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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第十一章 真実は一体どこにあるのか問い掛けてみた
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「ところで、勝元さんは姐御のどんなところに惹かれたんですか? 昔の姐御ってどんな感じだったんですか?」


 お酒も少し入り、翔が話の分かる人だと知ると、タケルは調子に乗って色々と質問する。


「タケル! 変な質問しないでよ」


 ヘラヘラ笑うタケルに言っても反省などなかった。

 それに合わすように翔は答える。


「そうだな、一言で言ったら、高貴に咲く可憐な花。頭が切れて、仕事もできる。細やかな気配りにすっかり惹かれたもんだった。その上控えめで縁の下の力持ちだったからまさにヤマトナデシコだった」


 今更そんなことを言われてもと、ケムヨはまともに聞いてないフリをする。手持ち無沙汰に目の前の料理を口に放り込んだ。


「今でもその通りですよ。姐御は僕から見てもかっこいいですから。だけどなんで浮気なんかしちゃったんです?」


 また振り出しに戻り、ケムヨもうんざり気味だった。

 好きに話していろと、とうとうそっぽを向いた。


「それは俺も自分に問いたいよ。ほんとに後悔している。魔が差したといえばいい訳にしかならないだろうが、あの時は俺も傲慢で全てが上手く行くと勘違いしていて、大切なものを見失っていた」

「なるほど。誰にも何らしかの間違いってありますもんね。姐御、もう許してあげたらどうですか?」

「タケル、そういうことは口挟むもんじゃないのよ」


 ケムヨはギロリと睨んだ。


「すみません。ついなんか勝元さんに感情移入しちゃって」


 男は男の目線でしか物事を見られない事がケムヨにはよく分かった。


「翔、私達このままでいいじゃない。友達というより会社という戦場で一緒に戦った戦友。それだったら私も過去のことは水に流してまた仲良くできそう」

「俺はそれじゃ満足いかないよ」

「姐御もかつては勝元さんのこと好きだったんでしょ。今はどうなんですか? 女性ってそんな簡単に気持ちって処理できるもんなんでしょうか」


 できるわけないじゃない。そう叫びたかったが、タケルには何を説明しても理解できないことだろう。


「あのね、タケルにも女心がいつか分かるときが来ると思う。それまで大いに悩みなさい」


 子供を諭すようにわざとらしい笑顔を添えてケムヨは答えた。


「もしかして他に好きな人が居て揺れ動いているとかだったりして。ほらいつかの追いかけられていたあのしつこい人。あの人とあれから発展があったりして」


 ケムヨにはタケルの思考にはお手上げだった。コイツはどこまでも屈託なくさらりと言う。

 それがこの場で言われたくない事だとは全く気がつけないところが鈍感すぎる。


 ケムヨは答えるのも疲れて、二杯目も勢いよく飲んでいた。


 翔はタケルが示唆した男は将之の事だとわかり、将之がいつの間にかケムヨの中に入り込んでいるのが寄りを戻せない原因だと結論付けた。


 翔もまた手元にあったお酒をぐっと飲み干す。飲んだ後は衝動でグラスを床に投げつけたくなっていた。



「すっかりご馳走になっちゃったね。本来なら俺が奢る立場なのに」


 バーがあったビルを出た直後に翔はタケルに礼をいう。


「いいんですよ。僕が誘いましたし、今日はお近づきになれて嬉しかったです」

「タケルありがとうね。だけどツケで払うって、そんなにここに来てるの?」

「父が利用してるみたいで、それに便乗してまして」


 結局はそういうことだろうとケムヨは思った。


「親子でこんな高級バーにくるなんてすごいな」


 翔はタケルの父親が政治家とは知らないので感心してたが、タケルはヘラヘラと誤魔化すように笑っていた。


「それじゃ僕はここで失礼します」


 タケルはすっかり翔が気に入ったのか、ケムヨと二人っきりのチャンスを作ってやった。

 ニヤッと笑ってから颯爽と去っていった。


「なんだか、あいつかわいい奴だな」


 翔もタケルの屈託のないあどけなさに気がついていた。

 タケルが去った後、暫く二人は肩を並べて歩くが、こんなに近くに居てもどうしても二人の間にできた溝は埋められそうもなかった。


「タクシーで家まで送ろうか?」


 翔は気を遣う。


「いいよ。そんなに遅くないし、電車で帰れる。翔は今どこに住んでるの?」

「俺は、仮住まいでこの辺りのウィークリーマンションに住んでる。まだ帰国してきたばかりだからきっちりとした住まいも見つかってないんだ」

「そうだったの」

「なあ、このまま少し一緒に歩いてくれないか」


 簡単な申し出にケムヨは断れなかった。

 いや、本当は翔と少し歩いてみたいと思ったのかもしれない。


 街の中心部の繁華街は、賑やかで明るく人通りも多かった。

 その中に混じると、翔と肩を並べて歩くことに抵抗がなくなってしまっていた。


 公園に続く街路樹が植えられている通りを静かに二人は歩く。

 ケムヨたちの他にも周りにはカップルが見受けられた。

 楽しく語らっているデート中のカップル達を横目に、翔は当たり障りのない話から始めた。


 

