【真実の愛】をと仰ってますが、どす黒いハートにしか見えません!
二回目の短編です。
楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m
俺の名前は、ロルバート・フォジャー。
フォジャー家の跡取り息子だが、いまだに婚約者がいない金のない伯爵家だ。
学年が最終の三年に代わる時期。
学園のダンスパーティで、王太子がドギツいピンク頭の女を抱き寄せ――。
「真実の愛を見つけた。よってクラリス・セパレールド、貴様との婚約を破棄する!」
と、堂々と言ったもんだ。
だが、その“真実の愛”ってのが嘘だってのは、俺にはわかる。
俺には、生まれつき一つだけ取り柄がある。
――【真実の愛が見える】。
本物なら光るハート、偽物ならどす黒い塊。
今、王太子の隣にあるのは後者だ。
「真実の愛? 偽りの愛だろ」
つぶやきながらジュースを飲む。
胡散臭い歌劇のような断罪劇。
断罪される令嬢は、幼い頃から王太子の次期妃にと、遊ぶ暇もないほど大変だったと聞いている。
それなのに、よくもまぁ浮気をした挙げ句、堂々と“偽りの愛”を口にできるもんだな。
王太子はピンク頭の女の肩を抱きながら、クラリス様を見ようともしない。
それでもクラリス様は、ただ静かに立っていた。
その沈黙が、王太子の愚かさをより際立たせていた。
その横で、彼女のハートが青く萎んでいくのが見えろ。
――ああ、終わってるのは国じゃなくて、こいつの頭だ。
ガヤガヤと周囲が騒ぐ中、王太子は自分の信じている“偽りの真実の愛”しか見えていないらしい。
本当にピエロだな。哀れなもんだ。
ぐいっと飲み干したジュースをトンと置き、謂れなき誹謗中傷を受けているクラリス様を見に行った。
すると、彼女は無表情のまま立っていた。
涙を流すわけでも、何を言うでもない。
――彼女の心に、王太子の言葉はもはや入っていないのだと気づいた。
だがハートは……。
「……ハートは萎んでいて、今にも消えそうだな」
今までの頑張りを無にされたのだ。
触れれば壊れそうなほど、クラリス様の心は弱っていた。
青くなって今にも消えそうなハート……それがクラリス様の“心”だった――。
◇◇◇◇
だからといって、一介の伯爵家が何とかできる問題でもなく。
陛下が止めに入り、ようやく事は収まり、王太子有責のもと、クラリス様との婚約は破棄されたと聞いたのは二週間後のことだった。
そんな話が聞こえてきた頃、俺は一人お忍びで市井の散策に出かけていた。
その時、ふと目に留まった萎んだハートと、美しく優しいラベンダー色の髪。
彼女と、侍女らしき女性が一人、椅子に座っていた。
遠くを見ているようで、その顔ははっきりとクラリス様だと分かった。
「クラリス様……市井に行きたいなどと……お父様がお聞きになったら」
「……いいの。今は……静かに貴族のあれこれから離れたいの」
「お嬢様……」
そんな声を聞き、俺はしばらく悩んだ末、屋台のクレープ屋で俺のオススメのチョコを頼むと、クラリス様のもとへと向かった。
「クラリス様……ですよね?」
「……貴方は」
「俺はロルバート・フォジャー。フォジャー家の嫡男です。色々あってお疲れかと思い、そこのクレープ屋で俺の好きなオススメを買ってきました。良かったら甘いものでも食べて、嫌なことは忘れたらどうでしょう」
「そんな、市井の物をお嬢様がお召し上がりになるなんて!」
「……フォジャー様。お心遣い……感謝いたしますわ」
「お嬢様!?」
そう言って俺からクレープを手にしたクラリス様は、一口ぱくりと食べると頬を綻ばせ……。
一口食べた瞬間、クラリス様の青かったハートが、かすかに色を取り戻した。
「良かった。俺もたまに市井に来るんです。刺激にもなるしいいストレス発散にもなる。無論、安全は考えたほうがいいですけどね」
「……ええ」
「……俺はあの時、貴方の味方になるために前に出ることもできなかった男です。なので聞き流してもらっても構いませんが……。あの二人は“偽りの愛”ですから、すぐに婚約は破綻しますよ」
「え……!」
「そうなれば、またクラリス様に婚約の話が舞い込んでくるでしょう。王家のことですから、新しく王太子妃を育てるより、貴方を選んだほうが早い」
そこまで言うと、彼女はしばし無言になり、意を決したように口を開いた。
「では、それまでに別の方と婚約すれば宜しいのね?」
「そうなりますね」
「教えていただきありがとうございます……。もう一度お名前を教えていただけます?」
「ええ、ロルバート・フォジャーです」
「フォジャー様、クレープ……美味しかったですわ。またお話相手になってくださいますかしら?」
「俺で良ければいつでも。しがない貧乏伯爵の息子ですがね」
そう言って苦笑いすると、俺はその場を去っていった。
萎みかけていたハートは、いくぶんマシになったみたいだ。
あとは、彼女が新しい恋を探せばきっと――。
だがその前に、“偽りの愛”で一緒になったあの二人が破綻するかもしれない。
できればスピーディーに全てが運んでくれればいいが……。
そんな願いにも似た気持ちのまま家路につき、その日はゆっくりと眠りに入った。
――その翌日から、俺の生活は一変した。
◇◇◇◇
翌日の夜、学校から帰宅すると父が慌てて走り込んできた。
何事かと思い身構えると――。
「おおおお、お前何かしたのか!?」
「何かって!?」
「セパレールド公爵家からお前に縁談だ!お相手はクラリス・セパレールド様だそうだ!」
「え……ええええええ!?」
正に青天の霹靂!
