30.約束
「お恥ずかしい限りです」
アメリアが謙遜すると、コーネリアスは構うことなく灯された炎ごとアメリアの手を取る。さすがに直に炎に触れるとは思ってもみなくてアメリアは驚いてしまった。
「こ、コーネリアス様?!」
急いで灯した炎を消すも、少しコーネリアスの肌は焼けてしまったようだ。焼けた痛みにコーネリアスが僅かに柳眉を顰める。
「大丈夫ですか?! 魔法だとしてもいきなり炎に触れるなんてバカなんですか?!」
焦り過ぎてアメリアはつい言葉遣いが乱れてしまった。だが、コーネリアスはそれでも構わないといった風にアメリアの手を握り続ける。
「バカで構わない。あなたに与えられるのなら、痛みだって愛おしい」
「いや、それはちょっと問題がありますってば」
アメリアがツッコむもコーネリアスは変わらぬ様子でアメリアを見つめ続ける。
「アメリア。私はあなたのことを知れて嬉しい。あなたの正体が紅の魔女であろうとなんであろうと、私はあなたが好きだ」
真っ直ぐに告白され、流石にアメリアも赤くなってしまう。
「それは、その。っ……ふふ」
少しうろたえたものの、おかしくなってアメリアはくすくすと笑い出してしまう。
「本当に、もう……仕方のない人ですね、コーネリアス様は」
「アメリア」
「私がいなかったら、誰がそのやけど、治すんですか?」
アメリアの言葉に、コーネリアスは表情を明るくする。そして握られた手を握り返し、優しい声音で呪文を唱えた。
「母なる大地の恵みをここに……」
ふわりと暖かな空気がコーネリアスの手を包み込み、癒しの風が焼けてしまった肌をみるみるうちに元に戻していく。
コーネリアスは心地よさそうに目を閉じ、アメリアはその手のひらを優しく包み込む。
アメリアは包み込まれた手に目を細める。
「ずっと黙っていてすみませんでした」
「いや。あなたがどうであれ私の気持ちははじめから変わらない」
コーネリアスの真摯な眼差しに、アメリアは優しく視線を投げ返す。
「お気持ち、謹んで受け取りたく思います」
そしてアメリアはふわりと微笑んでコーネリアスを見上げた。
コーネリアスの表情はみるみる明るくなり、それから包み込んでいたアメリアの手をそっと引き寄せる。
アメリアはその動作に身を委ね、すとんとコーネリアスの腕の中に収まった。
「アメリア……」
コーネリアスがアメリアを抱きしめる。アメリアも答えるようにコーネリアスの背に腕を回し、背中をぽんぽんと叩く。
「大丈夫ですよ、側にいますから」
そしてなだめるように背中を撫でさすってやる。嬉しそうにしているのだろう、抱きしめる力だけでその喜びをアメリアは感じ、年に見合わずかわいらしい姿に口元を綻ばせた。
「アメリア、本当に……っ、ありがとう」
「今度は、治療ではなく頭を撫でてあげますから。ね?」
アメリアがコーネリアスの腕の中から見上げ、いたずらっぽく笑う。どういう意味かわかったコーネリアスはほんのりと頬を赤らめて眉を下げた。
それから何かを言おうとして言い出せずもじもじとコーネリアスは抱きしめる手を動かした。
「その、実は……」
言いあぐねるコーネリアスが焦れったくて、アメリアはふう、と息を吐いて言った。
「はっきり言ってください。ほら!」
「あなたに言われたら、今とても……頭を撫でられたくなって」
先ほどの立ち振る舞いとはまるで違う子犬のような態度にアメリアは吹き出してしまう。
アメリアはコーネリアスに膝をつかせると、月の下見上げてくる瞳をそっと見つめた。
その月の光と同じ色の髪をそっと手ですくう。さらさらと指から流れた髪から、そっと手の平をコーネリアスの頭に置いた。
そのまま優しく頭を撫でれば、コーネリアスは心地よさそうに目を細めて微笑む。小さな子供のように喜ぶ姿に、アメリアもほほえましくなって愛しげにコーネリアスを見つめた。
「よしよし。これからも一緒にいますから」
「約束だぞ」
「ええ」
清かな夜に、二人のささやかな約束が、そっと結ばれる。




