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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
102/149

111 大精霊と光の国

 光の間。

 中央に封印の棺があるだけで、他には何もない円形の空間。

 棺はロマーノで見た時と同じように、周囲に赤い紐が張ってある。精霊が迂闊に近寄らないための配慮かな。

 壁に窓が一切ない代わりに、天井部分は透明なガラスで覆われている。今は曇り空しか見えないけど、晴れていたら明るい光が射し込む場所なんだろう。

「アイフェルは、ここではどういう立場なんだ?」

「聖堂騎士団部隊長ってやつだよ」

 聖堂騎士、ね。

「騎士には見えないけど」

「肩書きに意味なんてないよ。要はこれを守るのが仕事なだけだから」

 アイフェルの視線の先にあるのは、封印の棺。

「見えるのか」

「見えるよ」

 やっぱり。

『え?見えるの?』

「アイフェルは人間と瞳を交換してる。瞳はその特性を失わないまま交換されるんだ。だから、アイフェルは右の瞳で封印の棺を見ることが出来るんだよ」

「良く知ってるね」

 レイリスに確認したわけじゃ無いけど、確信を持てる情報は揃ってたから。

「これは、アイフェルが探したものなのか?」

「そうだよ」

『もしかして、アイフェルはこれを探す為に光の洞窟を出たの?』

「あれ?言ってなかったっけ?」

『言ってないわよ!』

『聞いてないな』

「そうだっけ。じゃあ、君は誰から聞いたの?」

「誰からも聞いてないよ」

「なら、どうしてわかったの?」

「推測。俺が人間の瞳を持つ精霊だったら、封印の棺を探して、絶対に人間の手に渡らない場所に隠そうと思うから」

 アイフェルが笑う。

「面白いね。私も最初はそのつもりだったよ。……でも、色んなことがあって、ここで管理してるってわけ」

「随分、端折ったな」

 一言で片付くような話しじゃない。

「グランツシルト教の設立にも、クエスタニアの建国にも関わってるっていうのに」

「どうしてそう思うの?」

 さっきから、質問ばっかりだ。

「アイフェルは建前上、王家の人間ってことになってるだろ」

『えっ?』

「それも推測?」

「そうだよ。聖櫃は王家がグランツシルト教の守り手として教皇から預かっているものだ。管理してるのは王族じゃないとおかしい。それに、アイフェルは聖堂騎士って言っただろ。神聖王国樹立以来、王家であるアドラー家は聖堂騎士団の一員だ」

「すごいね。正解だよ」

 王族ですら光の間の出入りに制限がかかることは不自然だと思ってたけど。アイフェルが王族を称して独占管理をしていたなら納得がいく。

『全然、光の洞窟に帰って来ないと思ったら、こんなことしてたなんて』

「こっちの生活も悪くないよ」

『帰ってくるって言ってたのに』

「待ってたの?」

『オルロワール家を頼むって言ったのは誰よ』

「あ、そうだったね」

 グラム湖にある光の洞窟で光の精霊との契約することは、オルロワール家に生まれた者の試練。マリーに付き合って光の洞窟に行ったのを思い出すな。メラニーと会ったのも、その時だ。

 アイフェルと初代オルロワールとの約束だったんだろうけど……。

『もぅ。いつも適当なんだから』

「ごめんごめん」

 アイフェルは忘れてたみたいだな。

「それで?君の推測はこれで終わり?」

 推測って言うか……。

「グランツシルト教の設立には、ヴェラチュールを知っている人間が関わってるはずなんだ。グランツシルト教が示す悪魔のイメージは、魔王よりもヴェラチュールに近い」

―願いを叶えると甘言を抜かすのは悪魔と相場が決まっております。

「クエスタニアの国王や王太子がベネトナアシュに騙されなかったのは、あいつが悪魔だって認識が共有されてたからだ。グランツシルト教が火葬を行うのだって、死体をあいつに使われない為なんじゃないのか?」

―灰にならない限り、死体はすべて私が自由に使える傀儡だぞ。

―お前たちが死体を棺に入れるのは、魂の抜けた死体を私に捧げているからだろう。

 この地域はラングリオンと同じように棺に入れて土葬するのが一般的だった。けれど、グランツシルト教徒は火葬を望んだ。都市で火葬をするとなれば相応の設備が必要で、グランツシルト教徒が都市と揉めた最大の原因も、これだったと言われている。