あの、一度話しただけの……クラリス様と俺が婚約!?
「なぜ……え?俺……と?」
「婚約にあたり、多額の資金援助とクラリス様が所有している商売も、婚姻の後、ともにしていく用意があるとのことだ……」
「破格すぎない?」
「だから、お前が何かやったのかときいているのだ!」
いや、何もおかしなことはしていないはずだ。
あの時、萎んでいたハートを見て……俺は声をかけた。
そして、クレープを奢ったくらいだ。
それが一体どうして……。
「とにかく返事を書かねばならん。了承でいいんだな?とはいえ、こちらは格下だ。断ることなど出来るはずもないが」
「え、あ、あぁ……そう……だな」
「やれやれ、急ぎ色々手続き済ませたり……ああ、家もボロ屋だというのに!公爵令嬢様が将来的に嫁入りするなど!」
そう言って父はバタバタと走っていった。
――我が家に母はいない。
男を作って出ていったからだ。
父親が情けなかったのかと言うと、そうでもない。
父は真面目に仕事をして、家族のために働いていた……。
家族と言っても、俺しか子供はいないわけだが。
「こりゃ……大変な事になったぞ……」
頭を抱えるも、決定事項は決定事項。
一介の貧乏伯爵家に、公爵家のお嬢様が婚約者に名乗り出て、将来は――。
そう考えると、俺はどうクラリスを守っていけばいいのかと考えた。
考えた結果が――〝俺の持っている固有スキルをフルに使う〟というものだった。
それくらいしか、俺はクラリスを守る術を知らない。
こんな貧乏伯爵家の婚約者になると言ってくれているんだ。
もし仮に一時的なものであっても、その恩には報いるべきだろう。
俺は覚悟を決め――クラリス・セパレールドとの婚約を受け入れることにした。
◇◇◇◇
翌日、学校に行けば俺とクラリスの話題は既に浸透していたようで、視線がとても痛かった。
痛かったが――学園で会ったクラリスは元気そうだった。
元気そうだったが……ハートが真っ赤に染まっていた。
俺へ対する好感度が高すぎる!!
あの一度のクレープがそこまでハートを輝かせているのか!?
「フォージャー様!」
「セパレールド様、おはようございます」
「あら、婚約者同士になったんですもの。名前でお呼びしても宜しいかしら?」
「それは……ええ、無論です」
「ではわたくしの名前も是非下の名前で……」
「わかりました」
「敬語もいりませんわ」
「分かった。ありがとうクラリス」
「ロルバート様。昨日は突然の婚約申し出……受け入れてくださり有難うございます」
「俺も驚いたけど、それで君が幸せになれるのなら喜んで受け入れるよ」
「ああ……ロルバート様」
ハートが。
ハートがドグンドグンと波打ってる!!
そこまで喜ぶことなの!?
昨日まで青くて萎んでたよね!?
ああ、新しい恋って奴か?
その相手に選ばれたのは光栄だけど、ハートが凄い波打ってるから!!
でも、クラリス様は頬を赤くして嬉しそうだし、文句なんて言えるはずもない!
このデカいハートは……最早オブジェ!
オブジェとしよう!
