアレクの盾を持って城に帰った。

「エルが甘い物食べてるの見るの、すごく久しぶりだね」

「そうか?この前だってキャラメル食べてただろ」

「食べてるところは見てないよ。僕らに食べさせただけじゃない」

 そうだったっけ。

「本当に甘い物が苦手なのか」

「アリシアは知らないのか?」

「リリーが言っていたが。ただの喧嘩かと思っていたな」

「何の話し?」

「お茶の時間にエルロックも呼んでやれと言ったら、甘い物が嫌いだから呼んでも仕方ないと突っぱねられたんだよ。ちょうどその時、喧嘩中だったようだからな」

 アリシアと初めて会った時のことか?

「喧嘩なんてしてないよ。……怒らせたかもしれないけど」

 なんで怒らせたんだっけ?

 忘れたな。

「エルとリリーが喧嘩してるのって想像つかないわ」

「そうか?この前だって、何か賭けて決闘してたんだろ?」

「決闘?」

「どうでも良いだろ」

 残りのアップルパイを口に入れ、アシューが淹れたコーヒーを飲む。

 やっぱり温かい方が美味いな。

 キャラメルも食べよう。

「キャラメルか」

「食べるか?」

「アリシア、それははずれよ」

「はずれ?」

「あげるならコーヒーのにしなさいよ。シナモンのキャラメルを食べるのなんてあんたぐらいよ」

「俺にとっては全部あたりだけど」

 コーヒーのキャラメルをアリシアに渡す。

「リリーが作ったんだよ」

「それは美味しそうだな」

 シナモンのキャラメルを口に入れようとしたところで、キャラメルを落とす。

「あ」

 ぽちゃん、と音がして、キャラメルが病原の入ったビーカーに落ちる。

「もう、何やってるのよ」

「病原に浸かったキャラメルなんて食うなよ、エル」

「食べても平気なんだろ?これ」

「だからって食う奴が居るか!お前にとってどんなに無害でも、絶対食うな」

 せっかくリリーが作ってくれたのに。

「食べたいなら、またリリーに作ってもらえば良いじゃない」

「エルしか食わないなら、案外病原にも効くんじゃねーのか?」

「馬鹿じゃないの?」

「試してみるか」

 実験用の血液をスポイトでとって、ビーカーの中に垂らす。

「……ん?」

 あれ?なんか、反応の仕方が違う?

 本来なら、垂らした血液の筋が千切れるように分解されるのに、今回は緩やかに水に溶けてる?

 実験用の血液の入ったビーカーを、病原のビーカーに注ぐ。

「え?」

「……ちょっと待て、なんで?」

 血液が変化しない。

「え?何?どういうこと?」

「キャラメルのレシピは?」

「キャラメルなんて、砂糖と牛乳、それにフレーバーを加えるだけのはずよ。……待って、シナモン作ったのって結構後よね?ミエルも入ってるかもしれないわ。フレッシュクリームも使ってたかしら……」

「後?」

「女子連中がキャラメル作って実験してただろ。それの後半の試作品ってことだろ?」

「そうよ。でも、リリーが別の何かを入れてる可能性もあるけれど……」

「作った本人に聞けば良いんじゃないか?」

「リリーは今、どこに居るかわからない」

『イリスちゃんを呼んでみたらぁ?』

「そうか。……イリス、来い」

 イリスが現れる。

『何?こんな夜中に何の用事?』

「これが噂の氷の精霊ね」

「水色なんて綺麗だね」

『こんな人前で呼び出して良いの?召喚した時は顕現してるってわかってるだろ?』

「いいんだよ」

「エルロック。何故、お前がイリスを呼べるんだ」

「俺がイリスと契約してるからに決まってるだろ」

『エルがボクの正式な契約者だからだよ』

「エルロックとイリスが契約……?待ってくれ。私の経験上、光を内に秘める者は、魔法使いで精霊と契約しているはずなんだが」

 アリシアはリリーと同じものが見えるはずだからな。

「間違ってないぜ。あれは精霊の光らしいから」

「じゃあ、リリーは誰と契約しているんだ?あの、強い水色の光は、イリスじゃないのか?」

「水色の光?」

 って、氷の精霊だろ?

