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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第六章 意地っ張りのまま無意識に頼ってしまった
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 ケムヨが再び目を開けたとき、そこには知っている顔がぼやっと曖昧に見えた。

 ケムヨは腕を持ち上げられ、なにやらごそごそされてちくっとする痛みを感じると刺激で徐々に視界がはっきりしてくる。


「これで熱は下がるでしょう。他にどこか苦しいところはないかい? 笑美子ちゃん」

「室井先生、来て下さったんですか? すみません」


 少し面長で鼻筋が通ったロマンスグレーという表現がしっくりくる優しい目の男性が、穏やかに笑みを浮かべている姿にケムヨはほっと息を吐くように言った。


「ちょっと、忘れないでよ。私も一緒なんだから」

 突然視界にもう一人知ってる顔が入り込んできた。


「あっ、夏生」

「倒れたって聞いたからびっくりしてお父さんと一緒についてきちゃった。風邪だって? 働きすぎて過労で倒れたかと思ったよ」


「ごめん、心配かけて。室井先生もお忙しいのに申し訳ありません」

「気にすることはないよ。豪君が来てくれたから時間に余裕が持てるようになったよ。夏生が医者の豪君と知り合って結婚してくれたからね、うちも安泰だ」


 夏生の父親は医者で病院を経営している。将来は豪に継がせるつもりらしい。


「よかったじゃないですか。豪さんとてもいいお医者さんだし、人柄も良くて、夏生もほんとパーフェクトな旦那さんと知り合ったよね」


 夏生はなんて答えていいのか分からず、ただ豪と知り合えて幸せだということを強調するように照れて笑っていた。


「だけどね、たまたま豪君が医者だったけど、夏生が選んだ人だったら私は誰でも良かったんだ。医者に拘ることはなかった。だから笑美子ちゃんも好きな人がいたら幸造さんもきっとそうだと思うよ。笑美子ちゃんも好きに恋愛なさいね。そろそろいい人いるんじゃないのかい?」


「お父さん!」


 夏生は椅子に座っていた父親の袖を引っ張って、それは言ってはいけないと釘を刺す。

 ケムヨはこういう話題が嫌いなのを夏生が一番良く知っていた。


「いつも心配して下さってありがとうございます。でもまだそんな人いないんですよ」


 ケムヨは夏生の父親の前だと笑って受け流している。

 嫌な話題でも、相手によってはきっちり対応しないといけない。そういう心得は自然に身についていた。


「でも幸造さんから笑美子ちゃんにいい人がいるってこの間聞いたような気がするんだけど」

「えっ、おじいちゃんがそんなこと言ってたんですか」


 下がりかけたと思った熱が再び上昇していくようだった。

 将之のことで間違った情報が、尾ひれをつけて祖父の耳に入っているのではと思うと、ケムヨは気が気でない。

 シズとゲンジには黙っているように頼んだはずだった。

 何ゆえに祖父がそんなことを夏生の父親に話したのかケムヨは訝しげな表情になり不安になっていった。


「いや、私の聞き間違いなのかな。でも幸造さん何か面白い事が起こりそうだと楽しんでいた感じだったんだけど」

 

 ケムヨははっとした。

 以前来賓の相手をしろといわれてパーティ会場に出向いたが、あそこにお見合いの相手がいたことを思い出した。


「わかった。おじいちゃん、私にお見合いをさせようとしてそんなことを言ったんだ」

「えっ、ケムヨちゃん、お見合いするの? 相手どんな人なの? もしかして家業繋がりとか?」


 夏生は興味深々になって目を見開いた。


「私もわからないのよ。だけど断固として拒否する」

「笑美子ちゃん、会うだけ会えばいいのに。もしかしたら気に入るかも。幸造さんもやっぱり孫のことが心配なんじゃないかな。幸助さんと百合子さんも遠くに行っちゃったから、早く後を継いでほしいと思ってるんじゃないかな」


「あの身勝手な父と母のせいでどうして私が早く結婚して後を継がないといけないんですか。しかもあんな大それたポジションに。考えただけでめまいが」

「でも幸造さん、もうお年なのにまだ現役だからそろそろ引退したいんじゃないのかな。それに笑美子ちゃんもそれなりに鍛えられてきたんじゃないの?」


「今もまだ鍛えられているというのか厳しい修行中です」


 ケムヨはすごい迷惑とでもいいたげに、恨めしい目つきになって天井を見つめていた。


「とにかく、まずは風邪を治さなくっちゃな。それじゃ私はシズさんに報告してこよう」


 室井はすくっと立ち上がり、首にかけていた聴診器や医者の道具を鞄に詰める。


「先生、ありがとうございました」

 ケムヨがお礼を言うと、にこりと笑って出口に向かった。


「お父さん先に行ってて」

 夏生がケムヨと少し話したいと示唆すると室井は気を遣い「お茶でも呼ばれてるよ」と言って部屋から出て行った。


 夏生はケムヨのベッドに腰掛けて、何か聞きたそうな顔になっていた。

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