50.魔物掃討
ホールを出てすぐさまアメリアは杖をふるって魔法陣を空中に描き出す。空中飛行の魔法はかなり高度な魔法で、王国でも数えるほどの人間しか扱えない。
だがアメリアは軽々とその身を浮かせ魔法陣に着地すると、魔物の大群がいる高原の方に体を向ける。
マナを圧縮し、アメリアは杖を軽く振った。瞬間、アメリアは弾丸のように飛び出して一気に山の向こうへと姿を消してしまう。
その時のすさまじい衝撃と轟音に、庭にいたオリバー達が目を丸くして空を見上げた。
「な、なにか今飛んでいったような……!」
「お屋敷の玄関の方から大きな音も聞こえたけど……」
使用人達がざわめく中、オリバーは火の玉のように飛んでいった軌跡を見上げた。
「あれは……」
なんとなく、だが。オリバーはその正体がわかる気がした。
「側で支えてくれって言ったんだけどな……」
そんなぼやきも、聞くものはオリバー一人だ。
弾丸のように飛んでいったアメリアの眼下で、目まぐるしく景色が変わっていく。どんどん小さくなる建物や森の木々、コーネリアスといつか散策した高原を越え、さらに遠くに飛んでいく。と、高原の端に黒く蠢くものを見つける。
「見つけた……!」
アメリアは前方に魔法陣を展開し、ブレーキをかけて空中に留まった。黒く蠢くそれらは、紛れもなく魔物の群れだ。
悪魔のように恐ろしい姿に、普通の生き物をあべこべに混ぜて組み合わせたような見た目は見たものを恐れさせるには十分だろう。
マナの淀みから生まれ、生き物のマナを食らうため人や動物を見境なく襲う。魔物はこの国では自然災害のようなものだ。そして人の手で収めることのできる唯一の災害でもある。
「ざっと見たところで一万程度……リムネアの駐屯兵には確かに荷が重いわね……」
そしてアメリアは炎の杖を魔物の群れに向ける。
「それじゃあ、始めていくわよ。思いっきり、すっきりさせてよね」
杖の先端から深紅の炎が渦を巻く。神経を集中させ、アメリアはマナを取り込む。
「猛る炎よ、焼き尽くせ……フレイムバースト!」
アメリアの杖から魔法の炎が発射される。大きな石程度の大きさだったが、それが魔物の群れの真ん中に落とされた。
そこから、一気に炎が広がったかと思うと一瞬で魔物を焼き尽くしていく。ちり紙が一気に燃え尽きるような勢いで魔物たちが焼け落ちる中、アメリアめがけて魔物たちが魔力の弾を打ち出した。
淀んだマナでできたそれは、直撃すれば怪我はおろかこちらのマナだって削ぎかねない代物だ。だがアメリアはそんな攻撃に臆せずバリアのように魔法陣を描く。魔法陣はそのまま強固な防壁と化し、魔弾を次々と弾いては光を強めていく。
「反転せよ」
アメリアが短く呪文を唱え、魔弾を跳ね返していた魔法陣が一気に光を増した。吸収した攻撃を繰り返すように魔法陣から魔弾が魔物に降り注ぐ。次々と魔物が魔弾に貫かれる中、仕上げとばかりにアメリアは杖を振りかぶった。
「燃えよ、狂え、爆ぜよ――エクスプロージョン!」
アメリアが杖で指した地面にぷつ、と火の玉が生まれる。それはみるみるうちに周囲の魔物を飲み込み巨大な球体になったかと思うと、轟音と共に爆発四散した。
ほとんどの魔物が炎に巻き込まれ、逃げようとした魔物も巨大な火の粉に貫かれて燃え尽きる。
たった数発の魔法で一万もの魔物を殲滅したアメリアは、燃え尽きた魔物たちがマナに還っていく様を静かに見下ろしていた。
散り散りに逃げていく魔物がちらほら窺えるが、炎がじき燃やし尽くしてくれるだろう。
アメリアは杖を片手に大きく伸びをする。
「っぷはー! やっぱり攻撃魔法ってマナ使うわね〜! おかげで鬱憤も発散できたし、いい感じにすっきりできたわ〜」
一仕事終えた顔でアメリアが力を抜いたその時、目にも止まらぬスピードでアメリアの横を魔物が一匹飛び去っていった。
「っ?!」
アメリアが振り向いた時、魔物はもう遠く小さくなっていた。
「しまったっ……あっちはリムネアの街……!」
つい気を抜いてしまったために、最後の詰めが甘かったようだ。アメリアはくるりと空中で向きを変え、リムネアの街に戻るべく跳躍の魔法を唱えた。