――そう思っていた時。
「はははは!私に振られたからと、そんな貧乏伯爵家に婚約をお願いするとは、落ちぶれたもだな!」
「駄目ですよ~セパート様ぁ。あれでもクラリス様は必死なんですよぅ?」
「それもそうか、はははは!」
そう言って、今にも溶けて無くなりそうな黒いハートをドロドロさせた二人がやって来た。王太子とそのお相手だ。
「ご心配には及びませんわ。貴方との婚約は〝義務〟でしたが、彼との婚約は〝真心より愛を込めて〟ですもの」
「なっ!」
「義務で仕方なくいる相手より、真に心を通わせられる相手との婚姻の方がいいのは……あなた方が一番ご存知では?」
「ま、まぁ、そうだな!」
「そろそろ妃殿下としての勉強も始まると言います。寝る間もないでしょうが、真実の愛を前にすれば出来ますわよね? ええ、出来ると信じておりますわ!」
じょ、女優だ!!
逃げ場を失わせ、それを周囲に聞かせた上で本当にどこにも逃げ場を失わせる。
これで髪の色がドギツイピンクの王太子の相手は、顔を引きつらせながら――。
「貴女に出来て私に出来ないことはないわ!」
そう更に墓穴を掘る。
おお……自分で逃げ場を消したぞあの女。
聞いてたよな? 寝るまもなく王太子妃の勉強が始まると。
更に学校もあるんだぞ。
本当に大丈夫……ではないだろうな。
いずれ泣きついて破談が精々だろう。そういうのが目に見えてる。
「是非、パーティ会場で言った通り〝真実の愛〟を見せて頂けるのを楽しみにしております」
「フン!貴様風情等から言われなくとも分かっている!」
「行きましょ!」
そう言って二人は去っていった。
朝から嵐のような日だったが、その後は友人たちに冷やかされたりしながら過ごし、学校の昼食はクラリスと共に食べ、帰りは共に馬車まで帰る日々がスタートした。
俺達の仲は、意外と上手く行っているようで、順風満帆。
波打つ心臓の音と、巨大なハートを気にしなければ、普通の男女の恋愛……とは言わないが、婚約者同士の可愛らしい日常だ。
貴族男子としての務めも、少ない金額の中からでも精一杯やった。
ドレスは流石に贈れるだけの金額が無かったため……申し訳ないと謝罪し、アクセサリーを贈ることもした。
クラリスは、我が家の財政状況を詳しく知っていた。
なぜだろうか……。
ちょっと怖い。
「無理をなさらなくてよいのですわ。貴方の真心にわたくしがどれだけ癒やされ、愛されているのかを実感出来てるとお思いですか?」
「クラリス……」
「それでも、貴族男子としての勤めを果たそうとしてくださる貴方は……。得難く、素晴らしい男性です。わたくしの目に狂いはなかったですわ!」
そう言って幸せそうに微笑むクラリス。
俺は自分ができるだけの事を精一杯彼女にしているつもりだ。
でも、まだ足りない。
まだ愛し足りないんだ。
その事を伝えると、クラリスは顔を真っ赤に染めて――。
「愛し足りないだなんて……身に余る光栄ですわ……」
そう言って抱きついてきた。
「はしたないと叱らないでくださいませ……。気持ちが溢れ出て……今にも……」
「あ、ああ……分かってる」
ハートが。
ハートがドクン、ドクンと跳ね回る!!
今正に、心臓が爆散しそうなほどに波打ってるもんな!!
見てるこっちがハラハラする!!
頼む、頼むから爆散しないでくれ!
