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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
23/149

22 どれもはずれ

 ヴィエルジュの十日。

 当初の予定通り、街二つに立ち寄って、ヴィエルジュの十日に遺跡近くの街に到着した。

 到着したのは正午。

 もう少しのんびり旅をしても良かったかもしれないけれど、十五日までに帰ることを考えると難しい。黒炎の調子が良さそうだから良かったけど。

 街の厩舎に黒炎を預け、宿を取ってランチを食べてから、遺跡のキャンプを目指す。遺跡は街からも見える。ここからは歩いてもそんなにかからないだろう。

 来る途中の街でもドラゴンのうわさを聞いてみたけれど、特に収穫はなかった。

 王都に飛来したドラゴンは、アレクが追い払ったことになってる。

 ギルドで集められた情報は、黄昏の魔法使いが戦って死んだってことと、ドラゴンの居場所に懸賞金がかけられてるってことぐらいだ。

 懸賞金目当てなのか竜殺し目当てなのか、ドラゴンを探してる冒険者も多いみたいだけど、本当に探してるとしたらこんなところには居ないだろう。王都の近くに居るならグリフかローグが見つけてるだろうから。

 

「大丈夫か?そんな重いもの持って」

 リュヌリアンと盾は両方背負っている。

 どっちも軽くはない。

「どっちも俺が持っていなきゃいけないからな」

「大剣に盾の組み合わせって、明らかにおかしいよな」

 大剣を持ちながら、盾を持つなんてことはないんだから当たり前だ。

 おまけに腰にはサーベルと、イリデッセンスの鞘だけを下げてるんだから、剣士としても良くわからない出で立ちに違いない。

「しょうがないだろ。ドラゴンと戦うならリリーの剣が必要だし、紫竜にカーバンクルのことを聞かなきゃいけないんだから」

「眷属の力、ねぇ。もし宝石じゃなかったらなんなんだろうな」

「さぁ……」

 でも。エイダがリリーに贈った短剣の宝石は、精霊玉からルビーに変わったらしい。

 だったら、カーバンクルも力を失っていると思うんだけど。

 どうなんだ?


 ※


 遺跡の前には、冒険者や警備に当たる人間の為のキャンプが設営されている。

 遺跡の探索に携わってる冒険者って結構居るのか?

