37.黒猫の正体
朝になっても帰ってこないルルに、さすがにアメリアも痺れを切らしそうだ。
「遅いなぁ……」
昨日は勢いで行ってこいなんて言ってしまったが、さすがに王様相手に探りを入れてこいなんて無理があったような気がする。となると次に来るのは心配である。もし何かあったらと思うとだんだんアメリアは気が気でなくなってくる。
朝食のあとコーネリアスの治療の準備のため医務室へ向かうアメリアに、声をかける人物がいた。
「アメリアさん」
「はい……ってアレクシス殿下?!」
「突然すみません。あなたに折り入って頼みたいことがあるんです」
アレクシスがこそこそと話しかけてきて、アメリアは飛び上がってしまう。だがそれに動じることもなく、アレクシスはこっそりと手招きをしてきた。
「どんな用件か教えてはいただけませんか?」
「大したことではないのですが、怪我をした動物を拾って」
アレクシスは病弱とコーネリアスからも聞いていたアメリアは怪我した動物を拾ったと聞いてどうしたのかと思った。だが、怪我をしているとなると人であれ動物であれヒーラーの出番である。
「わかりました。案内してくださいましたら、治療いたします」
「助かります。こちらへ」
アレクシスに案内されるままついていけば、アレクシスの寝室前まで連れてこられる。コーネリアスの寝室の隣だから、そこまで奥まった場所ではない。
「今連れてくるから、少し待ってて」
「はい」
アメリアがアレクシスを待っている間に、隣の寝室からコーネリアスが出てきた。
「アメリア。どうしたのだ、こんなところで」
「コーネリアス様。アレクシス様が怪我をした動物を拾ったから診てほしいと」
挨拶がわりのお辞儀をしてアメリアは事情を話す。するとコーネリアスも思い当たることがあると続けた。
「兄上が? 昨晩は隣から猫の鳴き声が聞こえていたのだが、もしかしてそれだろうか」
「猫の?」
それを聞いてアメリアはなんとなく正体の察しがついてしまう。
「アメリアさん、この黒猫です」
「にゃん」
アレクシスに抱えられて出てきたのは、片方の前足に包帯を巻いたルルだった。
「ん、この猫どこかで……」
コーネリアスが首を傾げる。
「やっぱり……」
アメリアはにゃおんとただの猫のふりをするルルに肩を落とし、盛大にため息をつく。
「アメリア、知っているのか?」
「この猫に心当たりが?」
意外そうにするアレクシスとコーネリアスに、アメリアは頭をかきながら空笑いをした。
「話すと長くなるんですが。立ち話もなんですし、怪我の治療も兼ねて医務室でお話しさせてください」
御用邸を行ったり来たり、医務室の応接テーブルにコーネリアスとアレクシスを通したアメリアはオリバーにお茶を用意してもらう。
運ばれてきたティーセットを受け取りお茶を二人に出した後、アメリアはアレクシスの抱き抱えている猫を見やった。
「ルル。もう猫のふりしなくていいわよ」
「にゃん? そう? じゃあ普通に話していいのかな」
「猫が喋った……?!」
驚く二人にアメリアは説明する。
「この子はルル。私の使い魔の猫です。魔法の契約で人間の言葉を話せるようになっていますが、だからといってお二人に害のある行動はとりません。ご安心を」
「ルルだよ。よろしくね、アレクシス王子、コーネリアス王子」
「よ、よろしくたのむ」
「うん、よろしく。ところで、怪我は大丈夫?」
ぎこちない挨拶をするコーネリアスの横で、アレクシスが聞いてくる。ルルがちょんと前足をアメリアの手のひらに乗せればアメリアは慣れた手つきで治癒魔法をかける。すっかり傷は治り、ルルはのせた前足を自慢げに持ち上げてみせた。
「ほら、この通り。もうちっとも痛くないよ」




