25.ルルのちょっかい
一方、オリバーとルルは作戦会議を開くように庭の片隅に集まっていた。ここ二、三日アメリアが塞ぎ込んでいるのが原因だ。
「いい作戦だと思ったんだけどな……」
渋い顔のオリバーにルルがため息をついてみせる。
「そりゃ、こっちは応援のつもりというかお膳立てをしたわけだからね。うまくいかなかったら落胆も大きくなるのはわかるよ」
「他人事みたいに言うなよ〜、お前だっていい案って言ったじゃないか」
「それはそうだけど、アメリアがあんな風になるなんて僕も予想してなかったんだし。しかたないじゃない」
ルルはオリバーの前で伸びをしながら顔を前足で撫で付ける。
思わずオリバーはルルに手を出してしまうが、ルルはひょいと避けてしまって触れることはかなわなかった。
「となると、後の作戦は……」
「作戦っていうより二人の心をささえてあげることが大事なんじゃないかな。ほら、アフターケアってやつ?」
「アフターの前に始まってもいないじゃないか」
「細かいこと気にするんだなぁオリバーって。疲れると思うけどそういうの」
ルルの言葉にオリバーは不服そうに鼻を鳴らす。しかしそうお互いでいがみあっても埒が開かない。
「とりあえずすることは王子とアメリアのケアをしつつ話をつけさせることだね」
「なんかケアするって割に事の運びが強引だな……」
呆れ半分のオリバーにルルはしたり顔で「さあね」とあしらってしまう。さすがアメリアの使い魔というか自由奔放な猫というか。
「じゃ、僕は行くから」
猫らしく早速やりたいことを行動に移すあたり、強かだなとオリバーは思う。
庭からちょろちょろと走っていったルルは、慣れた調子でアメリアの部屋の窓に飛び込む。体を透かせて窓をすり抜けると、ベッドで休んでいるアメリアの元にちょろりと近寄った。
「ルル? 何よ、もう」
ベッドで丸まっているアメリアにルルはやれやれといった風に鳴いてみせた。
「やけになってるなぁ。十年前以来だよ」
十年前のことを思い返しながらルルはうんうんと頷く。ルルの余裕がある態度にアメリアは毒付くように言った。
「十年前のことなんて忘れたわよ」
「忘れてないから今王子のことで悩んでるんでしょ」
「……生意気」
アメリアは紅の魔女であった頃の記憶を思い返す。忘れたとルルには言ったが、実際のところずっと心の隅に引っかかっているのも事実だ。
「あのときはめんどくさい、なんて言っちゃったけど」
本当はそんなことを言うつもりはなかった。もっと別の言葉を言うべきだった。苦い記憶だ。
――そうやって褒めそやされてご機嫌だろうな、魔女さんよ。俺たちの苦労なんて知らないくせに。
昔投げかけられた言葉がちくりとアメリアの言葉に刺さる。
「別に好きでそうなったわけじゃないわよ」
「王子のこと、どう思ってるの?」
過去に毒づくアメリアにルルが尋ねる。アメリアはベッドに大の字になって答えた。
「……普通に好きになっちゃってた。あんたはそれだけ聞きたくて来たの?」
「聞きたいっていうか確認。どうせアメリアはわかってるだろうし。王子には自分のこと話さなくていいの?」
「話したらどうなるかくらいあんたもわかるでしょ。またボコボコに叩かれて終わりよ」
「やっぱ引きずってるじゃん、十年前のこと」
「うるさいなぁ。私はめんどくさいからもう忘れたいんだってば」
「まためんどくさいって言ってる。ややこしいことにはすぐそう言うんだから」
ルルが諌めると、アメリアは不満げな顔つきでルルを睨んだ。
「人が悩んでるのにグチグチ言わないでよ、めんどくさい使い魔ね」
「だって気持ちがすっきりしないと僕だって供給される魔力の質が落ちて嫌なんだから。もうとっとと王子に全部打ち明けちゃえばいいじゃん、なんとかなるかもしれないよ?」
さすがにそこまで言われるとアメリアも怒ってしまう。がば、と起き上がると手のひらに魔力の弾を作り出しルル目がけて投げつける。
「人が悩んでるのに! もう! なんなのよ!」
しかしルルは軽い動作でひょいひょいと弾を避けてしまい、勢い余って魔力の弾は大きな音を立てて部屋の壁に穴を開けてしまった。
「あっ」
しまったと焦るアメリアの側で、ルルも少し驚いてしまう。
「ぼ、僕しーらないっ」
そしてことの大きさに気づくと一目散に窓をすり抜けて出ていってしまう。残されたアメリアはドタドタと迫ってくる足音に冷や汗ばかりを流していた。