「お待ちしておりました。皇太子殿下の秘書官様が直々にお越しになられるとのことでしたが……。お名前は?」

 名前か……。

「エル。こっちは錬金術研究所のカミーユ」

「エル様とカミーユ様ですね。ご依頼の魔法陣までの案内はこちらの冒険者が引き受けます」

 三人組の冒険者が頭を下げる。

「私はリーダーのスパイク。こっちがアンディ、彼女がベル。どうぞよろしくお願いいたします」

 差し出された手を取って、握手する。

「皆様、日暮れまでにはお戻りください。どうかお気をつけて」

「ん」

「では、参りましょう」

 冒険者と共に、遺跡に向かう。


 ※


 遺跡は屋根があったと思われる部分が崩れ落ち、柱もあちこちに倒れている。

 入口には兵士が立っていた。

「ここから地下に入れます」

 目の前には地下に続く階段。

「なぁ、カミーユ」

「ん?」

「魔法陣、描いておかないか?」

「保険か?」

「あぁ。深部に入ったら何が起こるかわからないし」

 崩れて出口が塞がれても、転移の魔法陣で帰って来れる。

 ここなら兵士の警備がある目の前だし、誰が飛んで来ても大丈夫だろう。

 今日は、魔法陣の場所に案内してもらって帰って来るだけだろうけど。

「そうだな。描いて行くか。……おーい、ちょっと待っててくれ」

 入口で待機している冒険者に言って、カミーユが杖で転移の魔法陣の出口を描く。

「あ、そこ。こう描いて」

 カミーユの杖を借りて、描き直す。

「なんだ?この模様」

「この方が使いやすい」

 砂の精霊の力を使うから。

「わかったよ。……で?ここから先はどうするんだ」

「俺がやる」

 杖を借りて、魔法陣に魔力を流し込む。

「なんつーか。また変わった精霊でも連れてるのか?」

「……どうでも良いだろ」

「はいはい。聞かなきゃ良いんだろ?終わったら行くぜ」

「ん」

 杖をカミーユに返して、遺跡の入口で待っている冒険者たちのところへ行く。


 遺跡の内部は暗い。

 スパイクが光の玉を短剣に当てる。

 光の玉は短剣を基点に、光を放ちながら周回し始めた。

 スパイクを先頭に、俺とカミーユがその後に続いて、アンディとベルが後ろに続く。

「お二人共、剣士ですか?」

「エルの装備じゃ、文官には見えないよなぁ」

「カミーユもだろ。杖を持ってるなら魔法剣士だ」

「剣士に違いはないだろ?エルは、体力作りの為に持ち歩いてるだけなんだぜ」

「え?そうなんですか?」

「そんなわけないだろ。大事な預かりものだから持ち歩いてるんだよ」

「秘書官ってのは一日中城に缶詰めだからな。たまの外歩きには運動しなくちゃいけないんだ」

「適当な事ばっかり言うな」

「仲がよろしいんですね。秘書官って、もう少しお硬い印象でした」

「こいつは特別だ。他の連中はもっとまともだと思うぜ」

 メルティとタリスは……。

「みんな似たようなもんじゃないか」

「アレクシス様の評判を下げるようなことを言うんじゃねーよ」

「事実なんだからしょうがないだろ。……それより、遺跡の調査ってどれぐらい進んでるんだ?」

「新たに入れるようになった部分の全体像はまだはっきりしていません。地下に行くにつれて浸水してる場所も多いんです。魔法陣は、簡易ボートを浮かべて探索中に発見したばかりのものです」

「浸水って、水がどこから流れてるのかわかってるのか?」

「地下水が入り込んだというよりは、ドラゴン王国時代に水を被ったままの状態じゃないかって学者が言っていましたね。だから、ここの水を抜いて探索をしようって意見も出てるんですよ」

「そうか」

 周囲を見回す。

 この辺は探索がほとんど終わっているところなんだろう。

 ところどころ、遺跡が崩れないように補強されているのが見える。

 

「ここから先が、大地震後に通れるようになった空間です」

「洞穴?」

「はい。ここから、隣に行けるようになってるんです」

 洞穴を通って抜けた先は、建物の内部に続いている。

「この遺跡の何階部分なのかわかりませんが。相当大きな建物だったみたいです」

 一階部分では繋がっている、別の棟ってことか。

 壁の作りがさっきのところと同じだ。

 同じ建物の同じ階なんだろう。

 周囲を見回す。

『探索してくるか?』

「あぁ」

『私も行こう』

『いってらっしゃい』

『気をつけてねー』

 メラニーとバニラに任せておけば、行けるところもわかるだろう。

 しばらく進んだ先で、スパイクが立ち止まる。

「あれ?簡易ボートが……?」

 スパイクが周囲を見回す。

「おかしいな。昨日はちゃんとあったはずなのに」

「俺たちが夜に出てからは、誰も遺跡に入ってないはずだぞ」

「ちゃんといつも通り結んでおいたはずなのに……」

『どこかに流されたのかしら』

『探して来ようかー?』

「……なぁ、この湖、どことも繋がってないんだよな?」

「そのはずですけど」

「何するんだ?」

 

 目を閉じる。

 そして魔力を集中する。

 ……何も聞こえないし、何も感じない。

 何年も地中に埋まっていたようなところなら、精霊も居るはずないか。

 

 それなら、やっても大丈夫だろう。

「凍らせる」

「……はぁ?」

「ここを守ってる精霊の気配もないみたいだし。凍らせて、後で燃やして元に戻せば大丈夫じゃないか?」

「そういう問題じゃないだろ」

「いいからやるぞ」

 カミーユが溜息を吐く。

「お前ら、これから見ることは他言無用だぞ」

「え?」

「じゃあ、行くぜ」


 集中……。


『結構広そうだよ、ここ』

『無理しないでね?エル』

 氷の魔法を集めて、水に向かって放つ。

「おぉ」

「!」

「えっ?」

「どうなってるんだ?」

 手前から順に湖が凍っていく。

 ここ、どれぐらいの広さだ?

