表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
20/149

18 侵入者

「っていうか、エルロック。お前、結婚したって言ってたよな」

「指輪見ればわかるだろ」

「あの、黒髪の女と?」

 黒髪の女だけじゃ、最早誰のことかわからないぞ。

「リリーシアだ」

「マリーの友達って本当か?どこで見つけて来たんだ」

「どこでも良いだろ。マリーはリリーを気に入ってるんだよ」

「刀を振り回すような恐ろしい女だぞ」

 武器を扱う女性なんて珍しくないと思うけど。

「リリーの本来の得物は大剣だ」

「はぁ?大剣だって?あんな小さいのが、大剣使うって言うのか」

「そうだよ。ガラハドと引き分けた強さだ」

「可愛い顔して、化け物みたいな女だな」

「……いいかげんにしろよ」

「怒るなって」

「フェリックス王子はさ、」

「めんどい。リックで良いぜ」

「リックは、マリーをあきらめないのか」

「王族に対して敬意のかけらもないな」

「文句あるのか」

「ねーよ」

「っていうか、王族と思えないその口の悪さをどうにかしたらどうだ」

「お前に言われたくないぞ」

「俺は王族じゃない」

「敬語なんて式典の時に使えれば良いんだよ。仕事するには砕けた口調の方がやりやすいんだ。砂漠の連中はラングリオンの王族ってだけで警戒しやがるから」

「あー。それはあるかもな」

「ってわけで俺は口が悪いんじゃない」

「フォション辺境伯に怒られないのか」

「あの爺さんにはたまに怒られるぜ。そろそろ諦めたみたいだけどな。後、伯爵の令嬢を嫁に取れってうるさいんだ」

「取れば良いだろ」

「俺にはマリーが居る」

「マリーはリックを相手にしてないだろ」

「いずれ落とすぜ。マリーの趣味も好みも把握してるからな」

 本当に、あきらめる気ないんだな。

「せいぜい頑張れよ」

「当たり前だろ。……っていうか、お前優秀だな。俺の秘書官にならないか」

「今はアレクの秘書官をやってるよ」

「先に取られたか」

 問答無用の辞令だったけど。

「ジェモの二日の地震、リックはどう思ってるんだ?」

「あれは、アンシェラートの力で揺れたんじゃない」

「断言できるのか」

「アンシェラートの力で揺れてるなら、もう世界は終わってる。アンシェラートが地表付近まで来てるってことだからな。似たような地震が八百年前と千二百年前に起こってるなら、ここまで世界が無事であるのがおかしいだろ。アンシェラートとは関係ない」

 リックが言うならそうなのだろう。

「それと。八百年前に起こってる、大地震。砂漠を震源としてる奴があっただろ?」

 八百年前に起こった地震の一つ。震源がある大地震の方か。

「あぁ」

「これは、月から月の石が降って来た時のものだ」

「月の石?」

「炎の大精霊が東を砂漠化した後、砂漠に月から巨大な月の石が降って来てる。それが原因の揺れ」

「……月の大精霊が来た時の?」

「月の大精霊なんて俺は会ったことないけど。そうなんじゃないか?月の渓谷には、月の大精霊が降りた時にできたクレーターがあるんだろ?」

 クレーターって。

 あれかな……。

 月の石が岩壁みたいになって囲われた場所。

 封印の棺が隠されていた場所だ。

「俺が思うに……。ジェモの二日、八百年前、千二百年前の地震ってのは、アンシェラートを抑えてる神々に何か関係があるんじゃないか?」

「なんで?」

「アンシェラートは星の中心。地下深くに眠る神。その神を覆っているのが、他の神の力だからだ。より地表を強く揺らすのって、そっちの神のイメージだな」

 確かに、そうかもしれない。

「地表の神に働きかける何かが起こったってことか?」

「何かって言っても、推測する材料が足りない。地下のことなんて精霊に聞いてもわからないからな」

 そうだよな。

 しかも、精霊というのは時間の感覚がほとんどないのだ。聞いたところでいつの話しかなんてわからないだろう。

「あー、眠てぇ……。今日はこの辺にしとくか」

「明日から俺は手伝わないぞ」

「どうせ俺の秘書官が来るんだ。こっちで捌けない仕事はアレクの執務室に回す。明日は遺跡に行くんだろ?面白い発見があれば教えてくれ」

「わかったよ」

「じゃあな、エル」

「おやすみ、リック」

 

