52.エドモンドの謝罪
「コーネリアス様!」
そこへ、空を跳躍してきたアメリアが二人の前に降り立つ。華麗に着地を決めたアメリアは、コーネリアスにエドモンドが寄り添っている姿に驚くも、コーネリアスの腕の怪我を見て慌てて駆け寄った。
「お怪我をしています、早く手当を」
「アメリア、少しだけ待ってくれないか」
「え……?」
状況のよくわかっていないアメリアを横に、コーネリアスは一人エドモンドに話しかける。
「父上。以前の私であれば、このような事態に陥っても、自分のことばかりでいたでしょう。でも、私が父上の言うように誰かを守れるようになったのは、他でもない、このアメリアのおかげなのです」
「紅の魔女、いや、アメリアが……」
「アメリアは私に心を開くことを、他者に心を許すことを教えてくれました。そして受け入れてくれることを。だから、アメリア。この傷に魔法を」
アメリアはコーネリアスが何を言いたいか察すると、表情を和らげてそっと左腕の傷に手をかざす。
「母なる大地の恵みよ、愛しい子らを癒したまえ……」
アメリアの呪文により、治癒魔法が発動する。優しい光に包まれたコーネリアスの傷は、みるみるうちに塞がっていき、血の一滴も見せずに傷が塞がった。
「父上。ご覧ください、こうして人を、自分を許せるようになったおかげで、治癒魔法で体の傷が癒えるほどになったのです」
傷が治る様を間近で見たエドモンドは、目を丸くしていた。だがやがてゆっくりと眉を下げると、あらためてコーネリアスに向き直り、お辞儀をする。
父に頭を垂れられることは流石にコーネリアスも予想していなかったのかうろたえてしまうが、それでもエドモンドの姿勢は変わらない。
「父上、頭をお上げくださいっ……」
「コーネリアス、我が息子よ。これまでの非礼を詫びよう。本当に申し訳なかった」
「国王陛下……」
アメリアが見守る中、エドモンドはコーネリアスに深く頭を下げる。
「すまなかった。そして願わくばもう一度、お前を称えさせてほしい。お前の努力は本物だった。お前の積み重ねた研鑽は、もう目を背けられるほど小さくはないのだ。それを今、わしは気付かされた」
エドモンドは頭を上げると、今度はアメリアにもお辞儀をして礼を尽くす。
「そしてヒーラー、アメリアよ。王命に従い、よくコーネリアスを癒してくれた。お前はコーネリアスの傷だけでなく、我ら家族の絆も癒したのだ」
「滅相もありません。お役に立てたことが、私にとって一番の報償でございます」
アメリアもスカートの裾を引いてお辞儀を返し、恭しく言葉を述べた。
「それよりも陛下。約束は、お忘れではないでしょうね」
恭しかった態度を一変させて、アメリアはエドモンドに不敵に笑いかける。
コーネリアスと心ゆくまで話をしてもらう。魔物の殲滅の対価としてアメリアが要求したことだ。エドモンドはふっと息を漏らし頷いてみせる。
「抜け目ないな。さすが紅の魔女か。魔女と呼ぶに相応しい立ち振る舞いだ」
少しおどけているようにも見えるエドモンドに、アメリアはにんまりと笑ってみせる。
「わかっておる。それに、わしもちょうどコーネリアスと話がしたかったのだ。お前と二人、アレクシスも交えて三人か。家族で、これからはもっと話をしていこうと思う」
「よいお心がけかと」
「父上……ありがとうございます」
エドモンド頭を上げると、改めてコーネリアスを見やる。アメリアと寄り添うように立つコーネリアスに、エドモンドは始めて見せる柔和な表情でああ、と声を漏らした。
「礼を言う。コーネリアス、アメリア」
夕暮れの光が三人を照らす。朱の色は柔らかく、温かく肌を、髪を染め上げる。眩しいほどに懐かしい日差しが、いつまでも温かく感じられた。




