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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第四章 いつも目の前に現れ心惑わされてしまった
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 昼休みになると、タケルがケムヨに会いたかったとばかりに突然走りこんで目の前に現れた。

「姐御!」

「ち、ちょっとどうしたのよ」

 周りの目を気にしながらケムヨは困惑しながら対応する。


「僕、変なことに巻き込まれたみたい」

 タケルのベソをかくような顔が、ウルウルと瞳を潤わせて飼い主の助けを願う犬のようでもあり、儚く消え去りそうなほど困っている様子に見えた。

 タケルに姐御と呼ばれている以上、つい面倒みないといけない気持ちにさせられる。

 人気のなさそうな場所を探し、思いついたように非常階段へ続くドアを開け、その踊り場で誰も居ないことを確認してタケルの話を聞いた。


「一体何があったの?」

「僕、なんか課長に目をつけられていてしょっちゅう怒られているんですけど、それは僕のできが悪いからってわかってるんです。愛の鞭だと思って僕は一生懸命仕事しているつもりなんです。ところが、その課長に昨日呼び出されまして、陰で課長の悪口を言ってるんだろうって注意を受けたんです。そんなこと言ってませんって言ったところで、状況が状況だけに信じてもらえなかったんです」

「その課長の名前は?」

「吉永課長」

 ケムヨははっとした。

 その男は先日在庫室で女性社員といちゃついていた男だった。


「そっか、それは災難だ……」

 自分も嫌な思いをしたので、気持ちは充分わかるつもりだったが、自分の中では仕方がないと諦めていたことだっただけにさらりと言った言葉がタケルには他人事のような口ぶりに聞こえてしまった。

「姐御、簡単に言ってくれますけど、僕が非常に困ってるってわかってます? それに僕はこの会社で一生懸命働きたいので多少嫌なことがあっても会社で悪口なんていいません」

「しっかりと仕事をしていたら大丈夫だと思う。負けずに頑張って」

 そんなアドバイスくらいしか言えなかったが、タケルは簡単に事を済ませようとするケムヨの言い方に不満そうな顔をしていた。

 だが何とかして欲しいと更に目を潤わせて慈悲を乞う。


「姐御、どうしたらいいでしょう。僕、課長に意地悪されて首にされないでしょうか」

「そんな理不尽なことがまかり通ったらおかしいじゃない。タケルはしっかりと自分のやるべきことをやればいいと思う。だけど、身に覚えのないことなのにどうしてタケルが悪口を言ってることになってるんだろう」

 ケムヨは腕を組んで考えるしぐさをする。


「元々、吉永課長は気分屋でもあって部下達にはあまりいい評判じゃないんです。あっ、これ悪口じゃないですよ。客観的に見た状況説明です」

「うん、わかってる」

「皆さん、それで機嫌を損ねないようにと多少のことがあっても我慢して聞いてるんです。だけど僕はおかしいところはおかしいって正直に言ってしまうので、それで気に入らないのか、言うことを聞かない奴ってレッテル貼られました。でも吉永課長は部下のアイデアを自分の物にしたり、失敗したことは部下に擦り付けたりとやりたい放題なんです。吉永課長の後ろには滝部長が居てすごく可愛がられているみたいでそれを盾にしてるところがあって怖いもの知らずって感じです。ついでだからいいますけど、女子社員の誰かと不倫している噂もききました。それに関しては噂なので鵜呑みにはしてませんけど、でも唯一僕だけが課長に忠実じゃないから課長は僕が陰で悪口を言いふらしているって思ってるんでしょう」

「そっか、そういう人なんだ。人間は力持っちゃうと独裁者になっちゃうね」

「何を悠長なことを言ってるんですか。僕がこんなに辛い思いしてるのに」

「ごめんごめん! うーん、だけど吉永課長は私もいいイメージはない。実際、その不倫相手らしい人といちゃついてる姿を目撃しちゃった」

「ええっ、やっぱりそうなんですか? いや、でも僕、それは聞かなかったことにします。知らぬが仏ってことで」

「とにかく暫く様子みるしかないようね。何もできないけど、まずは一緒にお昼食べに行こうか」

「はいっ。姉御といるとすごく気分が落ち着きます。チンピラ相手に啖呵切った人ですから、尊敬してます」

「何いってるのよ。あれは私もおじいちゃんの力を借りてしまった。その点では吉永課長とやってることは変わりないのかも」

「いいえ、全く違います。姐御の場合は任侠の世界で弱いものの味方なんですよ」

「ちょっと、任侠っていうのやめてよ。それいい意味で使われてないし」

「でも本来の意味は弱気を助け正義を貫くってことですよね。僕はそっちの意味で言ったんですけど」

 ケムヨは苦笑いになっていた。


 それとは対照的にタケルはケムヨに打ち明けたことで気が楽になっていた。

 すっかりケムヨに懐いてしまい、頼ることで心強くなっている。

 それでもべったりという甘えではなく、一目置いて慕っているという感じだった。


 二人にしたらお互いの存在を認め合いながら一定の距離を保った関係だったが、それは当人達がそう思っても、傍から見たら気に入らないと思う者が存在してしまうには充分だった。

 特に井村多恵子は二人が仲良くしている姿を見て、納得できない顔をしていた。

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