表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
21/149

19 焦がして冷やす

 ノックの音が二回。

「ん……?」

『ライーザだ』

「朝食をお持ち致しました」

 そういや、アニエスが朝食は部屋に持って来るって言ってたな。

 リリーが居るから気を使ったのか?

 旅に向いた服に着替えて、部屋の扉を開く。

「おはようございます」

「おはよう、ライーザ」

 ライーザが黒い服を持っている。

「可愛いな」

 また新しく作ったのかな。

 リリーの服を一式ライーザから受け取る。

「こちらのサービスも致しましょうか」

 ライーザの横には朝食を乗せたワゴンがある。

「いや、自分でやるよ」

 ライーザがワゴンを押して、部屋に入れる。

「リリーシア様が昨日着ていらっしゃった服は、後日送らせていただきます。黒炎は西大門の厩舎に預けておりますので、そちらからご出発ください」

「わかった」

「では、失礼いたします」

 ライーザが頭を下げて、扉を閉める。

 ワゴンをテーブルまで運んで、ベッドの側に行くと、リリーが目を開いている。

「起きてたのか」

「……うん」

「今日はこれを着て」

「え?」

 リリーに持っていた服を見せる。

 クロエが作った黒い服。

「あの、えっと……」

 普段着てるのに、今さら躊躇するのか?

「リリーが昨日着てた服はないぜ。後で家に届けるらしいから」

「あの、可愛いって、」

「この服も可愛いからリリーに似合うよ。着てくれるだろ?」

 リリーが顔を赤くして、頷く。

「ほら、早く着替えて朝食にしようぜ」

「うん」

 服をリリーに渡して、朝食の準備に取り掛かる。

 パンのバスケットとジャムをテーブルに置いて、平皿とグラスを並べる。

 バスケットからバゲットを取って適当な大きさに切って戻す。

 今日のパンは、バゲットと林檎のデニッシュ。

 ボールでサラダとドレッシングを合わせてテーブルの上の平皿に盛り、その横に保温皿に入れてあったオムレツを移してトマトソースをかける。

 蓋付きのスープを置いてフォークとスプーンを並べ、グラスに水をそそぐ。

 デザートは……。これか。後で仕上げよう。

 振り返ると、リリーの着替えはほとんど終わってる。後は、後ろのリボンを結ぶだけ。

 スープ皿の蓋を取る。カボチャのポタージュか。

 リリーの方に行く。

「結んでやろうか?」

「うん」

 リリーの腰のリボンを結んで、リボンの丸みの部分を整える。

「ありがとう」

 リリーが振り返る。

「可愛い」

 リリーが顔を赤くして、頷く。

 可愛い。

 今日はからかってるって言わないんだな。

「朝食の準備が出来たぜ」

「うん」

 椅子を引いてリリーを座らせ、自分も座る。

「美味しそう」

「デザートもあるぜ」

「楽しみ。いただきます」

「いただきます」

 まだ温かいポタージュを口に運ぶ。

「エルは今日、お休みなの?」

「いや。出かけるよ」

「そっか」

 ……話しておいても良いか。

「王都を出る」

「ドラゴンが見つかったの?」

「見つかってないよ。別件。カミーユと行ってくる。十五日までには帰る予定」

「良かった。……栗のケーキ、頑張って作るね」

「あぁ。楽しみにしてる」

 絶対帰って来よう。

「今日はね、ルイスとジニーと一緒に製菓材料店に行って、午後からマリーたちと遊ぶの」

 またマリーたちに連れ回されてるのか。

「忙しいな」

「エル、金髪碧眼の剣士の女の人、知ってる?」

「そんなのどこにでも居るぞ」

 金髪碧眼なんて、ラングリオンの一般的な容姿だ。

「綺麗な髪だったんだけど……」

 女性の剣士だって王都ならたくさん見かけるだろう。

「アレクさんの部下だって」

「部下?」

 誰のことだ?

