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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第七章 その事を知っても気持ちは変わらなかった
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「あら、いけませんか? それだけ私にとっても大切な方という意味です」

 シズは上品に微笑を添え、将之の目をしっかり見て答えた。


 シズの表情は穏やかな小川の水面のようでもあり、奥深い深さを顰めた底なし沼のようでもある。


 それは、はぐらかされたような、開き直ったような、それでいて、何かを伝えようとしているような、どれにも取れてしまい将之は益々混乱してしまった。


「あの、ここだけの話にして貰えませんか? 聞きたい事があるんですが……」

「はあ、なんでございましょう」


「ケムヨはもしかして、その、あの、ゴ、ゴ、ゴク……」


 その後が中々言い出せない、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。


「ゴク?」


「極…… 一般の家庭の出じゃないんじゃないかと思いまして」


 シズは少し目を見開いて驚いた。その様子で将之は図星だったと思った。

 シズは辺りを気にしてケムヨが居ないことを確かめてから声を落として出来るだけ将之の耳元に近づいて話した。


「篠沢さんはもしかしたら、お気づきになられたんですか?」


 将之はシズの言葉ですーっと血が引いて行くのを感じながら軽く頷いた。 


「そうですか。でもまだお嬢様にはどうぞ黙っていて下さい。お嬢様はああ見えても繊細なところがあります。昔からそのことを気になされておいでです。跡取りなために逃げ出したくても逃げ出せない世界に踏み込んでしまいそれを受け入れておられます」


「は、はあ」


「篠沢さん、どうかそういうことを抜きにしてお嬢様の中身を見て下さい。お嬢様のことですから前もって篠沢さんには直接近づくなと警告していたと思うのですが、篠沢さんはそれでも近寄ってこられましたよね。その時、どんなお気持ちでお嬢様にお近づきになったのでしょうか? 純粋に気に入られたからじゃありませんか?」


 シズは優しく微笑んだ。

 将之はしっかりとコクリと頷く。


「どうか正しい判断でお嬢様とお付き合いなさって下さい。それが出来ないようでしたら、もうこちらには来ないで頂きたく存じます」


 将之はケムヨに会いに来るなと言われてはっとした。


 今思えばケムヨは最初から将之を巻き込まないようにと避けていた。

それを自ら無視して自分はムキになってケムヨに近づいた。


ケムヨの身分を知ってしまったからといって、それを変えてしまったら好きになった気持ちまで否定してしまう。


(俺はケムヨを救ってやるって言ったんだ)


 すっと引いた血の気が、今度は興奮で火山噴火レベルに達し、お湯が沸いたケトルがピーと汽笛を鳴らしたように力んだ。


「俺はそんなこと一切気にしません。それがなんですか。いざとなれば俺は命を賭けてでもケムヨを守ります」

「あら、篠沢さんそこまで真剣にお嬢様のことを思って下さってたのですか」


 シズはもしかしたらと期待する。


 将之は鼻から息が噴出すほど意気込んで強く「はい」と答えた。


 ケムヨを見れば一般の女性と何一つ変わらない。

 極道だって任侠の意味合いの方が強いに違いない。

 弱気を助け強気を挫く。

 きっとそうに違いない。それなら真っ当な極道だ。極道に真っ当があるのかわからないが……


 などと心の中で奮い立たせているとき、奥の部屋からケムヨが出てきた。

 ジーンズを穿き、体にぴったりとフィットしたTシャツを着ていた。胸もそこそこ強調されている。


 初めて見るラフな格好。

 そしてそれがなんとなくかわいい。

 将之はケムヨの飾らない姿にケムヨらしさが表れていると思った。


(こいつはどんなときも変わらずにケムヨのままなんだ)


 そう思うと、将之は光を発するくらいの明るい笑顔になった。


「また来たの、将之」


 それは嫌味でもなく、ケムヨはすでに歓迎している。

 その証拠に将之の前に立ち笑っていた。


「ああ、また来ちまった。そしてきっとこれからもずっとこのままさ」


 それは自分にも言い聞かせていた。

 ケムヨは好きにすればいいと鼻で笑ったが、将之を見てなんだかほっとしていた。


「さあ、行こうか」


 将之はケムヨの腕を引っ張った。


「えっ、どこへ?」


 ケムヨは慌てて靴を履く。


「決まってるだろ、星を見るんだよ。この間約束しただろ」

「えっ? そんな約束したっけ?」

「さあ、行くぞ」


 将之はシズに頭を下げて挨拶をすると、ケムヨを引っ張って玄関から外へ飛び出した。

 ケムヨは引っ張られるまま、足をもつれさせてついていく。


「いってらっしゃいませ」

 シズはにこやかに送りだしていた。

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