7.アメリアの秘策
「ねえアメリア~。このお屋敷広いね! ちょっと見て回ってきたけど廊下の幅が街の道路みたいだ!」
ルルがはしゃいでアメリアの部屋に戻ってくると、アメリアはライティングテーブルに広げていた資料から目を離した。
「まあ、確かに御用邸だけあって広いわよね。私の部屋が医務室と近いのも納得」
「部屋から部屋まですっごく遠いもんね。普通の家だったら二部屋は余裕で並べられちゃうもん」
「それより、王子の体質、大体わかってきたわよ」
「どうだったの?」
「恐らく、というか高確率で心因性のものね。治癒魔法はそもそも精神に感応して作用するところもあるから、心が魔法を受け入れない状態って踏んでるわ」
アメリアはルルに魔法が効きにくい要因を話していく。
魔法の中でもとりわけ治癒魔法は魔法をかけられる人間の精神状態に効能が左右される性質がある。治るという希望があれば魔法の力も増進し、効きもよくなる。逆に魔法は効かない、治らないと思うほどに効きは弱まっていく。
「つまり、魔法なんか効くもんかって思ってたのかな」
「それはどうかしらね。一言に魔法を信頼していないっていうのもあるかもしれないし、それ以上に」
アメリアはライティングテーブルに載ってきたルルの頭を撫でる。それから少し考え込むような表情をした。
「コーネリアス王子、幼い頃から第一王子アレクシスの守護騎士として訓練を受けていたみたい。訓練は毎日欠かさず、何をするにもまず自分から動く。それを長年続けていたんだもの、たぶん誰かに頼るってことを知らないんでしょうね」
ルルは納得がいったように頷く。
「治癒魔法は術者の精神を受け入れるところから始まるもんね。頼りたくない、なんて思ってたらそもそも魔法なんて弾いちゃう」
「そういうこと。だから、どうやって魔法を効かせるかになってくるんだけど……」
「いきなり頼れって言われて頼れるならそんな魔法が効きにくい体質なんて言わないもんね。僕にはどうすればいいかさっぱりだよ」
ルルがわからない、とかぶりを振る中、アメリアは人差し指を立てて微笑んだ。
「魔法をかけるだけが魔法じゃないってところよ」
アメリアの含みを持たせた言葉に、ルルは小首を傾げる。次いで聞かされた言葉にルルは飛び上がった。
「ええっ、アメリア、本気?!」
「本気よ。目の前でお前の魔法は効かない、なんて言われてタダで引き下がるわけないわ。元紅の魔女、現王立医局筆頭ヒーラーとして何が何でもギャフンと言わせてやるんだから」
またアメリアの口元がにんまりと上がる。よからぬことを企んでいるときは、大抵こんな邪悪な表情をするのは魔女だった頃の名残かもしれない。
「ふっふっふ。待ってなさいよ堅物王子……!」
ルルが止めなければ高笑いをするところだったアメリアは、明日からの治療に改めて気合いを入れ直す。
はたして、どうなることやら。




