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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
18/149

16 本日二回目

 リリーと別れてアレクの書斎に向かうと、書斎の前にツァレンとローグバルが居た。

「ローグ、帰ったのか」

「エルロックさん。お久しぶりです」

「久しぶり」

 会うの、どれぐらいぶりだ?

「ドラゴンの根城を見つけたのか?」

「いえ。残念ながらまだ見つかっていません」

「そうか」

「主君に報告したら、すぐに出発するらしいぜ」

「なんで?……そういえば、グリフは一緒じゃないのか?」

「グリフとは別行動でドラゴンを探しています。主君の指示はラングリオン国内の捜索ですから、東と南を回ったら帰って来ると思いますよ。私は王都の北と西を回って、一旦報告に寄っただけです」

「西か……。トゥンク村には寄ったか?」

「トゥンク村?」

「ちょっと気になることがあって……」

「行きましたよ。かなり怪しい村ですね」

「怪しいって?」

「何かを隠しているようなんです。植樹作業がいまだに順調ではなく、植樹用の苗木をどこかに横流ししてるって噂がありますね。詳しく調べる余裕はありませんでしたが。……ただ、あの周辺でもドラゴンの咆哮を聞いたという噂があるので、ドラゴンが立ち寄った可能性はあります」

 あそこも山だから、ドラゴンが降りた可能性はあるのだろう。

「痕跡は探せませんでしたが」

「そうか」

 一度現地に行った方が良いだろうな。何をしてるのか気になる。

「ローグはこれから竜の山を目指すらしいぜ」

「竜の山に?」

「はい。オートクレール地方の捜索が済んだら、立ち寄ってみるつもりです」

 

 竜の山。

 ラングリオン王国、ティルフィグン王国、神聖王国クエスタニアの三国に囲まれた山で、どの国にも所属していない場所だ。ラングリオンでは、オートクレール地方の南西部にある。バールディバ山脈の北に位置するが、山脈から独立した山だ。

 ドラゴンが棲む山として知られ、赤竜ルーベル、緑竜ウィリデ、黒竜ニゲルが棲家としている。紫竜ケウスも居たが、ブラッドドラゴンに堕ちた為、竜の山でアレクに退治された。

 ……退治される理由になったのが、ローグとパーシバル兄弟。

 神聖王国クエスタニアにあった二人の村が、突然、ケウスに襲われたのだ。

 村を襲い、人を襲うことで、ケウスはブラッドに堕ちた。クレアドラゴンは、肉食を行うことでブラッドに変化してしまうのだ。

 ケウスは身分を隠して旅をしていたアレクによって村から追い払われたが、壊滅的な被害を受けた村に残る者は居なく、村は廃村となる。故郷を失ったローグとパーシバルは、アレクの正体を知らないまま、アレクにケウス退治を依頼。快諾したアレクによって、ケウスは竜の山で退治された。

 アレクと一緒に竜殺しに関わったのは、世間一般には、ガラハド、ツァレン、レンシール、ローグバルと発表されている。パーシバルと俺もその場に居たけど、公表はされていない。

 けど。実際に戦っていたのは、ほとんどアレクとガラハドだ。ツァレンとシールは、ローグ、パーシバル、俺の護衛を命じられていた。

 ……色々あって、ケウス退治後、身分がばれたアレクは、ツァレンとシールにドラゴンの死体をラングリオンに運ぶように命令。ローグはそれを手伝って王都に帰還。その後、アレクの従騎士をやり、近衛騎士になった。

 っていうか。未だに、どうやってラングリオンの王都までドラゴンの巨体を運んだのかわからない。そんな命令を二つ返事で承諾する近衛騎士の感覚も謎だ。

 アレクは近衛騎士にドラゴンの運搬を任せて、俺とガラハド、パーシバルと一緒に旅を続けてのんびり王都に帰還。

 あれも結構楽しかったな。

 