 宗教上の理由はそれぞれあったはずだけど、妙に符合する。

「なんだか、あいつが封印の棺を狙って来た時に備えてたように感じるんだよ」

「正解」

 アイフェルが頷いて、満足そうに微笑む。

「あの男の情報を教えたのは私だよ」

 アイフェルがここに居る以上、最も知識があるアイフェルが教えたって考えるのが自然だからな。

「でも、宗教だとかを考えたのは人間だ。未来に向けて備えておかなきゃいけないって。その結果、棺は私の絶対的な監視下に置こうってことになったんだ」

 それが、アイフェルがここに居る理由。

「ただ、全てが上手く行くわけじゃ無くってさ。ほら。人間ってすぐに忘れちゃうじゃない」

『アイフェルには言われたくないでしょうね』

「忘れてないってば。ちゃんと帰る予定だったよ」

『どうかしら』

「マリアンヌは怒りっぽいの?」

『そんなことないわ』

「ふふふ。精霊は人間に似るからね」

 正解。

『マリーはとっても優しいのよ』

『脱線してるぞ』

「そうだった。……だから、君たちがベネトナアシュを消してくれて助かったよ。ありがとう」

 そんな話しだったか?

「ちょっと困ってたところだったんだ。本来なら戦える聖堂騎士が常駐してるはずだったんだけど、今は居なくってね」

―今の人間は世代交代が細かいからな。

 慣習だけ残って真の意味が廃れるなんて良くあることだ。

「でも、エイルリオンが無ければ、あいつと戦えないんじゃないのか?」

「消滅させることが出来ないってだけで、追い払うぐらいなら出来るよ」

 通常の攻撃手段でもダメージを与えられるのか。見た目にはわからないけど。

「ベネトナアシュは本当に消滅したのか?」

「自信がないの?」

 手応えはなかったから。

「最後に残ったのは何だった?」

 残ったのは……。

「右腕と紅の剣。それも消えたけど」

「なら、完全に消滅したんじゃないかな。あの男は自分の御使いに、自分の血で作った剣を渡すんだ。それが御使いの力の源なんだよ」

 紅の剣を持っていた右半身の方が、左半身よりもダメージが通りにくかったのはそのせいか。

「それで?私に頼みがあったんだよね?」

 ようやく本題。

「この棺の封印を解いて欲しいんだ」

 アイフェルが眉をひそめる。

「どうして私に頼むの?」

「この棺に呼応する魔法陣の封印を解けるのは、光の大精霊だから」

「魔法陣を知ってるの?」

「知ってるよ。俺達は、ヘレンの家に繋がる魔法陣を使ってクエスタニアに来たんだ」

「ヘレンを知ってるの?」

 やっぱり、魔法陣の場所も把握してたのか。

「知ってるよ。クレアのことも」

「君って、何でも知ってるんだね。じゃあ、この中身が何かも知ってるってわけ?」

―あれは、あの人が神さまから奪った力なんだって。

「あいつが神から奪った、神の力」

「素晴らしいね!」

 アイフェルが満面の笑みで声を上げる。

「あの子の言った通りだ。秘密も封印も、いずれすべてを解く人間が現れるって」

「あの子って、」

「魔法陣を作った子」

 アイフェルも知ってたのか。

「人間が考えたことなんて、人間が解き明かせるに決まってる」

「そうなんだろうね」

―図柄はあいつから聞いてるんだよ。

―……いずれ、俺の力で封印し直さなければならない時が来るかもしれないからって。

 ルネに魔法陣を教えておいたぐらいだし、そこまで想定していてもおかしくないだろう。

「でも、地上に神が存在しない以上、この中の力は、あの男のものなんだよ」

「わかってるよ」

 あいつの肉体の一部と共にあるからな。

「あれ?この中身が欲しいんじゃないの?」

「違う」

 アイフェルが笑う。

「なんだ。こっちの予想は外れたね。いずれ、神の力を欲しがる人間が出てくるから気を付けろって言っていたんだけど」

 想像を超える神の力が封印された箱。

 開こうとするのは、中身を自分の物にしたい人間か、あいつに操られた人間だろうな。

「あの子って……」

「そういえば、君の名前はエルロックだっけ」

 アイフェルが俺の顔に触れる。

「どっかで見たような顔なんだけど」

 それって……。

 黒髪の鬘を外す。

「レイリスか?」

「そっか。ルネに似てるんだ」

 ルネ?

『似てるかしらぁ?』

『うーん?』

『似てないわよ』

 俺も、似てると思わないけど。

『アイフェルは人の顔なんて覚えないじゃない』

「レイリスには会ったことがないからね。……君、レイリスの子供なの?」

 頷く。

 会ったことは無くても、月の大精霊ってことは知ってるみたいだな。

「なら、力が欲しいなんて思わないだろうね」

 え?

