表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第一章 それは合コンというゲームのつもりだった
8/130

 ここでケムヨが付き合うといえば、貴史との賭けは勝ったことになる。

 将之にとって一か八かの勝負だった。


 これ以上、どんな甘い言葉を並べても、優しい笑顔を向けても、お金を持ってると見せ付けたとしても、ケムヨは絶対になびかない。


 将之は自分には手に負えない女だと言うことが充分わかった。


 しかもケムヨは一枚上手で、人の本質を見抜くのが取り得と思っていた自分の能力も通用しないほどつかみ所のない女だった。


 時折見せる魔力をもったような目には将之も心を覗かれて弱みを掴まれたようにドキッとしてしまう。


 貴史の賭けのことも気になったが、ケムヨの内面をもっと知りたいと反対に興味をそそられてしまった。


 付き合いたい。


 それは賭けの勝ち負けを気にすることよりも、もっと膨れる好奇心からであり、この女は自分を満足させてくれそうな予感がする。


 自分以上の何かを持っている。直感で感じ取った。


 化粧っけはなく派手じゃないが、顔は悪くない。むしろすっぴんでも整っている方だ。本気で化粧をすればキャリアウーマンのようにキリリとした美しさが想像できる。


 ぼさっとしているが、それと似合わない身なりのいい高級そうなスーツがギャップ萌えを感じる。

 そして謎めいたところが神秘的だった。


 だからこそ、自分に惚れさせたい。

 スリリングな恋の駆け引きが味わえ、恋人にするには申し分のない素材だった。

 いい返事が聞きたいと将之は微笑んで待っている。



 一方ケムヨも将之をじーっと見つめ心の中を探っている。


 自分に興味があるのは真剣な澄んだ瞳の色から感じ取れた。照明ライトが入り込むせいか茶色い部分が琥珀色に輝き重みのある視線をケムヨに注ぐ。


 そこにはまだ野心という何かに挑戦したい気持ちがありありと現れている。

 それが純粋に人を好きだからという恋ではない。


 この男はゲーム感覚で恋を楽しむような男。

 自分に自信を持ち、それにしがみつくように物事を変えようとする願望。

 何かに拘って、それがトラウマとなってこの人物像を形成しているのではとそこまで見ていた。


 顔は確かにかっこいい。頭も切れるほどに回転もよさそうだった。

 恋人にしたいと女性が常に憧れる対象。

 それは本人も自覚しているのが良く見えるとばかりにケムヨはいきなり笑い出した。



「将之って面白い。気に入ったわ」

「じゃあ、俺と付き合うってことなんだな」

「いいえ、それはお断りよ。あまりにも唐突過ぎる展開だわ。それに恋人としては私には釣り合わない」


 容赦なく刃物を振りかざしたように突き放す。

 将之は言葉を失ったように黙り込んだ。


 『恋人としては私には釣り合わない』


 この言葉はどっちに視点を置いて言ったのだろうか。

 ケムヨが将之に釣り合わないのか。それとも将之がケムヨに釣り合わないのか。

 あの言い方では後者に聞こえてしまった。


(この俺がこの女に釣り合わないだと)


 将之はこのとき自尊心を傷つけられた。まさかそこまで言われるとは思ってなかった。

 思った以上にケムヨは普通の女じゃない。


 修羅場をくぐってきた世間を冷めた目で将之を見下ろしている。

 そこには何かありそうで、将之は腹が立ちながらも意地と興味心がどんどん膨らんでいった。


「この俺が振られるなんて、ああ完敗だ。だが俺もここで引き下がろうとは思わなくなったよ。合コンで俺を本気にさせてくれた女はあんたが初めてだ。諦めないよ」

「しつこいのね」

「それだけ気に入ったってことだ。それじゃまずは友達からだ。それなら構わないだろ」

「ううん、それも嫌。これ以上私に係わらないで。これでお終い」

「おいっ、ケムヨも俺のこと気に入ったってさっき言ったじゃないか」

「客観的にみたら面白いと思うってこと。それ以上でもそれ以下でもない。私がここまで避けてるんだからいい加減に気がついてほしいな。私に係わると碌なことがないってそれとなく知らせてるつもりなんだけど」

「どういう意味だよ。ケムヨと係わると碌なことがないって。もしやなんか呪いでもかけられて人を不幸にするのか」

「あら、よくわかったわね」


 ケムヨは俯き加減になると髪で顔が覆われ、垂れ下がった髪の隙間から不気味な目つきを将之に見せた。


「ふーん、確かにホラー的センスがある。でも俺も充分不幸は味わってきた。これ以上の不幸があるなら是非見てみたいね。でもその前に俺が君にかけられた呪いをといてやろうじゃないか。俺が君をそこから救ってやるよ」


 将之はケムヨに合わすつもりでノリでそのようなことを言ったに違いない。


 だが、その言葉は長くしまいこんでいた記憶を引き出すかのように刺激され、忘れていたケムヨの過去の記憶を瞬間的に蘇らせた。


 ケムヨは暫しそれに捉われてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