「何しに行くんだ?」

「ドラゴンのことならドラゴンに聞いた方が早いかと思いまして」

「話せるのか?」

「ドラゴン王国時代の言語は勉強したので何とかなると思います」

―「相手はドラゴンだ。簡単に話してくれるとは限らないぞ」

―「クレアドラゴンです。こちらが攻撃的な態度を見せない限り、対話に応じてくれると信じています」

 ドラゴン王国時代の言語。流暢に話せるみたいだな。

―「攻撃されたらどうするんだ」

―「逃げます。ツァレンからも戦うなと言われたばかりです」

「なら、行っても良いんじゃないか」

「……お前らさぁ。俺にもわかる言葉で話せよ」

「ツァレンの忠告はちゃんと聞いてるらしいぜ」

「はいはい」

「でも、一人で行くのは危険だ。誰か連れて行った方が良い」

「これは主命です。誰かを同行させることはできません」

 近衛騎士をこれ以上、外に出すわけにもいかないんだよな……。

「人手不足が深刻だぞ。アレクの我儘のツケが回ってるな。陛下の近衛騎士に頼むしかないんじゃないか」

「できません。主君は借りを作るのがお嫌いです」

「一人はだめだ。どうしても一人で行くって言うんなら俺が行く」

「エルは何にでも首突っ込みたがるなぁ。近衛騎士の仕事だぜ?それ以上自分の仕事増やしてどうするんだ」

「エルロックさん、今、何してるんですか?旅先で黄昏の魔法使いがドラゴンに殺されたって噂を聞きましたけど」

 王都の外でも、ちゃんと噂になってるのか。

「アレクの秘書官。紫竜の居所がわかったら退治しに行かなくちゃいけないし、剣術大会のアレクの名代も請け負ったんだ」

「それ、竜の山に行ってる暇なんてないじゃないですか」

「うるさいな。アレクに言えよ」

 今、どこで何してるか知らないけど。


 ※


 資料は出来た。

 フェリックス王子に会いに行きたいけど、アレクが帰ってこない。

 机の上の仕事を片付けても良いけど……。

 丁度良いからあれを作ろう。

「アニエス、前に言ってたの、用意してくれたか?」

「はい」

 アニエスが書斎の棚から箱を取り出して持って来る。

「ガラス繊維と、織り方の違うガラス敷布を何種類かご用意いたしました」

「へぇ。結構あるんだな」

 一から作らないといけないかと思っていたけれど。

「耐熱素材として防具に採用されることもある素材です」

 防具製作者にとっては有名な素材なのかな。

「これで衣装を作れないか、クロエに頼んでみてくれないか」

「アレクシス様と同じ衣装を作るには、この繊維は向いていません」

「内側に入れてくれるだけで良いよ。無理なら二重にして着る。たぶん、胸の辺り……、胴体さえ、この素材で覆えば良い」

 たぶんそれで見えないはずだ。全身を覆う必要はないと思いたい。

 ガラス敷布を一つとって、体に巻きつける。

「リリーで実験してみないとわからないけどな」

『エル、ちょっと、その縫い目の荒いやつ、持ち上げてくれるぅ?』

「ん?あぁ」

 絡み織された、縫い目の荒いガラス敷布を選んで、持ち上げる。

『顕現するよぉ?』

「あぁ」

 ユールが顕現して、そのガラス敷布の後ろ側に行く。

「あれ……?」

 縫い目が荒いから、ここから向こう側は見えるのに。

 後ろに回ったはずのユールの姿が見えない。

 布をどけると、ユールの姿がそこにある。

『ガラスって不思議ねぇ』

 ユールが顕現を解く。

 本当に、ガラスを通すと精霊は見えないのか……?

 ガラス繊維を体に巻いておけば、リリーにばれることはない?

