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ホームタウン

 靴紐が解けていた。

 私はそんな事に気付かずに、君の後ろを付いて行く。

 空から斜陽が差し込み私達の身体を優しく包んでくれた。

 前を歩く君は後ろを振り返らずひたすらに前を進む。

 私達は線路の上を歩く。夕刻の夏の虫達の声がその空間に反響して心地良い。

 全てが黄昏に包まれたこの空間で作り上げられる記憶の螺旋。


††††


 全てを間違えた。私は何でも出来るものだと有頂天になっていた。

 田舎にいたら心が腐ってしまうと、そう思ったから都会へと出てきた。

 だけれど都会での生活は上手く出来なくて、結局破滅した。

 そんな破滅してどうようもなくなっていた時に君と偶然会った。

 君も疲れた顔で私を笑った。私も疲れた顔で君を笑った。

 お互いどうしようもなくなっていた私達。このまま此処に残っていても仕方ないと思った私達は故郷へ帰ろうと考えた。


†††


 足はもつれた。

 そうして君はようやく振り返った。

 白い帽子と白いワンピースを泥で汚しながら私は笑った。

 君も笑う。

 乾いた笑いだけが響いた。

 立ち上がり私は画材を詰めた鞄を拾い。

 同時に夢が砕けた事を否応なく理解して、悔しくなった。

 君は手を叩いて私を笑った。

 怒った顔をしながらも、内心は嬉しくなりながら君を咎めた。

 私達はまた歩く。

 砕けた夢を背負って、夕日に痛みを残して。


 笑いながら、泣きながら。


††


 歩く音が響く。二人分の足音は空へと上り淡く溶けた。

 空を仰ぎ見れば宇宙の色。星屑を散りばめたまるで絵画の世界。

 雲一つなく煌々と灯る月光に照らされて切なく思った。

 都会ではこんな綺麗な空は見たことが無かったから、空をすっかり忘れていた。

 白い光を放つ小さな星達に目から雫が一粒。

 頬を伝って地面に落ちた。

 君は小さく笑いながら私の手を握った。

 僅かに感じる体温に応えて私も弱く握り返した。

 その行為は、共に帰ろうと弱く囁いているように感じた。

 私達は共に歩き出す。合わせた歩調を崩さないように。

 君が進めば私は進み、君が止まれば私も止まる。

 妙な相互関係に含み笑い。


 君は話をしてくれた。

 それは本当か、偽りかは分からないけれど。

 都会で起きた様々な出来事。

 暗い小部屋でひたすらに絵を描いていた私と違って君は沢山の人と会ったと言う。

 孤独の人を助けたり、都会で出来た友達と一緒に騒いだ事など。

 下らない、でもとても大切な話に私は笑った。

 相変わらずな人だと。君を優しく包みながら。

 君は泣きながら笑った。私は微笑みながら君の頭を撫でた。


 帰ろうと強く思う気持ちは次第に膨らんで行く。



 朝焼けに残る暖かい光に背中を押されて私達は再び歩き出した。

 線路の上を。これが私達の歩んできた道だから。

 右のレールは君の物で、左のレールは私の物。

 二本のレールが組み合わさって初めて線路と呼べるそれは、どこか今の私達に似ている気がした。

 進んできた道を戻る。

 だけれどそれは決して過去に戻るって意味じゃない。


 話をしようか。君はそう呟いた。

 この国よりももっとずっと遠い国では、未来は後ろにあり、過去は前にあるという伝えがある。

 そんな事を淡々と。

 それは今の私達にぴったりな言葉だから何だか救われた気持ちがした。

 私は微笑みながら自慢気に話す君の姿を見守る。

 私の視線に気付いた君は照れながら笑う。

 私はただ一言、ありがとう。と呟く。

 君はただ一言、うん。と呟く。


 もうじき夜は明けて、新たな朝が来る。

 希望を鳴らして、心を揺らして、朝焼けに痛みを残して。

 全てが明るくなって、見えなくなっていた何かがまた見えてきて、落とした全てがまた見えるように。

 輝く栄光がまた拾えるように。

 夢がまた掴めるように。

 指先だけに微かに残る夢や希望の感触をしっかりと抱きしめて、私は進む。

 いつかまたこんな事で笑いあえるように。

 誰も居ない、線路の上を歩きながら。



“What's the matter with you?”

His kindness gave her a lot of comfort.

“You can rely on me if you have any trouble.”

She nodded slowly and said “Yes.”

Are you ready?

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