「アイフェルは光の勇者の親なのか?」

「違うよ。私は元々こっちには居なかったからね」

『私たちはずっと光の洞窟に居たのよ』

 そういえばそうだったな。

 魔王の時代、ここには違う光の大精霊が居たってことか。

「中身が欲しくないのに、どうして封印を解きたいの?」

「月の力で封印し直すんだ。そうすれば……」

「うん。良い考えだね」

 説明は不要か。

「でも、出来るの?」

「出来るよ。竜の山にあった魔法陣はアンシェラートに破壊されたけど、封印の棺はラングリオンに運んであったから、俺が封印し直したんだ」

 アイフェルが笑う。

「やるじゃない。上手くあの男を出し抜いたってわけ」

 この話をすると、どの大精霊も楽しそうにするよな。

「だから、一緒にヘレンのところに行ってくれないか?クエスタニアの魔法陣はクレアにとって重要な出入口だし、出来れば魔法陣は同じ場所に描きたいんだ」

「つまり、封印の棺を持ち出したいってわけだね」

「持ち出す?棺を移動させるのはまずいんじゃないのか?」

「別に構わないけど。どうやって封印するつもりだったの?」

「精霊玉で場所を探せば……」

「だめだよ。距離があり過ぎる。封印中は魔法陣と棺が不安定な状態で繋がるんだ。二つの距離が長いと、途中であの男に妨害されかねない」

 そういえば、封印魔法を使ってる最中は、魔法陣から放たれた光と棺が繋がってたな。

 あんな目立つ光があれば、棺の場所も魔法陣の場所もばればれだ。

「わかった。ヘレンの所に運ぼう」

「運搬は君に任せるよ。私は手伝えないからね」

「ん……」

 どうやって運ぶかな。

 聖櫃はグランツシルト教の宝。宗教問題の緊張が高まってる今、途中で見つかるわけにはいかないから……。

 結構面倒だな。

 まず、抱えて歩ける大きさじゃないから、個人で借りられる馬車と御者を用意する必要がある。冒険者ギルドで信頼できる御者が見つかれば良いけど、そうじゃないなら少し面倒だ。人目の多い街道は避けたいから、亜精霊の情報を集めて草原の安全なルートも調べなきゃいけない。っていうか、準備が整ったところで、王宮が不穏な状況な上に手引きしてくれる人間が少ないんじゃ、聖櫃を運び出すのも一苦労だ。

 だめだ。既に目的を果たしたローズとマリーを巻き込むことはできないし、危険が伴う旅にクララを連れて行くわけにもいかない。一度、ラングリオンに戻って作戦を練り直すべきか?

