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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第四章 いつも目の前に現れ心惑わされてしまった
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 翌日の金曜日。

 ケムヨがパート先の会社へ出勤する。


 パートだが、ケムヨのポジションは他の人たちと違いフレキシブルになっている。

 一週間に二,三日程度働けばそれでよく、前もってどの日を働くかはスケジュールを一ヶ月ごとに組んでいた。

 翔が海外へ転勤にならなければ、ケムヨは即仕事を辞めるつもりだった。

 毎日顔を合わせるなんて考えられなかったからだった。


 だが、翔と別れた直後、偶然にも翔は海外転勤を命じられたために、ケムヨは会社に残る選択をとることになる。

 かつてケムヨは翔と一緒にプロジェクトを任され、しっかりと利益も出していた。

 そんな活躍した社員があっさりと失恋という理由だけで辞めてしまうのはおかしいと、専務の須賀が引きとめたことも一つの要因だった。


 表向きはパートで雑用係だが会社内のことを良く知り、それぞれの部署で手助けができるといつでも使える臨時のスタッフのようにケムヨを配置することを提案。それは充分優遇の対象と言ってよかった。

 ケムヨはこの会社では陰ながら支えるという特殊なポジションを授けられたのだった。


 そういうことを知っている者は少なく、暗く地味に会社で過ごし、雑用しかしてないと思われているので誰もケムヨの存在には気にも留めてない。

 ケムヨ自身、他にも仕事を持っているので、こういう働き方は都合がよかった。

 殆ど幽霊のように誰の目にも留まらない、ひっそりと地味に働ける。


 しかし、翔が戻ってきたらどうなってしまうのだろう。

 それが悩みの種であったが、それ以前にもうすでに何かが狂い始めていた。



「ケムヨさん、おはようございます」

 ケムヨが部署のデスクの上を雑巾掛けしてるとき、留美が丁寧に挨拶をする。

 同じようにケムヨも返すが、留美の表情がいつになく暗かった。


「留美ちゃん、どうしたの。なんだか元気がないけど」

「それが、優香のことなんですけど」

「優香さんがどうしたの?」

「合コンに参加できなかったことに未だに拘ってるんですけど、さらに真理恵先輩がその合コンで義和さんと仲良くなったことを知ってしまってかなり気に入らないみたいで、私に八つ当たってくるんです。それで疲れちゃって」


「優香さんそんなに拘ってるの?」

「そうなんです。私は参加したけど何もなかったよって言っても聞く耳持たずで」

 二人してこそこそ話していたつもりだったが、いつの間にか優香が後ろにやってきて口を挟んできた。


「ちょっと、二人して私の悪口を言ってるの?」

 きつい目をさらにつり上げ、イライラの電波が目に見えるように突っかかってくる。


「別に悪口なんていってないわよ。ケムヨさんに私の事を聞いてもらってただけ」

 留美は焦る様子もなく、優香に聞かれたことで自分が困っていることを分かってもらえるいいチャンスだと思った。


「ふん、何よ、皆で意地悪して。どうせ私を最初からのけ者にするつもりであんなこと計画したんでしょ」

 優香は涙目で訴える。


 泣くほどのことなのかとケムヨは口を半開きにして驚いていた。

 しかし、夏生の計画した合コンは一度キャンセルになったと連絡してただの食事会と嘘をついた時点で少し意地の悪さも目立つかもしれない。


 立場は違うが、ケムヨ自身も騙されてあの席にいたときは腹が立ったので、その気持ちが優香の気持ちと同じ類のものなのだろうかと、潤んだ優香の瞳をぽかーんと見つめていた。

 だがそこには共通点はなかったと、優香の強く睥睨する目つきではっとする。


 優香は見ていて痛いほどに、地位とお金のある男を結婚相手に求めて必死になりすぎている。

 ケムヨとは全く立場が違い、優香の気持ちを分かってあげられないことで逃げるようにケムヨは目を反らした。

 それが優香のプライドを益々傷つける。

 ケムヨを敵意の持った目で睨みつけ、そして留美以上に八つ当たりするような蔑んだ言葉を吐いていた。


「ケムヨさんは、もう女でいること自体諦めてるもんね。仕事も派遣よりも地位の低いパートで雑用係。お洒落もせずにいつも暗くて、最初からいい男なんて引っ掛けられないと分かっているから気が楽でいいわね」

「優香、失礼だよ。ケムヨさん、ごめんなさい。優香は今精神不安定みたいなもので……」

 留美はフォローするが、ケムヨは気にしていないと薄っすらと笑顔を見せる。


 もし自分が優香の立場にいたら、同じように思うのだろうか。

 少しだけ想像力を働かせて、何もない立場の自分を想像する。

 ケムヨが全てを諦め、投げやりでいられるのも自分の立場が安定しているからできることであると強く思う。

 この先も保障された生活があると人は好きに生きられる。

 必要なものを充分に蓄えていないものは自らそれを求めてよい条件のものを得たいと思うようになるのだろう。


 ケムヨはやはり優香とは違い、頭の中でいろいろと仮定しても、実際の自分の立場があるだけで同じように感じることは皆無だった。


「優香さん、私のこと悪く言ってもいいけど、それを会社に持ち込んで留美ちゃんを巻き込まないであげて下さい。ここは働くところですから、仕事だけはしっかりした方がいいですよ。それじゃ私は自分の仕事がありますので」

 ケムヨは一礼をして去っていく。


 優香は気に入らないと、益々怒りに満ちた態度を顔に浮かべていた。

 留美はこれ以上付き合いきれないと諦めるように首を横に振り、そして優香を見捨てて自分の仕事場へ向かった。

 優香は悔しくてたまらず、肩を震わせて暫くその場にめり込みそうになるくらい立っていた。

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