 ※

 

 遅くなったな。

 リックの部屋から、皇太子の棟に移動する。

「お疲れ様です、エルロック様」

「お疲れ」

 皇太子の棟に続く扉を開けてもらって、部屋に入る。

 俺の部屋は入ってすぐの場所だけど。

 そのまま廊下を進んでベランダへ。

「シールと、アニエス?」

「お疲れ様です、エルロック様」

「ようやく帰ったのか、エル」

 今日の夜間の護衛はレンシールか。

 なんでアニエスまで起きて紅茶を飲んでるんだ?

「コーヒーか紅茶をご用意いたしましょうか」

「いや、いいよ。今日はもう寝る。明日は……、」

「お出かけと伺っております。ご朝食はお部屋にお運びしますね」

「ん?……あぁ。わかった」

 朝食はいつもベランダで皆と食べるんだけど。

 明日はカミーユの家に行って、遺跡を目指すだけだし。久しぶりにゆっくり寝てても良いかな。

「おやすみ」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ、エル」

 

 廊下を戻って、自分の部屋に入る。

「……あれ?」

『あれ?』

 明かりがついてる。

 紅茶の準備もしてあるし。

 アニエスが用意してくれたのか?

 ……いや、ちょっと待て。

 カップが使われた形跡がある。

 なんで?

 ……ベッドに誰か居る?

「え?」

 なんで?

 本物?

 長い黒髪を掻き上げて、眠っているその頬に触れる。

「んん……」

 本物だよな。

「起きて」

 目を開いてくれる様子はない。

 なんでリリーが居るか聞かないと。

 

 部屋を出て、ベランダに行く。

 アニエスは寝たのかな。シールだけがベランダで本を読んでる。

「何か用か」

「なんでリリーが居るんだよ」

「侵入者の話しは知っているか」

「知ってるよ」

「その侵入経路の調査に協力してもらった。リリーシアは、誰にも見つからずにここまで来たんだ」

「は?」

「主君が彼女に依頼していたことだ」

 リリー、侵入者と同じことをやったのか?

「どうやって入ったんだ」

「さぁ。……リリーシアは、突然宝物塔の入口から現れた。ここに来るまでに一切の騒ぎも起こさずに」

「ってことは、城内からじゃなく、外から入って来たのか?」

 外の警備だって十分厳しいはずなのに。

「おそらく。詳しくはリリーシアか主君に聞けば良い」

 何やってるんだよ、リリー。

「わかったよ。……おやすみ、シール」

「おやすみ、エル」

 リリーが起きたらリリーに聞こう。

 

 外から侵入する方法……。

 アレクが協力した?

 いや。アレクが協力したり、魔法を使うなら、侵入経路の調査の意味がない。

 仮に警備の隙をついて、皇太子の棟まで来たとして。

 その後、どうしたんだ?

 リリーは宝物塔から現れたと言っていた。

 まさか……。

 

 シャワーから出て、ベッドに行く。

 あれ?

 リリーが起きてる。

「あの……。ここって、エルの部屋なの?」

「知らなかったのか?」

「この部屋で休んでって、アニエスさんに言われたから……」

 大した荷物もないし、何も聞いてないなら誰の部屋かなんてわからないよな。

 肩にかかるリリーの髪を払うと、白い肌の上に、うっすらと伸びる赤い線が現れる。

 刃物で斬られた跡。

 ……早く綺麗になれば良いけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