「転移の魔法陣が使えれば楽なんだけど」

「無理だよ」

 だよな。

 封印の棺は、転移の魔法陣の力の源であり、特殊な素材で出来ているんだ。

「ヴィエルジュが居れば良いんだけどね」

「ヴィエルジュなら運べるのか?」

「彼女のことも知ってるの?」

「知ってるよ」

「すごいね。彼女には良く色んな物を運んでもらったよ。アークなんて、地下道を掘るのも手伝わせてたからね」

 地下道って……。

「王城の地下通路のことか?」

 ラングリオンの王族しか知らない、王城と外を繋いでる地下通路。

「まだ残ってるの?」

「一部が残ってるよ」

「そうなんだ」

―ヴィエルジュ様は、古い時代にも王都を救われたことがあるんじゃないかな。

―その時にいらっしゃった場所が都市計画に反映されて、広場やメインストリートとして残っているんだよ。

 本当に、色々やらせてたんだな。

「ヴィエルジュなら呼び出せるよ。ヘレンの所に大樹を呼び出してあるんだ」

 あいつが来た時の対策だったけど。丁度良かった。

「君、剣花の紋章を持ってるの?」

「持ってるのはリリーだ」

「彼女、王妃なの?」

「違う。リリーは俺のだ」

「君の?彼女がリフィアの剣を持ってるんじゃないの?」

「俺が持ってるんだよ」

 慈悲の剣を抜く。

「君、女の子?」

 もう小さくなったドロップを噛み砕く。

「違うって言ってるだろ」

『違うって言ったじゃない』

「なんだか複雑だね」

 どっちも初代国王の王妃の持ち物だからな。

「ヴィエルジュを呼び出すなら、ここに呼び出して良いよ」

「ここ?」

「君、大地の精霊を連れてるよね?あの辺の床を破壊して、ヴィエルジュの出口を作ってくれる?」

 言いながら、アイフェルが光の間の奥の方を示す。

『相変わらず適当だな』

「ここは私の管轄だから、好きにやって良いんだよ」

 本当に独立した場所なんだな。

 でも、屋内に呼び出せるのはありがたい。大樹を呼び出すなんて、どこでやっても目立つからな。外には王太子を狙ってる連中も居るわけだし。

 杖、持って来るんだった。

 持っていた黒髪の鬘を仕舞って、大地の魔法を集める。

「リリーシア、ちょっと来てくれる?」

 アイフェルがリリーを呼んでいる声が聞こえる。

 床に向かって大地の魔法を込めると、床面が音を立てて砕けた。

 これぐらい崩しておけば良いか?

 砕けた残骸を風の魔法で浮かべる。

「これ、どこに置けば良い?」

「入り口の近くに置いてくれたら、後で運び出すよ」

 まとめて扉の近くへ置くと、リリーが傍に来る。

「エル、ここにヴィエルジュを呼ぶの?」

「その予定」

「本当にここに来てくれるかな?ずれちゃったりしない?」

「大丈夫じゃないか?」

 出やすい場所から出てくれると思うけど。

「心配しなくても、ヴィエルジュの力じゃ棺は壊れないよ」

 壊せるのはアンシェラートぐらい?

 いや。違う。

「ヴィエルジュ、聞こえる?ここに来てほしいの」

 イリデッセンスは封印の棺を貫いた。

 それって、すごいことなんじゃないのか?

 レイリスだって、アンシェラートを封印する為に持って行ったし。

 っていうか。持って行かれたままだ。レイリス以外の力でアンシェラートを封印する方法を考えないと、レイリスもイリデッセンスも取り返せない。

「わっ」

 大地が揺れて、足元がふらついたリリーを抱き寄せる。

「大丈夫か?」

「うん」

 地面から大樹が伸び、いつも通りに膨らんだ洞からヴィエルジュが顔を出す。

 ちゃんと砕いておいた場所から出て来たな。

 ヴィエルジュが周囲を見回す。

「あの男の気配はないようだが」

 やっぱり、この国には来てないのか。

「久しぶりだね、ヴィエルジュ」

「アイフェルか」

「知り合いなの?」

『どっちもラングリオンの建国に関わってるじゃないか』

「そういうこと」

「……リリーシア。何の用だ」

「エルを手伝って欲しいの」

 言うことを聞くのは契約者だけって言ってた気がするけど。

「封印の棺を封印し直すから、運ぶのを手伝って欲しいんだ。場所は、この前呼び出したクエスタニアの森の中。頼めるか?」

「私からもお願いするよ。ヴィエルジュだって、この中身をあの男に渡したくないだろう」

 少しの沈黙の後、ヴィエルジュが答える。

「良いだろう」

 断らないんだな。

 こんな調子で、これまでも色んなことを引き受けて来たに違いない。

「リリー、手伝って」

「うん」

 リリーと一緒に封印の棺を持ち上げて、大きく広がった大樹の洞の中に入れる。

 結構、広くなるんだな。ここ。

「エル、一人で行くの?」

「そのつもりだけど……」

「なら、これを持って行って」

 リリーから剣花の紋章を受け取る。

 確かに、俺が持っていた方が良いか。向こうで移動を断られても面倒だし。

「だったら、これはリリーに返すよ」

 ロザリーの短刀を出して、リリーに渡す。

「そういう約束だっただろ?」

「うん」

 お守りになってくれれば良いけど。

 ……お守りか。

「これも渡しておく」

 ルネから貰った精霊玉をリリーに渡す。

「月の精霊玉?」

 見ただけで判るなんて、流石だな。

「レイリスの?」

「違う。ルネっていう月の大精霊のだよ」

 剣花の紋章を首にかけて、大樹の洞の中に入る。

「アイフェルは、どうやって移動するんだ?」

「目印はヘレンの家にあるから大丈夫だよ」

「ん」

 精霊玉でも預けてるのか?

 繋がっている精霊が居ても目印になるんだっけ?

 まぁ、どっちでも良いか。

「リリー、すぐに戻るよ。いってきます」

「いってらっしゃい」

 大樹の洞が閉じる。

 真っ暗な、明かりのない空間。


 ……この感覚。

 転移の魔法陣と同じ。

 なのに、封印の棺を移動できるなんて変な感じだな。

 ヴィエルジュの転移の方が安定してるってことか?

 


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