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星影ロンリーハート  作者: CoconaKid
第一章 それは合コンというゲームのつもりだった
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「うそでしょ! どうして、教えてくれなかったのよ。そんなことなら無理してでも行ったのに!」


 誰もが一週間の始まりを鬱陶しいながらも、またしっかり働こうと無理にやる気を奮い起こしている月曜日の朝のことだった。


 突然オフィスの中で野々山優香(ののやまゆうか)が爆発するように吼えた。


 何事だと周りが振り返ると、優香は男性達の視線に我に返り、肌に塗ったファンデーションがひび割れを起こしそうなくらいに無理に愛想笑いをして体裁を繕う。


 目の前にいた横峰留美(よこみねるみ)の袖を引っ張り、部署を出て廊下の一番端にある給湯室へと連れ込んだ。


「ちょっと優香、落ち着いてよ。朝からそんなに興奮しなくても」


「これが落ち着いてられますか。先月辞めた夏生(なつき)先輩がやっとお膳立てしてくれた合コンだったのよ。夏生先輩は医者と結婚した人よ。その旦那さんの人脈をあてにして合コンをずっとお願いしていたのは私なのに、それなのに先週の金曜日、当日突然男性メンバーが集まらないからってドタキャンになって、合コンの代わりにただ皆でお食事会しましょうってことになったんじゃなかったの?」


「だから、私もそのつもりで食事に行ったら、なんか知らないけど、夏生先輩の旦那さんがお知り合いを三人連れて来て、私もそれが合コンだとは思わなかったのよ」


 すごい剣幕で言われると留美は本当のことが言えなかった。それを言えば優香は益々怒り狂ってしまう。


「そんな事って…… なんでそうなるのよ。それで、その三人の男はどんな人たちだったのよ」


 優香は納得がいかず、イライラが募りながらもどんな男達が集まったのか気になって仕方がない。

 八つ当たりするように聞いてしまう。


 それでも幾分おっとりしている留美は優香の性格を理解しているかのように落ち着いて受け答えする。


「えっと、一人は夏生先輩の旦那さんのお知り合いのお医者さん、もう一人はコンピューター会社の社長さんで、最後はその社長さんのお友達でお偉いさんっぽいビジネスマンだった」

「それで年は?」

「年? えーっと、20代後半から30手前くらいだったかな。でもみんな見た目も若くて結構いい感じの人達だった」

「で、あんたの他に女性の参加者は他に誰がいたのよ」

「夏生先輩の友達でもある隣の部署の真理絵(まりえ)先輩とあとケムヨさん」

「ケ、ケムヨ…… ちょっとそれって」


 優香がびっくりしたとき、ちょうど給湯室にバケツと雑巾を持ってケムヨが現れた。


「あっ、おはようございます」


 ケムヨの挨拶はか細い声でじめっと暗く、お辞儀をしたとき、長い黒髪がばさっと前に流れて顔を覆うとそれはどこかホラー映画に出てくるような風貌に見えた。


「おはようございます。ケムヨさん。あの時はお疲れさまでした」


 留美はにこやかに挨拶を返して合コンの話題を振った。


 ケムヨはドキッとして、その話題には触れたくなく逃げるように「はあ」とだけ曖昧に挨拶を返し、そして流しに向かい水道の蛇口から水を出して自分の仕事をし出した。


 優香は腹の虫が収まらない中、ケムヨの後ろで不機嫌な顔を見せつけるも、どうせ相手にされなかっただろうと勝手に推測する。


 そして色々と頭の中で思いを巡らせていた。

 正社員ではないが、優香は派遣でこの会社で働いている。年も24歳と若く、優香はお洒落に気を遣い少し派手目で華がある。自分でも美人な方だと自信を持っていた。


 夏生の友達である真理絵は正社員だが少し男勝り。年も28歳でおばさん気がそろそろ漂う。


 留美も優香と同じく派遣で年も一緒だが、おっとりとした鈍感さで消極的なところもあり少し芋臭い。


 ケムヨはパートタイムで週に2,3日来るだけで、掃除やお茶くみ、コピーと雑用ばかりしていて、派遣よりも蔑んで見られている傾向がある。

 年も28歳、おしゃれっ気もなく暗い雰囲気がして、只でさえ出勤日数が少なく目立たないのに、側にいても全く存在感のない幽霊扱い。


 この三人が合コンで気に入られる確率は低いと思うと優香は少し落ち着く。


 そう思うことで自分をなだめようとしていた。


 それでも自分がその場に居なかったのは、最大のミスだと言わんばかりにまた怒りが湧き起こる。

 文句と愚痴を言ってはけ口を求めたくて、今度は夏生の友達でもある真理絵を探しに向かおうとする。

 会社を去ってしまった夏生と連絡を取るには、彼女の友達の真理絵しかいなかった。


 自分よりも年上と分かっていても、いい条件の男を探すためにはなりふり構ってられないと、再び留美の袖を引っ張る。


「ちょっと優香、落ち着いてよ」

「このままでは気が治まらないのよ。真理絵先輩のところへ行くわよ」

「もう! いつも強引なんだから。それじゃケムヨさん、また後で。良かったらあれからどうなったか教えて下さいね」


 最後は早口で言わなければならないほど、留美は優香に引っ張られて行ってしまった。


 ケムヨは一人給湯室で、忘れようとしていた合コンの話を留美によって穿り返され益々暗くなっていた。 


 ため息を漏らしながら、雑巾を力強く絞っていた。

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