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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第七章 その事を知っても気持ちは変わらなかった
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 車が完全に去ってしまった後も、将之はまだハルトから聞いた言葉で頭の中がぐるぐるとして惚けたように立っていた。


 足元で何かが軽くぶつかる衝撃を感じ、その後はすりすりと触られる感触を感じる。

 そして低音の音が空気を振動させるように伝わってきた。


 プリンセスがいつの間にか将之に近寄って頭を摺り寄せ喉をゴロゴロ鳴らしていた。

 尻尾がピンと立っているところを見ると、完全に餌のおねだりだった。

 将之はしゃがみこみ、プリンセスと向かい合った。


「なあ、プリンセスはどう思う? お前も話聞いてただろう。あいつは何が言いたかったんだと思う?」


 プリンセスは早く餌が欲しいとかすれた声で「ニャー」と鳴いた。

 そして将之をじっと見ている。


 でも将之は難しい顔をして、ハルトの言葉の意味を考えているためプリンセスのことが目に入ってない。

 暫くそこでしゃがんだまま唸ってると、プリンセスは頭突きをするように頭を将之の足の脛に摺り寄せて餌をねだりだした。


 すくい上げるように頭をぶつけてきたので、バランスを崩し、将之は尻餅をつきそうになり、咄嗟に手を地面についた。

 手についた砂を叩きながら、将之は体制を整える。


「おい、攻撃的になるなよ。猫に暴力振るわれたみたいだな」


 その時、はっとした。

 突然降って湧いたように出てきたある疑問。

 

 そこにふと中華を食べた後に暴力を振るわれて絡まれたチンピラを思い出し、ケムヨが『姐さん』と呼ばれた事がこの時になって重みを増した。


 じっくり隅々とあの出来事を思い起こせば、このとき心の中に湧いて出たある事柄と重なり合う。


「まさか……」


 将之は建物に視線が行った。

 将之がなかなか餌をくれないので、プリンセスはまた頭を摺り寄せて愛想良く振舞う。


「ンニャー、ニャー、ニャー」

 何かを主張するように声が連続して出ている。


「あっ、ごめんごめん」


 やっと気がついてポケットから餌を取り出すと、その封を開ける。匂いがすぐに伝わったのか、プリンセスは嬉しそうにその場で360度回った。


 将之が餌をやると一心不乱に食べだした。

 将之は暫くプリンセスをじっと見詰めて動かなかった。



 一方、ケムヨの方はと言えばあの後驚いて逃げたものの、ハルトの予期せぬアプローチに焦ってしまい心臓をバクバクさせていた。


 暫く動けないほどに、ダメージを体全体で感じて驚いていた。


 ハルトが紳士的だと思っていただけに、積極的なアプローチをされたことにすっかり油断していた自分にも許せなくなった。


 自分が女であること、その時固まって動けなくなってしまったこと、咄嗟のこととはいえ、男の世界で生きていこうと覚悟して、それなりの『情け無用』な自分を築き上げてきたと思っていた。


 それがこんなことで動揺するとは、不覚にも落ち込んでしまう。


 冷静になるために、体に冷たい液体を注ぎたいとキッチンに入って冷蔵庫を開け、そして冷やしていた烏龍茶のペットボトルを手にした。


 冷蔵庫を体で閉めてそのままもたれ掛かってると、申し訳なさそうにシズがぼそっと現れた。


「あの、お嬢様、お帰りなさいませ」

「シズさん……」


 ケムヨはその後の言葉が続けられない。

 一体どこにこの気持ちをもって行けば良いのか分からなかった。


「この度は嘘をつきまして申し訳ございませんでした」

 シズは頭を下げていた。


「シズさんが悪いんじゃない。これもおじいちゃんの命令だったんでしょ。シズさんは逆らえなかっただけ。そこは理解してます。だけどおじいちゃんは一体何をしたいのやら」


「旦那様は結局は笑美子お嬢様がご心配なのです。厳しい方ですけど、それ以上の愛情を持っていらっしゃいますから、シズには旦那様のお気持ちがわかります」


「おじいちゃん、私に結婚して欲しいってことなの?」


「そうだと思いますよ。以前お嬢様とお付き合いなさっていた方と結婚されると思っていただけに、別れてしまわれましたから、そうなったのは自分にも責任があると思われてるんでしょうね」


「でもあれはおじいちゃんには関係ない。身分を明かしていようがなかろうが、翔とは結局はダメだったってことだと思う。あれでよかったんだと思う。今だから言えるのかもしれないけど……」


 ケムヨは寂しく笑った。


 シズは心苦しくなったが、気丈にも背筋を伸ばしニコッと笑う。

 なんとか元気つけたいと励まそうとする。


「全てをご理解して、そして純粋にお嬢様を心から愛される方は必ずいらっしゃいます。シズが保障します。きっとすぐに現れます!」


 と言い切ったとき、ドアベルが家の中で鳴り響いた。


 あまりにもいいタイミングにケムヨもシズも顔を見合わせ驚いた表情をしていた。

 そしてそれが誰だか容易に想像ついたので、ケムヨは苦笑いになっていた。


 玄関をシズが開ければ、目の前に将之が少し浮かれない顔をして立っていた。


 その時は何度も現れて遠慮しているのだろうとシズは受け取ったが、将之は心に少し思うことがありそれで困惑して顔にも心の曇りが映りこんでしまった。


「あ、あの」


 いつになく沈み込んだ声で将之は話しかける。

 シズは大切なお客様のように微笑み、快く対応した。


「今、お嬢様は着替えをされておりますので、暫くお待ち頂けますか? どうぞお上がりになって下さい」

「いえ、ここで結構です」


 将之はまだ何かいいたそうな顔をしてシズを見つめていた。


「あの、何か顔についてますでしょうか?」

「いえ、その、なぜケムヨのことを『お嬢様』と呼ぶのかと思いまして」


 将之は自分の思っている事が正しいのか確かめたかった。


 ハルトが言った言葉から浮かんだもの。

 ケムヨが『姐さん』とチンピラに呼ばれていたこと。

 それらを考慮するとアレ意外考えられなかった。


『極道の娘』


 シズが何かを言おうとしたとき、将之は唾を飲み込んだ。

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