「試作品を作ってもらって良いか?」

「クロエに頼んでおきましょう」

「頼む」

 せっかくだから、俺も何か簡単なものを作ってみるか。

「針と糸はあるか?」

「私の手持ちので良ければございます」

 アニエスがポケットから簡易の裁縫道具を出す。

「借りるぜ」

 ガラス敷布をいくつか組み合わせる。

 服の上からでもつけやすくしたいから……。

 ベストみたいにすれば良いだろう。

「ボタンが要るな」

「ご用意いたします。少々お待ちください」

 そう言って、アニエスが書斎を出る。


 ※


「エル」

「アレク」

 ようやく戻ったのか。

「裁縫?」

「あぁ。精霊の光を隠す布。とりあえず胴体を覆う……、ベストを作って、リリーで試してみる」

「順調に準備が進んでいるね」

「ローグの報告は聞いたか?」

「聞いたよ。エルも出かけておいで」

「良いのか?竜の山に行っても」

「違うよ。オートクレール地方の遺跡に行って欲しい」

「遺跡?」

「変わった魔法陣が見つかったらしいんだ。これが複写だよ。どこまで正確かわからないけれどね。かなり大きなものらしい」

 アレクから受け取った図柄を見る。

 これは……。

「転移の魔法陣じゃないか」

「やっぱりそう見えるかい」

「基本構造は同じだ」

「ドラゴン王国時代の遺跡だよ」

「グラシアルも、古い時代の文献をひも解いて転移の魔法陣を開発したのか?」

「可能性はあるだろうね。ローグと一緒に行って来て欲しいんだ」

「なら、ついでに竜の山まで行って来ても……」

「許可できない。竜の山は遠いからね。二人で行って、調査が終了次第すぐに帰っておいで」

「帰還したら、ローグを一人で竜の山に行かせる気か?」

「そんなことはしないよ」

「じゃあ、どうするんだ」

「もう一人、近衛騎士を増やそうと思う」

「良い案だ」

 ようやく人手が増える。

「二人が帰って来るまでに用意しておくよ」

「何日で用意できるんだ?」

「早くても休み明けかな」

 今日が六日だから……、九日ってことか。

「遺跡の最短往復距離は?」

「馬で移動すれば二、三日ってところかな」

「案外近いな」

 調査にかかる日数は、移動込みで五日から十日ってとこかな。

 いや。十五日までには帰ってきたいから、少なくとも八日以内にしないと。

「エルが馬に乗れたら申し分ないんだけどね」

「必要ないだろ。……ん?ちょっと待てよ」

 馬に乗れるのって……。

「アレク、ローグは近衛騎士が増えたらすぐに竜の山に派遣して良いぜ」

「エルは別の誰かと行くのかな」

「交渉してくる」

 席を立つと、ライーザが傍に来る。

「エルロック様、マントを」

「あー、忘れてた」

「目薬もお忘れにならないよう」

 忘れてた。

 マントを貰って、目薬を差す。

 っていうか。良く、毎回違うマントを用意してくるよな。

「行き先は錬金術研究所かな」

「正解」

 そうだ。せっかく作ったから、あのベストも着て歩こう。

「出発はいつにするんだい」

「明日で良いだろ?」

「リックに仕事の引継ぎをしてからだよ」

 そうだった。

「じゃあ、明後日」

「黒炎を貸してあげよう」

 黒炎は、二人乗りに向いた大きな馬だ。

「了解」


 ※


 錬金術研究所。

「いらっしゃいませ」

「カミーユは居るか?」

「研究室にいらっしゃいます」

「ん」

 良かった。図書館から戻ってる。

 もう一度図書館に行くのはごめんだ。

 カミーユの研究室は二階。階段を上って、研究室に行く。


「ノックぐらいしてよ」

 セリーヌ。

「あれ?エル」

 アシュリック。

「何しに来たんだ」

 ノエル。

「暇なのか?」

 ジャンルード。

 目薬で瞳の色を変えてるんだけど。

 ここに居る連中は、皆そんなこと知ってるか。

「どうしたんだ?エル」

「カミーユ。明日から一緒に出掛けて欲しいんだ」

「……は?」

「何言ってるのよ。さんざん書庫の整理手伝わせておいて」

 図書館に、みんな居たのか。

「お前の仮説の実証でこっちは忙しいんだぞ」

「転移の魔法陣が遺跡から見つかったらしいんだ」

「え?」

「なんだって?」

「俺は馬に乗れないから、一緒に来てくれ」

「お前なぁ……」

「行って来いよカミーユ。実験なら俺たちがやっておくぜ」

「どうせエルは何言っても聞かないだろ」

「お前ら。俺は室長なんだぞ」

「実際に見て来た方が良いんじゃないかな」

「馬に乗れるのなんてカミーユだけよ」

「アレクの依頼だ。仕事で行くんだから大丈夫だろ」

「依頼って。書類回って来てないぞ」

「……アレクに頼んで、後で回しておく」

「お前、アレクシス様の秘書官になったなら、書類ぐらい自分で書いて持って来いよ」

 そうだった。

「エル、秘書官なんてやってるの?」

「そうだよ。魔法部隊から異動させられたんだ」

「なんだか似合わないね。仕事は出来そうだけど」

「確かに」

「うるさいな」

 俺だって好きでなったんじゃないのに。笑いやがって。

 あ、そうだ。

「良いものやるよ」

「良いもの?」

 持っていたキャラメルを見せる。

「キャラメル?」

「リリーが作ったんだ」

「美味しそうね」

 セリーヌが赤い色を取る。

「自分で食えないからって他人に食わせるのか」

「全部俺が好きな奴だよ」

 ルードも赤、ノエルとアシューが黄色を取る。

「お前が好きな奴って、あれだろ」

 カミーユは焦茶色のを取り、みんながキャラメルを食べる。

「んっ!」

「っ!」

「うわっ」

「懐かしいな」

「美味いなー。流石リリーシアちゃん」

 口を押えてるのが三人。平気な顔で食べてるのがノエルとカミーユ。

「ちょ、これ、なんなのよ」

「ユリアがリリーに教えたレシピだよ」

「だと思ったぜ。あれだろ?赤はトマト、黄色はシナモン、焦茶はコーヒー」

「正解」

 カミーユは気付いてたのか。

「もうっ。ユリア、エルしか食べないって教えなかったの」

「お前らがリリーに変なこと吹き込もうとするからだよ」

「くっそー、嵌めやがって」

「僕、関係ないのに……。なんでノエルは平気なの?」

「ノエルは昔から味音痴だからな。何食っても美味いって言うだろ」

「俺だってもう少し甘い方が良いぜ」

「甘味は十分じゃないか。……じゃあ、カミーユ。出発は明後日。家まで迎えに行くから準備して待ってろよ」

「相変わらず休みの感覚のない奴だな」

 そういえば、明後日はヴィエルジュの八日で休みか。

「文句あるのか」

「はいはい。ついて行けば良いんだろ?」

 あ。そうだ。

「ルイスとキャロルに会ったか?」

「会ったよ。二人とも元気にしてるぜ」

「なら良い」

 城に帰るか。

 


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