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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
13/149

11 秋の夜長は読書に最適

 あれ。

 なんで、ベッドの上に居るんだ?

 体を起こす。

「エル、起きたの?」

 眼鏡をかけたリリーが、スピカを抱きながら本を読んでいる。

「今って……」

「もう夜中だよ」

 だよな。

「寝過ぎた」

 リリーがくすくす笑う。

「すごく気持ち良さそうに寝てた」

『爆睡だったわね』

「久しぶりにぐっすり寝た」

「良かった」

 ベッドから出て体を伸ばす。

 本当に良い睡眠がとれた。

「夕飯の支度するね。キャロルがグラタンを作ってくれたんだ。焼き直すから待ってて」

「じゃあ、その間にシャワー浴びて来る。……あ。そうだ」

「うん?」

「明日から店開けてってルイスに伝えておいて。注文は、知り合いからなら受けていいよ」

「うん。わかった」

 

 ※

 

 シャワーを浴びて台所に入ると、夕飯の準備が出来ていた。

 チーズの焼ける良い匂い。

 テーブルの上には紅茶のポットも置いてある。

 椅子に座ると、リリーが俺の後ろに立って、頭を拭く。

「あのね、言うの遅くなっちゃったんだけど、大晦日にアヤスギさんが来たんだ」

「アヤスギって?」

 誰だっけ。

「セルメアの鍛冶屋だって」

「あー、刀鍛冶か」

 セルメアで会った鍛冶屋。

 そういえば、名前、聞いてなかったな。

「今度、王都でお店を開くんだって。場所は、ポラリスのお店って言ってたよ」

「そうか」

 王都で有名な占い師ポラリスは、傭兵サンドリヨンと共に旅に出た。

 ……ということになっている。

 あの家は売り払われたが、ポラリス目当ての客がいまだに押し寄せるような物件なんて誰も買うわけがない。王都の一等地にしては破格の値段で売りに出されていたはずだ。

 今度行ってみよう。

「それから、ムラサメさん」

「村雨?」

「アヤスギさんと一緒に来た人。剣術大会に出場するみたい」

「どんな奴?」

「えっと……。私と同じ黒髪で黒い瞳の男の人」

『リリー、口説かれそうになってたのよぉ』

「え?」

「えっ。そんなことないよ」

 口説かれたな。

「剣術大会に出るんだっけ?」

「えっ?……あ、うん。出るって言ってたよ、ムラサメさん」

 勝ち上がって来たら、いずれ戦える。

 どんな奴か知らないけど黒髪ならすぐわかるだろう。

 ……でも、リリーにばれないようにしないとな。剣術大会に出場すること。

 リリーが頭にかかっていたタオルを持って離れ、ティーポットに準備していた紅茶をカップに注ぐ。

「少し濃く出すぎちゃったかも」

 俺の前にカップを置いて、リリーが横に座る。

 そうだ。あれ、詳しく聞いておかないと。

「リリー。俺の光って、金色に見えるのか?」

「うん」

 リリーがメガネをずらして俺を見る。

「エルはいつも特別だよ。金色の光なんて砂漠じゃないと見かけないからすごく目立つ」

 ばればれだな。

 何か、対策を考えておかないと……。

「眼鏡をかけてたら見えないんだっけ?」

「うん。そういえば、鏡越しでも見えないみたい」

 やっぱりガラスが関係してるのか?

「光ってるって、具体的にどの辺りが光ってるんだ?」

「心臓のあたりが一番強い」

 言いながら、リリーが俺の胸を指さす。

 それを上手く利用して、リリーの目隠しになるような布でも作れないかな。

 そうすれば、リリーにばれない気がする。

「あのね、エル。私、エイダから精霊玉を貰ってたんだ。エイダは私の短剣につけてくれたんだけど……。あの精霊玉、今は何故かルビーになってるの」

「エイダの精霊玉とルビーって、そんなに違うものか?」

「違うよ」

 もともと精霊玉だったルビーも存在する?

 それとも、宝石自体、精霊の力と何らかの関係があるのか?

「あの……、夕飯食べたら、すぐに出かけちゃう?」

 明日の朝一に、書斎に居ないといけないだろうからな。

「試してくる」

「え?」

 廊下に出て、転移の魔法陣を描く。

「転移の魔法陣?」

 出口を描いて、入口を描く。

「イリス、ちょっと留守番しててくれ」

『了解』

 入口に手をついて、魔力を集中する。

 砂の魔法……。

 探せるか?

 近くに……、二か所?

 一つは俺が今描いた出口の魔法陣だ。もう一つは……。

 目を開いて、その先を見る。

「?」

 リリー。

 そうか。リリーに渡した指輪。あれは俺の力だから目印になるのか。

 ってことは……。

 いや。後で考えよう。

 もう一度目を閉じて、魔力を集中する。

 同じ力。

 探して……。もっと、遠く。


 見つけた。


 転移する。

 前にも感じたことのある感覚。

 でも、それは一瞬。


「エル」

 目を開くと、ツァレンが居る。

「ツァレン?」

 アレクの書斎の前に椅子を出して、本を読んでいる。

「こんばんは。面白い魔法だな」

「こんばんは。……ずっと見張ってるのか?」

「何か面白いものが出てこないかと思ってな」

「俺、また家に帰るけど」

「あぁ。いってらっしゃい」

「ずっと一人で見張ってるつもりか?」

「まさか。本を読み終わったら、適当な兵士に変わってもらうさ」

「なら、良いけど」

「相変わらず心配性だなぁ、エルは」

「別に。明日の朝には戻るよ」

「了解」

 転移の魔法陣の入口を空中に描く。

「綺麗な魔法陣だな」

「アレクと同じ魔法だからな」

 今度は探しやすい。

 目印が二つもあるから。

 魔力を集中して……。飛ぶ。


 成功。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 転移の魔法陣を消しておく。

 一応、ほかの魔法も込めて、完全に崩しておくか。

「エル、転移の魔法陣が使えるようになったの?」

「限定された状況でなら。俺もまだ完璧に理解してるわけじゃない。……俺だけが使えるんなら、家に描いて毎日帰って来るんだけどな」

 でも、転移の魔法陣を使う時の魔力の消費は、かなり激しい気がする。

 グラシアルでは女王の魔力を使っていたから楽に飛べたんだろうけど。自分の力で無理やり繋ぐのは、距離に比例してかなり魔力を消費するらしい。

 それなら、出口を設定したとこで、簡単に使用できる人間なんて居ないかもしれないけど。

 ……何か、嫌な予感がするんだよな。俺が使える以上、誰にでも使える可能性かある。

 でも、なんとなく糸口が見えたから。カミーユの研究を手伝えば、限定的な状況で確実に転移可能な装置が作れるかもしれない。

「待ってるよ。帰って来るの」

「次、いつ帰れるかわからないぞ」

「それでも良いの。エルが帰る場所がここだから」

 可愛い。

「本当に、大人しく待ってられるか?」

 勝手に砂漠に行った前例があるからな。

「えっと……。たぶん」

 たぶんって。

 大人しくして居る気、全くないな?

 


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