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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第十三章 夜空の輝く星に願わずにはいられなかった
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 ケムヨが帰宅したとき、幸造はすでに応接間の安楽椅子に座っていた。

 お洒落をしてきたのか、ネクタイが喜美子の好きなラベンダー色だった。

 目を閉じて心穏やかに瞑想に耽っている様は、喜美子との想い出に浸っているのだろう。

 ケムヨは暫くそのままにしておこうと思ったが、幸造はすでにケムヨの気配に気がついていた。


「そこで黙って何を突っ立っておる」

「さすがおじいちゃんね、隙がない。でも今日は早かったのね」

「ああ、早く切り上げてきた」


 幸造はまだ目を閉じたままだった。

 それを利用するようにケムヨは言い難いことを伝える。


「あのさ、実は今日、会って欲しい人がいて、その人も呼んであるんだけど」


 幸造の目がぱちっと開き、ケムヨを見据える。


「ほぉー、笑美子がそんな事いうのは珍しいもんだ。こんな日にわしに誰かを会わせようなんて。もしかして男か?」

「う、うん。その人、昔おじいちゃんに会ったことある人なの」

「そうか、わしの知ってる男か」

「でも、おじいちゃんは覚えてないかも」

「まあいい、会えば思い出すかもしれん。それで、その男は、一体わしに何か話でもあるのか」

「うーん、ちょっと込み入った話になるかも」


 ケムヨは誤魔化すように苦笑いになってしまう。それは将之の口から直接聞いて欲しい。

 自分からは言えなかった。


 そこにゲンジが入ってきて、ちょうどいいところで話が切れた。


「あっ、お嬢様、お帰りでしたか。お疲れ様です」

 ケムヨに挨拶をすると、今度は幸造の方を向いた。


「旦那様、お酒の用意はいかがいたしましょう。吟醸酒でよろしいでしょうか?」

「ああ、ゲンジに任せる。何でも持ってきてくれ」

「はい、かしこまりました」

 ゲンジは恭しく下がり、キッチンで忙しくしているシズと合流してお酒の用意を始めた。



「おじいちゃん、もう年なんだから体に悪いものは程ほどにしてね。この間の健康診断で心臓に負担をかけないようにって言われたでしょ」

「そんな風に注意されると、笑美子が喜美子に見えてくるわい。お前は若い頃の喜美子に雰囲気が似ておる。なあ、今日は着物を着てみてくれないか」

「今から着るの?」


 正直、面倒臭くて嫌な顔つきをしてしまった。


「なんだと、わしの願いは聞けないというのか?」


 凄んで睨みをきかされると、ケムヨは従うしかなかった。


「わかりました。着てきます」


 ケムヨは奥に引っ込んでいった。

 そしてゲンジとすれ違い耳打ちする


「将之が来る予定なので、もし来たら取次ぎ宜しくお願いします」


 落ち着いた物腰で返事をするゲンジは頼もしく、少しの間ケムヨが不在でも大丈夫だろうと安心した。


 普通の着物ならケムヨは自分で着付けができるが、少々時間がかかるので億劫になる。

 とにかく早く済ませなければと急いで部屋に入っていった。



 早速家中にドアベルの音が鳴り響き、部屋に居たケムヨの耳にも届いた。

 ゲンジに任せたのでケムヨはとにかく着付けに専念する。


 だがゲンジがドアを開けたとき、そこに立っていたのは将之ではなく翔だった。

 ゲンジが少し戸惑いながら応対していると、奥から幸造が叫んだ。


「笑美子から聞いておる。上がってもらえ」


 幸造には逆らえず、ゲンジは仰せの通りに翔を案内した。

 翔はにやりとして、遠慮なく案内されるがまま、部屋に入っていく。

 堂々と幸造の前に現れ、恐れることもなく余裕の笑みを浮かべた。


「昔に会った事があると聞いていたが、なんだ、お前か」


 翔を見るなり幸造は、面白い事が起こりそうだと期待して静かに笑みを向けた。

 翔は物怖じせず、自分の存在を目に焼きつかせる勢いで幸造に挨拶をした。


「それでわしに話があるらしいが、一体どんな用だ」


 翔は事があまりにも上手く行きすぎて不思議に思ったが、これを利用する手はない。

 これこそ自分にチャンスが巡ってきたと捉えて単刀直入に言い切った。


「はい、実はお願いがございます。笑美子さんと結婚させて下さい」

「今、笑美子と呼んだが、その分じゃ色々と知っておるみたいじゃのう」


 幸造は潔い翔を見て大いに笑った。自分とケムヨの正体を知っていた事がおかしくてたまらない。


「はい、3年前に気がつきました」

「そうか。まあいいだろう。わしは別に反対せんよ。君なら最高の婿となるしな。わしの後も任せられそうじゃ」


 思った通りだと翔は笑みを浮かべていた。


 

 またその時、ドアベルが鳴った。


「あれ? 誰が来たんだろう?」


 ケムヨも着物の帯を締めながら二度目のベルに首を傾げていた。

 ゲンジがドアを開けて対応すると、そこには将之が落ち着かない顔で立っていた。

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