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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第三章 星の下逃げればどこまでも追いかけられた
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「もう、ハラハラしましたよ。どうしてあんなことするんですか」

 一段落して、タケルが小言を言うようにケムヨを諌める。


 二人が座るカウンターの前には色んな料理が並んでいた。

 全て店のサービスだった。

 チーズの盛り合わせから、ブリーをつまむとケムヨはぱくっと鯉が食いついたように食べていた。


「だって腹立つんだもん」

 口をモゴモゴさせて篭った声で答える。


「それにしても怖くなかったんですか?」

「全然、それに刺されても構わなかった」

「えっ、ちょ、ちょっとそんな」

「どうせ、刺されるわけないじゃない。一般人を巻き込めば警察とかすぐ来て不利益被るのは向こうだし、そこまで度胸なんてないよ、あのチンピラは」


「姐御って、肝が据わり過ぎ」

「でもやっぱり、私も権力使っちゃった。結局は力なんだよね。それが善でも悪でも力を持ってるものは絶対強い」

「それで幸造さんは一体なんて言ってたんですか」

「まあ、程ほどにしておけって。暢気なもんだった。うちもああいう組織の中のトップの立場だからね。ある程度はそれなりのコネを持った権力とつるんでるから怖くないってことだと思う」


 ケムヨはもう一切れのチーズをつまんで、それを弄ぶようにして話している。

 悪いものを排除して、店からも客からもヒーロー扱いされている立場だというのに、ケムヨの顔はすっきりと晴れていなかった。

 寧ろ、自分の立場を公にさらしてそれを盾にいいように利用することへの罪悪感で自己嫌悪に陥っている。


「姐御……」

 タケルは気を利かして何か話し掛けたが、その前にケムヨが質問した。


「ねぇ、タケルは親の七光りとかで嫌味言われたり、妬まれたりと陰口たたかれたりすることってない?」

「まあ、直接は言われたことないから分かりませんけど、きっとそういう風に思う人もいることでしょう。いちいち僕は気にしてません」

「そう」

 短く返事すると、ケムヨはつまんでいたチーズを口に放りこんだ。

 そしてその後はそのことには触れずに、店の折角の厚意だからと目の前の料理を食べることに忙しくなった。



 タケルと別れ、ケムヨは家に向かって歩いているところだった。

 街灯が灯る下町の住宅街。

 時々自転車に乗ってる人や犬の散歩をしている人とすれ違った。

 ほんわかとどこからか夕飯の用意をしている匂いもする。

 それらがおぼろげになって視覚、嗅覚に届いているが、頭の中はチンピラとの対峙が何度も再生されるように思い出されていた。


 店を出るときは何度もお礼を言われ、また来てくれと熱く誘われ、仕舞いには神の様にあがめられた。

 ケムヨは苦笑いになりながら店を出たが、タケルはさっきのチンピラが仕返しで待ち伏せしていないかどうか警戒して落ち着きがなかった。

 結局は何もなかったが、ケムヨはチンピラを撃退したことが本当に正しかったのかと今頃になって不安になっていた。 


 もし危害を与えられていたら──。

 そう考えてもケムヨは痛いのはいやだが、それなりの覚悟を持ってやったことには変わらなかったと悪い方向になったとしてもそれは運命だと諦められる。


 あの時は本当に死をも覚悟してやったことだった。

 ケムヨはいつも生と死を頭に置いていた。

 それなりの意気込みを持って、自分の人生に悔いなしと思ってやったことだったのに、自分の立場を再認識する羽目になってしまったことが落ち込ませる。


 ふーっとため息をついて家の前までやってきたとき、不意に大きな岩のような塊が暗闇の中で動いたのでドキッとびっくりした。


「チチチチ、プリンセス~」

 連続で舌打ちするような音と、奇妙な英語の単語が聞こえる。


 ケムヨが固まっていると、その大きな塊が更に目の前で膨れ上がるように大きくなって自分に近づいてきた。

 それは男性の人影だった。


「あっ、ケムヨ?」

 自分の名前が呼ばれると、薄っすらとその人影の顔も見えた。


「げっ、将之! 一体何してるのよ、こんな時間に」

「ケムヨこそ、遅かったな。何してたんだ」

「ちょっと待ってよ、もしかしてずっと私を待ってたの?」

「違う! 俺はプリンセスに会いに来たんだ」

「プリンセス? 王女さま? 誰よそれ?」

 辺りは暗かったが、街灯や建物から漏れる家庭内の明かりでぼわっと将之の姿が浮かび上がっている。

 そして手に何か持っているのに気がつき、ケムヨはそれに集中して目を凝らす。


「この間ここに来たときさ、猫に出会ってさ。プリンセスって、俺が勝手に名づけたんだ。それがもうちょっとで触れるくらいだったのに逃げやがってちょっと悔しかったから、これで昨日からここで餌付けしてるんだ」


 そして手に持っていた煮干を振って楽しそうにしている様子はケムヨの声を奪うには充分だった。

 それ以上に呆れすぎて魂までも奪われそうだった。

 暫く放心状態のまま、ケムヨは将之の目の前でじっと立っていることしかできなかった。


 将之は明らかに暗闇の中で笑っている。

 白い歯がチシャ猫のようにぼーっと浮かんでいるように見えた。

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