「わたくし……こんなに幸せで……ああ、ロルバート様……このまま学生結婚致しません事?」
「え、えええ!?」
「わたくし、父に相談しますわ……。もう、貴方なしでは生きていけない」
「クラリス……」
涙を溜めて総口にするクラリス。
心臓は今にも爆発しそう。無論クラリスのだが。
俺は大きく深呼吸し……。
「貧乏で苦労を掛けるのは、分かっているな?」
「ええ、全て承知の上でもし上げておりますわ……」
「それなら……君が望むとおりにやってごらん? 俺はどんな君でも受け入れるよ」
「ああ……!!ロルバート様……!!」
こうして、クラリスのど根性と言うべき執念の説得により、俺とクラリスの結婚はあっという間に進んだ。
学生結婚は一部の貴族ではしていることだ。
クラリスとは、学園を卒業するまでは白い結婚だが、それでも充実した日々を送っていた。
――無論、一部を除いては……だが。
◇◇◇◇
王太子妃教育が始まったらしく、ドギツイピンクの髪の王太子のお相手は、日に日にやつれていき、最早前のような美しさを見ることは出来ない。
王太子もそうなると興ざめしたようで、愛を囁くことも、心配することもなくなった。
本来好きな相手ならば、労いの言葉の一つや二つかけてやればいいのに――。
「全く、あの程度も出来ないのか?」
「も、申し訳ありません……」
「ッチ。アテが外れたな。クラリスならばあの程度直ぐにできたものを」
「……申し訳ありません……」
「その当のクラリスは学生結婚何ぞして……。離縁させるのにどれだけ時間と労力を使うと思っているんだか!」
学校という学びやで、王太子は人目を憚らずそんな事を口にする。
他の貴族たちは二人の様子と王太子の言葉を、両親に伝えたり、祖父母に伝えたりしているようで、今や王太子の地位は地に落ちたかのように支持率は低い。
王太子は別に彼でなくてはならない――と言う理由ではないのだ。
弟の第二王子は人柄もよく、民のために動く良き王子だと聞いている。
孤児院への寄付や、訪問も良くしているそうだ。
それと比べると……。
王太子といえど、横暴な言動は目に余る。
ましてや、クラリスと俺を離縁させようとしていることを学園という公の場で怒鳴り散らすのだから、クラリスの実家も黙っていない。
セパレード公爵は王家に対し「一体どういうおつもりなのか」と厳しく追求。
他の貴族も混じり「王太子としての自覚がおありではないようだ」と王家に厳しく伝えたそうだ。
陛下も、王太子がそんな馬鹿げたことを言っているとは知らなかったようで、後日王太子を呼び話し合いが行われたそうだが――芳しくなかったそうだ……と言うのは、義父からの情報だ。
「王太子は自分こそが正しいという考えが強すぎる。王族から外されるのも時間の問題だろう」
そう義父は語り、俺とクラリスはホッと安堵の息を吐いた。
◇◇◇◇
さて――気になっているだろうが、妻クラリスのハートは相変わらずデカい。
真っ赤なハートを波打たせ、俺の言葉や笑顔で凄い音を立てる。
正にドルゥンドルゥン!!という凄い音だ。
それも背景と思えば気にならないもので、
愛しい妻の可愛らしい姿の背後にある巨大なハート。
それがどうした。
妻は愛らしい。
ハートもきっと愛らしいだろう。
なにせ妻の心を表しているのだから。
「お父様達が先手を打ってくださったお陰で、わたくし達は安全そうですわね」
「そうだな、次良からぬことを考えた場合は王族から外されるそうだ」
「良かったわ……。サッサと外されて市井に行けばいいのよ」
「全くだな。第二王子の方がまだ人柄も良く、素晴らしい人間だと思うよ」
「あら、貴方ほどの男性ではないわ?」
「こらこら、仮にも第二王子様だぞ?」
「うふふ、それもそうね」
そう言って寄り添い微笑む妻。
ドルゥンドルゥン!と音を立てるハート。
アンバランスなこの感覚が、俺は癖になってきていた。
俺も大概かもしれない。
それだけ妻、クラリスが素敵なのだから致し方ないのだが。
その後も学校に通っては、俺達に一言二言言いたげな王太子と出くわすことはあったが、言えば周囲にも聞かれ、問題になるのを恐れて言うに言えないらしい。
それをいいことに、俺達は学園内でも夫婦円満であることをアピールした。
実際夫婦円満なのだから、アピールも何もないんだが……まぁ、王太子の悔しそうな顔が見れるだけでも良しとしよう。
その後、王太子とドギツイピンクの髪はどうなったかと言うと――破綻した。
ドギツイピンクの彼女のほうが耐えきれなくなったそうだ。
心も病み、今は家で療養しているそうだと聞いている。
――だから言ったんだ。
〝どす黒い偽りの真実の愛〟だと。
王太子は次の王太子妃を探そうにも探せず苦労しているそうだ。
――ざまぁないな。
そんな事を二人語り合いつつ、幸せな学生結婚生活を送り、後に王太子は市井でやらかして王族の籍を剥奪され市井に放り出された。
第二王子が王太子となり、この国は安定するだろう。
全くもって、元王太子は本当にザマァないなぁ。
そう考えながらも、無事学園を卒業し、時は過ぎ去り――二人の我が子にも恵まれた。
その子達にもまた……俺と同じ力が備わっているのは、あとになって知るのだが。
今日も可愛い妻のハートはドルゥンドルゥン!!と音を立てている。
その音が心地よく感じつつ、俺は愛妻の彼女と我が子に囲まれ、幸せな日々を送っている――。
══完══
ブックマーク、評価があると喜びます。
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




