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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第十二章 冷たい雨は容赦なく頭上に降り注いでいた
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 タクシーが去った後も、将之はまだ動けずにその場に突っ立ったままだった。

 ケムヨも突然現れた将之にどのように接していいのかわからない。


 雨の中傘も持たずに、将之が悲痛な面持ちでケムヨを見ている様は、何かが起こっているのが否が応でも伝わってくる。

 それは貴史と会ったあの夜に関連していることをケムヨは気づいていた。


 平常心を装い、別になんとも思ってない態度を取るが、それが却って意識しすぎて余計にぎこちなくさせていた。

 それでも敢えて挑むように言葉を投げかけた。


「そんなところに立ってたら濡れちゃうじゃない。何か話があるんでしょ。だったらこっちにきたら?」


 将之はそっと門を開け、恐る恐るケムヨに近づいていく。

 ある程度距離が縮まったところで二人は対峙するように見つめあった。


「俺、あのさ、その、貴史が言ったことなんだけど、あれは……」

「やっぱりそのことか、何を気にしてるの?」


 ケムヨは笑ってみたものの、それは不自然に口元を動かしただけで、頬は引き攣り目は白々しく前を見据えているだけだった。


 優位に立ちたいために無理をして平常心を装う自分が痛い。

 将之を間近にして、プライドが自分を守ろうとしていた。


 一方で将之は誤解を解く糸口を探ろうとするが、ケムヨを恐る恐る見つめるだけで精一杯だった。

 なんとか本当のことを知ってもらいたいと哀願するが、目の前のケムヨは人の話を聞くような雰囲気ではない。


 ケムヨの感情がバリアとなって、守りに徹底してしまっている。

 表面は何事もない様子を装っているが、それはもう心を閉ざしているのと同じことだった。

 将之の目を通してそれが良く見える。

 それでも必死になって説明しようとした。


「違うんだ。貴史の奴、勘違いしてケムヨに変なことを言ってしまっただけなんだ」

「変なことっていっても、合コンで私を引っ掛けられるか賭けをしたってことでしょ。元々将之はゲーム感覚でしつこく接してたじゃない」


「だから違うんだ、ケムヨ。確かにあれは合コンに行くのを嫌がる俺に、貴史が誘い出そうと遊びで賭けを持ち出してきた。だけどケムヨに会ったら俺本当に惚れちまったんだ。合コンに行った動機は最悪だけど、その後は俺は本気だ」


「もういいって。気にしないで。将之と過ごせた日々は楽しかったわ。色々とありがとう」

「そんな言い方やめてくれ。まるでこれで終わりみたいじゃないか。もしかして翔さんと寄りを戻してしまったのか? 貴史と出会った夜、翔さんと抱き合っていたのは本当なのか?」


 隠す必要もないし、正直に言った方がいい。

 これ以上の問題を抱え込みたくないと、ケムヨは感情を含まない乾いた声で返事する。


「ええ、抱き合っていたのは本当よ。それにプロポーズもされたわ。今それについて考えているところ」

「そんな。嘘だろ。なんでだよ」


 もう諦めろといわれているようで、将之の頭に血が上ってしまう。

 将之は我を忘れてついケムヨの肩に手を置いて責めてしまった。


「ちょっと痛い、止めてよ」


 興奮した将之の手をケムヨが振り払おうとしたとき、大きく体が動いてバランスを崩し、弾みで側に居たプリンセスを蹴ってしまった。

 プリンセスは驚いて雨の中を走って門の外へ出てしまった。


 ケムヨはそれに気づかず、将之と対峙していたその時、家の前を走行していた車の急ブレーキをかける音が響いた。

 その音で、将之は我に返り、ケムヨも足元にプリンセスが居ないことに気がついてはっとする。


「まさかプリンセスが……」


 ケムヨがそう言うや否や、将之は停車している車に慌てて駆け寄った。

 停まった車のワイパーが激しく動く間から、運転手の悲壮な表情が前を見据えている。


「一体何が起こったんだ」


 将之が視線を下にずらしていく。

 目の前の車のヘッドライトが照らしている部分を見て、暗闇の中で降る雨がかなりの雨量だと知ると同時に、プリンセスが跳ねられて横たわっている姿がそこにあった。


 その上から雨が容赦なく降り注ぎ、プリンセスの体の下から黒いものが影のように滲んで広がっていく。


 ドクンと大きく一度心臓が高鳴った。

 その直後、将之の目は飛び出すほどに見開き、一気に戦慄が体を駆け巡った。


「あ、あ、ああ、あああああああー」


 それはまさに悲鳴だった。濡れた暗い闇の中で悲痛な金切り声が響いた。

 そして将之は地面に崩れ落ち膝を着いた状態で、プリンセスを凝視しながら気が狂ったように声を張り上げ続ける。


 ケムヨもショックで顔が真っ青になったが、それ以上に将之の様子がおかしい。

 異常なほどに声を上げ、震えている。


「将之、将之、しっかりして」


 将之は泣き叫び、恐怖で怯えきって我を忘れていた。

 将之の悲鳴でゲンジとシズも外に出てきた。近所の人たちも集まってくる。


「お、お嬢様、一体何が」

「シズさん、プリンセスが轢かれてそれで将之が発狂してしまって」


 ゲンジは将之を抱き起こそうと体に手をかけたが、将之は落ち着くどころか暴れまくる。

 その状態は段々酷くなり過呼吸を引き起こしていた。

 手足も痺れをきたしたように震えが生じている。


「篠沢さん、しっかりして下さい。シズ、室井先生に電話して、早く」

「は、はい」


 シズは駆け込んで家の中に入っていった。


「お嬢様、篠沢さんはパニック障害を起こしてます。とにかく落ち着かせないといけません。家の中に運ぶのを手伝って下さい」


 ゲンジの誘導でケムヨは将之の手を取り、二人して抱き起こした。

 将之は息苦しそうに、目を見開いてハアハアと必死に呼吸していた。

 正常さが逸脱して抜け殻になったような状態だった。


 将之を客室のベッドルームに運んでから、ゲンジはまた外に出て車の運転手と話をしにいった。

 謝罪する運転手に、突然のことで避けようがなかったとゲンジは理解を示した。


 その後は横たわったプリンセスを悲しげに見つめながら処理をする。

 仕方のないことだったと無念でたまらないが、せめて最後はきれいにとプリンセスの血を拭ってやった。

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