「あの二宮って男はもしかして金持ちのボンボンじゃないか?」

「さすが翔ね。よく見抜いてるわ」


「苦労をしてないから、楽観的に物事を考えられるんだろう。まだ世間に揉まれてない素直さが目立つよ。ああいう男は俺のようにハングリー精神を知らなさそうだ」


「翔は持って生まれた才能があるし、人を惹き付ける魅力も備えているじゃない。人それぞれ持ってたり持ってなかったりするものがあるんじゃないの?」


「もちろんそうだけど、俺の家は貧乏だっただけに、小さいときは苦労したよ。よく虐められたんだぜ」


「そう言えば、翔の小さい頃の話聞いた事がなかった。いつも翔は中心に居るような人物だったし、子供の頃も人気があるって思ってた。虐められたなんて信じられない」 


「世の中は弱いものはとことん弱く、強いものだけが生き残れるようになってるのさ。だから俺は強くなろうって、人が手に入れられないものを手にしようって野心がギラギラと燃え滾ってた。家が貧乏でもきっと自分はのし上がれるってそう信じて勉強も一生懸命やって、お陰で特別待遇生徒として高校や大学にいけた。そしてその後は今の会社に入れて、レールに乗ったと思っている」


「そうよね。翔はいつだって向上心に溢れて上を目指していた」


「だけどそれが自分の足をすくう事になるとは思わなかった。上を目指すがあまり、傲慢になって取り返しのつかないことをしてしまった」


 ケムヨは敢えて何も言わないでいた。

 何度聞いてもやはり翔が言いたいことは辛すぎるからだった。


 翔は突然立ち止まる。

 ケムヨを見つめ、酒も入ったせいで抑え切れない思いが押し上げられるように溢れ出てしまった。


「俺にはお前しかいないんだ。頼む、俺のところに戻ってきてくれ。この先もずっと俺の側にいてくれ」


 翔はなりふり構わないかのように、人通りがあっても気にせず突然ケムヨを抱きしめた。


 街は明るいといっても、街灯は上の方からぼやっと光を放ちて暗さを薄めるだけだった。

 人々にまで充分に灯りが届かず、周りに人が居ても黒い影が無関心に動いているだけのように見えた。


 ケムヨは抱きしめられたまま、ただじっとしていた。

 自分でもなぜ冷静にこの状況を受け止められるのかわからないくらいだった。


 こうなることをどこかで望んでいたのかすら思えてくる。


 それでも答えを見出せず、少し首を上げて空を見つめた。

 相変わらず星は見えたものでもないが、一つだけ薄っすらと小さな光が見えた。


 それがコンペイトウのように思えて、なんだか無性に口の中に放り込みたくなっていた。



 最後までケムヨは大人しく突っ立っていたので、翔は一人虚しくケムヨを抱きしめながら、惨めな思いを募らせていた。


 届きそうで届かないもどかしさを抱き、このまま力ずくでケムヨを奪ってしまいたいくらいだった。


 ケムヨは翔を受け入れたわけでもなく、かといって拒絶しているわけでもない。

 抵抗しなかったのは『これで気が済んだ?』とそんな慰めが込められているようにも思える。

 翔は諦めてケムヨを解放した。


「ごめん……」


 小さくそう呟くのが精一杯だった。


「翔、あの日から3年と言う月日は色々な思いが錯誤したわ。どんなに時間が経ってもあの時の辛さは癒えないの。翔がリセットできたとしても私にはできそうもない」


 暗闇の中、一層黒く見えた瞳が物悲しく翔を捉えている。

 翔は悲痛な思いを叫び続けるしかなかった。


 もう二度と悲しい思いをさせない。裏切ることはしない。

 声には出さなかったが目で必死に訴える。


 ケムヨはとうとう、翔から視線をずらした。

 二人は橋のかからない谷を挟んで向かい合っているようだった。


 暫く言葉なく街路樹の側で佇んでいると、近づいてくる人の気配を感じた。

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