31.甘い時間
それから、一週間ほど経った頃。アメリアは治療の仕上げにかかるべく一層仕事に打ち込んでいた。
医務室でコーネリアスが腹を出す。ほとんど塞がった傷口にアメリアは手をかざすと、意識を集中させて治癒魔法を唱える。
「癒しの風よ、吹き渡れ……」
呪文と共に発動した魔法が、コーネリアスの傷口をじわじわと再生させていく。痛々しかった傷口もうっすらと跡を残す程度に癒え、外から見るとほとんど元通りに見える。
「これで、見た目は問題ありませんね。後は中を確認しますから、ベッドに横たわってください」
「ああ、わかった」
コーネリアスがベッドに横たわり、アメリアは露わになった腹部を触診する。
「……この辺りと、この辺り。うん、大丈夫そうね」
「本当か?」
「ええ、おかしな方へ癒着もしてないですし異常ないかと。痛みはどうですか?」
「特に感じない。逆にくすぐったいくらいだ」
「なら、問題ありません。順調に癒えてきてますよ」
アメリアが触診の結果を伝えれば、コーネリアスは表情を明るくして笑みを浮かべた。その笑みにアメリアも笑みを返し、うんうんと頷く。
「頑張りましたね。えらいですよ」
「っ……そ、そうか」
アメリアが褒めるとあからさまにコーネリアスは照れて腹の衣服を戻す。それから、もじもじとしながらアメリアに訴えた。
「その。してくれないか、いつもの」
それだけでまた甘えたいのだと見抜いたアメリアはしかたなさそうに眉を下げてコーネリアスの横たわるベッドに腰かけた。
「まったく甘えん坊ですね。もう頭を撫でながら魔法を唱えなくても大丈夫なんですけど」
「う……でも、褒めてほしいのだ……」
小さな子供のようなおねだりにすっかりアメリアも絆されてコーネリアスに膝枕を許す。
「ほら、いい子いい子。今日の治療も頑張りましたね。えらいえらい」
そう褒めながら頭を撫でてやると、心地よさそうにコーネリアスはアメリアの膝に頭をすり付ける。
「明日も、頑張るから……もっと」
「はいはい。本当にかわいい王子さまだこと」
「アメリアにだけだから……」
前までは治療の一環でもあったが、今は恋人としての甘やかしだ。甘さを増したやりとりにむせ返りそうになりながらもアメリアはコーネリアスがかわいく思えて仕方がない。
しかもそれが自分にだけ向けられているのだからなんだかコーネリアスを独り占めしているような気もする。
相手は一国の王子だというのに、事情を知っているオリバーたち以外に見られたら不敬罪で牢屋に放り込まれそうな危機さえアメリアは感じてしまう。
しかし子供ように甘えてくるコーネリアスがかわいいのは本当だ。好きになってますますそれは加速して、治療の合間合間にコーネリアスを甘やかすようになってしまった。
(仕事とプライベートは分けた方がいいんだけど)
とはいえ王子であったとしても男性の元に一人訪ねるのはいろいろと問題がある。ヒーラーとして赴くにも職権濫用のような気もしてアメリアには気が引ける。
だから、治療の合間にだけ、コーネリアスと恋人の時間を過ごしているのだ。
「アメリア?」
手が止まっているアメリアにコーネリアスがどうしたのか問うてくる。
「いえ、ちょっと次の治療計画を思い出してて、すみません」
とっさにアメリアが誤魔化すと、コーネリアスはそれで納得したのか頷いて頭をまたすり付けた。
「こうして甘えてるときは、もっと私のことも考えてほしい」
「うーん。私も仕事がありますからね。もちろんあなたのことも考えてますよ。だからそんなに拗ねないの」
「むうぅ……」
少し子供っぽい一面を見せるコーネリアスの頭をぽんぽんと叩いたあと、コーネリアスの耳をくすぐった。くすぐったそうにコーネリアスが声を漏らす様を見下ろしながら、アメリアは放っておけない姿に庇護欲を感じていた。
(私にだけ甘えてきて、しかも恋人でしょ……う、絶対守る……!)
そんなアメリアに安心したまま、コーネリアスはアメリアの腰に抱きついていた。