『ボク、リリーと契約を交わしてないよ。それとも、契約してなくても契約状態なの?』

「そんなはずはない。私はあの後、リウムと正式な契約を結んだ」

「じゃあ、どうして……?水色の光なら、リリーは氷の精霊と契約してるのか?」

『そんなことないと思うけど』

「ねぇ、エル」

「なんだ?」

「ドラゴンが襲来した時、巨大な氷の盾を使った?」

「巨大な氷の盾?」

 何の話しだ?

「あぁ、俺も見たぜ。ドラゴンのブレスを妨げる、でっかい氷の盾だろ?」

「あれ使ったの、エルじゃないの?」

「俺は知らないぞ」

『ボクも知らない。見てないよ』

「お前じゃなかったら誰だって言うんだよ。あんな馬鹿でかい魔法を出せるのなんてそうそう居ないぜ?」

「ルイスが堀に落ちた時、あの場に居たのって、リリーとジニーよね?」

「らしいな」

「結局、堀を凍らせた人物は不明のままだ」

「堀か……。私も見てきたが、城の周囲の堀を氷漬けにするなんて、相当魔力を消費するはずだろう。人間の仕業とは思えないが」

「あれもエルじゃないの?」

「俺が出掛けた時は、堀なんて凍ってなかったぞ」

「どっちも、その場にリリーが居たわ」

「セリーヌ、お前はどっちもリリーがやったって言いたいのか?」

「氷の盾が出現したのって、私の目の前だったんだもの。でも、リリーは精霊と契約していないし、違うって言ってたのよ。私も、あんな出力の魔法を使える魔法使いがそうそういるなんて思ってないけど……」

『リリーはエルみたいな魔力は持ってないと思うよ。魔法使いの才能やレベルとしては、君たちと変わらないと思うけどね。……でも、アリシアの話しが本当だとしたら、リリーは氷の精霊の光を持ってるんだろ?』

「おそらく」

『リリーがボクを呼び出せることにも関係してるのかな、それ』

「契約していないのに、リリーはまだイリスを呼べるのか?」

『うん。もともとボクはリリーのために生まれたからね。だから、まだリリーとの繋がりが残ってるんだと思ってたんだけど。……こういうのって、たぶん例がない事だから、どうなってるのか良くわからないよ』

「セリーヌ。リリーは自分で魔法は使ってないって言ったんだろ?」

「えぇ、そうよ」

「魔法が無自覚で使えるわけないだろ。発動の方法として間違ってる。この話しはここまで。イリス、リリーに会いたい。今、どこに居るんだ?」

「エルの家に居るよ」

「わかった。ちょっと行って来る」

「あぁ」

「自分が死人だって忘れるなよ」

「わかってるよ」

 闇の魔法を使えば大丈夫だろう。

「いってらっしゃい」

「いってきます」


 ※


 夜は闇の魔法で姿を消せるから変装の必要がなくて良い。

 空の月を見上げる。

 もう西に傾いてる。深夜はとうに過ぎているらしい。


 サウスストリートの果て。職人通りを曲がってすぐの場所。

『エル。誰かが家に侵入しようとした形跡がある』

「え?」

『二階のベランダのトラップが発動している』

「二階だって?」

『そうだ。もう一度侵入防止のトラップをかけ直しておこう』

「あぁ。頼む。メラニー、顕現してくれ」

『了解』

 メラニーが顕現して、飛んでいく。

『二階から侵入しようとするなんてぇ。魔法使いか盗賊よねぇ』

『ここがエルの家だってわかってるのかなー?』

『エルって死んだことになってるんでしょ?』

 俺が死んだと思ってるから、家に忍び込もうとした?

 それとも、一階にトラップがある可能性を考えて、二階から侵入しようとした?

 ……そんな安易な考え方するだろうか。

 何かを盗むなら、店側にしか用事はないはずだ。

 なんで二階?


