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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第十章 嫌な問題は色んなところで飛び交っていた
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「こちらがそうです。でも一緒に働けるなんて光栄です」


 優香が弾むように翔に声を掛けている。

 元々図太い性格なのか、前日自分に疑いを掛けられた書類のことも忘れている様子に見えた。


「野々山さんだったね。色々と手伝ってくれてありがとう。これからも宜しく」

「はい!」


 優香は嬉しそうにしている中、周りの者は何事だと翔を見つめている。

 そしてケムヨは逃げ出したいほどにピンチを感じていた。

 翔は一通り周りを見渡すが、ケムヨのところで視線を固定し、奇遇だと言いたげににっこりと微笑んでいた。


「皆さん初めまして。今日から課長補佐としてこちらに配属されました勝元翔です。どうぞ宜しく」


 堂々とした態度はひょろっとした課長よりも存在感があった。

 これは何かの間違いではとケムヨは課長を探し出した。


「留美ちゃん、課長はどこ?」

「課長は今日から出張で一週間ほど留守ですけど。なんでも昨日急に決まったみたいです」


「嘘…… それってその間、翔がここの指揮をとるってこと?」

「えっ、ショウ?」


 留美が聞きなおすと、ケムヨは慌てて何もないと首を横にふっていた。 


「さて、仕事しなくっちゃ」


 ケムヨが翔をさけるようにこそこそしだすと、翔は隠すつもりもなくケムヨの真正面に立ちはだかった。


「ナサケムヨさん、すまないが俺のアシスタントとして一緒に仕事をして欲しい」

「あの、私は雑用係のパートでして。他に適任者がいるかと……」


「何を言ってるんだ。かつての俺のパートナーの癖に。とにかくこれは上からの命令でもある。しっかり頼むぞ」

「そ、そんな。どうして。まさか須賀専務の命令?」


「いや、違う。社長直々の命令だ」

「嘘! どうして」


「当たり前だろ、俺が日本に帰ってきたんだ。かつての名コンビがまた一緒に仕事をして会社の利益を増やせということだ」

「だけど、翔……」


 思わずファーストネームを呼んでしまった。


「私情を挟むな!」


 周りの者もずっとそのやり取りを見ている中で、翔は見せしめのように厳しい目つきをしてケムヨを牽制する。


「俺は海外勤務から帰ってきて間もないんだ。ここでは3年のブランクがある。勘をとりもどすためにと社長が期待を込めて配置してくれたと思っている。これは会社のためでもあるんだ。そこのところを勘違いするな」


「は、はい。申し訳ございませんでした」


 恐れ多くも翔のポジションは自分よりも上の位だった。かつては同僚でも、今のケムヨには従うことしかできない。


 翔は早速ケムヨに今の仕事の資料を集めさせ、それらを短時間で把握すると早速指示を出しケムヨをこき使う。

 まるで何かの罰ゲームをやらされてるようで、ケムヨは悪夢を見ているようだった。


 かつての恋人がまた目の前に現れ、今度は上司として一緒に仕事をしている。

 発狂したくなりそうなのを必死に堪えて、ミスがないようにいつもより慎重に仕事をするしかなかった。


 周りのものはそれとなくケムヨと翔の関係をこそこそ言っている。

 だが優香だけは違った。

 翔に堂々と近づき、面と向かって疑問に思ったことを聞く。


「あの、勝元課長補佐、ケムヨさんとはお知り合いなんですか?」

「ああ、転勤前は彼女は私の右腕として働いてくれていた」


 優香はケムヨをチラリと見つめ、二人の過去の関係を想像していた。


「野々山さん、すまないけど、これを20人分コピーしてきてくれないか」

「あっ、はい。かしこまりました」


 優香は翔の命令にやる気をみせるためにきびきびと動く。それでも時々翔とケムヨを見ては何かを知りたそうな顔になっていた。



 昼休みになると、ケムヨは翔から解放されたいとばかりにさっさと姿を消した。

 だが、今度は優香がしつこく付き纏い、廊下でがっしりと腕を掴まれた。


「ケムヨさん、勝元課長補佐とはどういうご関係なんですか?」


 後ろから噛みつくように優香が質問する。

 社員食堂へ向かっていたが、ケムヨは振り返り優香と顔を合わせた。


 かつての合コンで自分だけ行けなかったことを責めてきたように、今回も誤魔化してあしらっても納得しないだろうと、ケムヨも真正面から受けてたった。


 優香にはこの間の書類の紛失やオフィスで不穏な動きがあることを直接聞いてみたい。

 留美や園田睦子の話を鵜呑みにしているのではなく、優香が本当に関係しているのかケムヨは見極めたかった。


「優香さん、その話知りたい?」

「はい、もちろん!」

「だったら私の質問にも正直に答えてくれる?」


 優香は訝しげな表情になったが、好奇心には勝てずに一応わかったと頷いた。

 二人はその日は会社の外で食事を取ることにした。

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