 端まで凍ったかな……。

「こんなもんで良いだろ」

「滑らないか?これ」

『滑るだろうね』

「ん。じゃあ……」

 使えると良いけど。

 砂をイメージして……。

 砂嵐を湖の氷に向かって放つ。

 できた。

「なんだ?この魔法」

「これで歩きやすくなっただろ」

 砂を氷の上に撒けば滑り止めになる。

「案内を頼む」

「あなたは皇太子殿下の秘書官なんですよね?」

「そうだよ。ちゃんと官位章つけてるだろ」

 カミーユが笑う。

「魔法使いで大剣背負った秘書官なんて聞いたことないよな」

 確かに。

 それだけ聞いたら、どれが本職かわからないな。

 ……どれも本職じゃないんだけど。

「まぁ、黙っててやってくれよ」

「はぁ」

『言っても誰も信じないと思うけどね』


 ※


 凍った湖の上を、スパイクに続いて歩く。

 しばらく歩いた先に、入口がほとんど崩れた部屋がある。

「ボートだ」

 半分氷に浸かったボート。

「これ、向こう岸に置いておいたはずのものだわ」

「まさか、誰かここに来たのか?」

「許可なく遺跡に侵入したら盗掘で犯罪者だ」

「警戒しておこう」

「そうね」

『メラニーが居ないから、人が居るかどうか分からないわねぇ』

『ちょっと見て来ようか』

「あんまり遠くに行くなよ」

『はーい』

『うん』

『わかったわ』

 ……みんな行くのかよ。

 部屋に入って、しばらく行った先。大きな広間に魔法陣が描かれている。

「私たちは周囲を警戒しています。調査が終わったら声をかけて下さい」

「わかった」

 カミーユと一緒に魔法陣に近づく。

「思ったより小さいかな」

 家一軒分ぐらいの大きさを想像してたけど。宿の一部屋分ぐらいの大きさだ。

「十分でかいだろ」

 街一つ分の大きさの魔法陣を見てるから、大きいって言うとかなり大きな魔法陣を想像してしまう。

「でも、何か大きなものを移動させるんじゃなきゃ、こんな大きさの魔法陣なんて必要ないよな」

「転移の魔法陣にしては余計な図が多すぎるし」

「そうだなぁ……」

 カミーユが図柄を書き写してる。

「この辺が余計だ」

「あ、馬鹿。せっかく写した上に書くんじゃねーよ」

 カミーユがメモ紙を破って俺に渡す。書き直すらしい。

 ……この部分がなければ、もう少し小さくなるのに。

 っていうか、外側はほとんど要らないんじゃないか?これ。大きくする意味が分からない。

 この文字、何の意味があるんだ?

 ここまで余計なものを入れる理由。多くの情報を魔法陣に込める必要……。

 転移の魔法陣に込めて意味のなす情報って、位置情報ぐらいだと思うけど。

 あれ?

 ってことは、この魔法陣って……。

「それにしても、魔法陣がこんなにはっきり残ってるのって違和感があるな」

 確かに。

 遺跡で見つかる魔法陣なんて、どこかが欠損してる場合が多いのだ。

 こんなに綺麗な状態で見つかるなんて珍しい。

 この空間だって……。

 すごく綺麗な空間だ。

 天井も崩れてないし。

「よし、写し終わった。エル、大きさを計測するの手伝ってくれ」

「あぁ」

 カミーユの方が乗り気だな。


 ※


 どうせ明日の探索にも使うだろうから、湖の氷はそのままに、ボートだけ回収して遺跡を出た。

 帰る際にメラニーとバニラを呼び出して、メラニーと人が居ないか探してみたけれど、あの場に誰かが居る様子はなかった。

 というか、遺跡内には他にも何組かの冒険者が居たらしい。魔法陣がある辺りの探索は終了していたから会わなかっただけで、帰り際に探索中の冒険者を何人か見かけた。その中にボートに悪戯をした人物は居なさそうだったけど。

 ボートは単に湖に流されて、俺が湖を凍らせたことによって端に追いやられただけとも考えられる。けど。それにしては、場所が魔法陣の目の前だったのも気になる。

 魔法陣が使われたような魔法の痕跡は探せなかったけれど……。

 なんだろうな、この違和感。

 


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