 鍵を開けて、家の中へ。

 家中、甘い匂いが充満していて、台所からは明かりが漏れている。

 まだ起きてたのか。

「誰?」

 リリーが振り返ってこちらを見る。

 闇の魔法で姿を消したままなのに、良く気付いたな。

「ただいま」

 魔法を解いて、台所に入る。

「エル!おかえりなさい!」

 リリーが走って来て、俺に飛びつく。

「会いたかった」

 リリーを抱きしめる。

「薬の開発してたんじゃなかったの?」

「ずっと研究してるよ。リリーが作ったシナモンのキャラメルが病原を殺せる成分を含んでるんだ。レシピを教えてくれないか?」

「え?キャラメルが?……シナモンは、砂糖、ミエル、牛乳、フレッシュクリーム、シナモンだよ」

 セリーヌが言った通りだったな。

「何してたんだ?」

「マロングラッセを煮ていたの。キャロルの誕生日ケーキに使おうと思って」

 火にかけてる大きな鍋の中身はマロングラッセか。

「それから、キャラメルも作ってたんだ」

「キャラメルか。ちょうど欲しかったんだ」

「本当?良かった。そろそろ固まったんじゃないかな。切るの、手伝ってくれる?」

「いいよ」

 甘い匂いは、マロングラッセとキャラメルか。

 リリーが冷えて固まったキャラメルをバットをひっくり返して出す。

「ミルクティーと赤ワインだよ」

「おぉ」

 ワインか。楽しみだな。

「切ってもらえる?」

「一緒に切ろう」

 リリーに包丁を持たせて、その手を握る。

「あの……」

「大きさはこの前と同じで良いのか?」

「うん」

 キャラメルに包丁で薄く線を引く。

「これぐらいの大きさ?」

「うん」

 リリーと一緒に、包丁でキャラメルを切る。

「なんだか自分で切ってるみたい」

「自分で切ってるんだろ」

「力入れてないよ」

「入れていいよ」

「んー……」

 困ってるな。

 可愛い。

 ……結婚してから、全然一緒に居られないな。

 一緒に居られたのって、温泉に行った時ぐらいじゃないか?

「リリー。全部終わったら、一緒にどこかに行こう」

「どこかって?」

「リリーの行きたいところ」

「どうして?」

「旅をしてる方が、一緒に居られる気がするから」

 リリーが笑う。

「そうだね」

 全部切り終わって、包丁を置く。

「すぐに戻らなきゃいけない」

「うん。忙しいんだよね?」

「キャラメルを全部切ったら行くよ」

 リリーを解放して、切ったキャラメルを一つつまむ。

「美味しい」

 ワインの香りがする。

「良かった」

 マロングラッセの様子を見ているリリーの横で、ミルクティーのキャラメルを出し、さっきと同じように切る。

「ありがとう」

 ミルクティーの方は甘そうだな。

 リリーの口の中に切った一つを突っ込む。

「美味しい」

 リリーが上機嫌で微笑む。

「今、包むね」

「このままで良いよ」

 キャラメルを一掴みずつ、紙袋に入れる。

「じゃあ、残りは包んで、明日研究所に持って行くね」

「どうせ十五日に帰って来るから良いよ。……キャロルとリリーが焼いたアップルパイ、食べたよ」

「本当?」

「シナモンが効いてて美味しかった。また今度作って」

「うん」

 ……リリー。

 このまま連れて行きたい。

 ……でも。

 リリーだけは感染して欲しくない。

 リリーが感染して、俺が治療を行える自信がない。

「イリス、リリーを頼む」

『了解』

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 早く、治療方法を確立させないと。


 ※


「ただいま」

「おかえり、エル」

「セリーヌとアリシアは寝たぜ」

「そうか。はい、お土産」

「なんだこれ?」

「リリーが作ったキャラメル」

「お前しか食わないだろ」

「赤いのはワイン、茶色のはミルクティーだ」

「美味しそうだね」

「キャラメルのレシピは、セリーヌが言ってた通りだった」

「あぁ、効果があるのはシナモンだったぜ」

「……もう試したのか」

「全部すぐに用意できるものだからな」

「聞きに行かなくても良かっただろ」

「試す前に聞きに行ったのはお前だろ。試薬はいくつか作ったぜ」

「じゃあ、もうやることないじゃないか」

「そうでもないぜ。もう少し改良が必要だな」

「ん。わかった」

「眠くないのか?エル」

「平気。完成したら寝るから、アシュー、コーヒー淹れて」

「砂糖とミルクは?」

「要らない」

「体に悪いよ」

「試薬のレシピは?」

「これだ」

 ええと……。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