「アレクさんの剣を持ってたんだ。近衛騎士じゃないみたい。セリーヌが、アレクさんの剣術大会の名代じゃないかって言ってたんだけど」

 アレクの剣を持った、金髪碧眼の女剣士、ねぇ……。

「それだけじゃ、誰のことかわからないな」

「そっか」

「それより。昨日、どうやってここに侵入したんだ?」

「えっと……。アレクさんの精霊が案内してくれたの」

 案内だけで簡単にたどり着けるようにはできてないはずだけど。

「皇太子の棟まで来れたとして。塔に登ったのか?」

「うん」

「どうやって?」

「え?……普通に、壁をよじ登っただけだけど」

 普通にって。壁をよじ登る行為自体が普通じゃない。

「命綱は?」

「えっと……」

 つけてないのか。

「なんでそう、危ないことばっかりするんだ。……っていうか、アレクの奴」

 なんでリリーにそんなことやらせたんだ。

「あの、アレクさんはロープを用意してくれるって言ってくれたし、私が登ってる間、見ててくれたみたいなんだけど、」

「そういう問題じゃない」

「えっと……、ごめんなさい」

 どうせ、俺が何で怒ってるかなんてわからないんだろう。

「謝るなら、俺が王都に居ない間ぐらいは大人しくしてて」

「ちゃんと大人しく王都に居るよ?」

 大人しくしてる、の意味わかってないな。

「危ないことはしないでくれ」

「しないよ」

 しただろ。

「本当に?」

「……うん」

 なんで、返事に間があるんだ。

「短刀、アヤスギさんに見せに行ってきたよ」

 もう行ってくれたのか。

「あれはルミエールの作品で、千年ぐらい前のものみたい」

「……は?」

 どういうことだ?

「えっと、ルミエール、リグニス、アルディア」

 剣の名工で知られる職人だ。

「この三人は、千年ぐらい前に居た有名な職人さんで、それぞれが独特の技術を持った人たちなんだって。そして、その技術は名前と共に弟子に継承されているらしいんだ。私の師匠が何代目か知らないけれど、ルミエールの剣の特徴は両刃の曲刀で、剣に光を当てると虹色の輝きが出るってアヤスギさんが言ってたよ」

 そういうことか。

 あの三人は年齢不詳の職人だとは思っていたけれど。

 ってことは、本名は別にあるのか?

「ルミエールの本名は?」

「本名?……うーん。みんな、ルミエールって呼んでいるし。アヤスギさんから聞くまで師匠の本名だと思ってたから」

 技術継承の話し自体、リリーは全く知らなかったみたいだな。

 っていうか。ルミエールはずっと、グラシアルのあそこで技術の継承をし続けてたってことか?

「アヤスギさんが詳しい年代の調査をしてくれるって言っていたから、お願いしておいたよ。調査が終わったら家に届けてくれるって。……それから、出所を出すのは難しいって言ってたよ。一度も使われずに大事に保管されていたってことしかわからないって」

「一度も使われてない?」

「うん」

「そんなこともわかるのか」

「わかるみたい。作られた時のままの状態で、誰かを斬ったこともないし、鍛冶屋の手入れもされてないって」

 なら、本当に使われてないのか。

 ……暗殺者の得物にしては妙だな。

「アレクさんの刀も頼んだけど、時間がかかりそうだって」

「どうせ急がないから大丈夫だ」

 使う用事もないだろうし。

 もしかしたら剣術大会の時に帯刀したいのかもしれないけど。

「あのね、エル」

「ん?」

「私の髪、切って欲しい?」

「え?切るのか?」

「えっと……。エルは、どう思ってるのかと思って」

「好きにすれば良いだろ」

「……」

 リリーが何故か頬を膨らませる。

『エル、それはないんじゃない?』

『怒らせたな』

 なんで?

『リリー、髪を切りたいの?』

「……そうじゃないけど」

「だったらなんでそんなこと聞くんだよ。髪の長さなんて他人にどうこう言われることじゃないだろ」

『エルはぁ、長いのと短いのどっちが好きなのぉ?』

「別に長さにこだわりなんてない」

『ばっさり切っちゃっても良いってことぉ?』

「髪なんてどうせすぐのびるだろ」

「わかった」

 なんで、そんなに怒ってるんだよ。

『エル、せめて今の長さに対する感想ぐらい言ったらどう?』

「リリーらしいと思うよ」

 黒くてしなやかで。

「短く切っても可愛いだろうし。今のまま長いのもすごく良い」

「エルの、ばか」

 なんで?

 怒らせるようなこと言ったつもりないけど。

「そろそろデザートを準備するか?」

 リリーが頷く。

 サイフォンにコーヒーをセットして、アルコールランプに火をつける。

 テーブルの食器を片づけて、平たい器に入ったプリンを出す。

「プリン?」

「ちょっと待ってて」

 プリンに砂糖を振りかける。

 そして、指を近づけて、炎の魔法で砂糖を燃やす。

「わぁ」

 これぐらい焼けば良いかな。

 後は、冷やすんだっけ。

「これ、このまま急速冷却しても大丈夫か?」

「大丈夫だと思うよ」

「ん。じゃあ」

 今度は雪の魔法で冷やす。

 あんまり急速冷却すると器の方が割れそうだけど。

 ……すぐ固まったな。これで完成。

「どうぞ」

 スプーンを添えて、リリーにクレームブリュレを出す。

「美味しそう。ありがとう」

 リリーが微笑んでスプーンを手に取って、表面のカラメルをスプーンで叩く。

 楽しそうだな。

 怒ってたんじゃなかったのか。

 サイフォンのコーヒーを仕上げて、コーヒーカップに注いで出す。

「美味しい」

 本当に。

 ころころ表情が変わるから面白い。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