22.小川のほとり
二人で草原を元に戻した後、また高原を歩いて行くと小川が流れている場所に辿りつく。ちょうどいい、と二人して土で汚れた手を清め、休憩がてら小川のほとりに腰かける。
「こうして歩いていると、散策というよりかは……あはは」
アメリアは照れくさそうに笑うが、コーネリアスは真面目にその先を聞きたかったようだ。笑って誤魔化すアメリアに少しむくれたような態度を取る。
「最後まで言ってくれぬのか」
「あのですねぇコーネリアス様……」
少し呆れたようにアメリアは言うと、そのままコーネリアスの頭を抱えて自分の膝に乗せる。自分より大きな体だというのに、コーネリアスはそれを待ちわびたかのように素直にごろりと転がった。
「これでいいでしょう?」
「む……だったら頭も撫でてほしい」
「わがままだこと」
棘のあるような言葉だがアメリアの声音は柔らかい。肩を落としてアメリアはコーネリアスの頭を撫でる。他にも腕に抱きつかれたり延々と手遊びのように手をこね回されたこともあるが、コーネリアスはこの形で甘えるのが一番好きなようだ。
アメリアもそんな子供っぽくなるコーネリアスの姿をかわいらしいと思っていたし、今までの見てもらえなかった寂しさからそうしてくるのだろうと思っていた。
「オリバー様に見られてると思いますけど」
「構わぬ。オリバーはもう感づいているだろうし、今さら隠し立てすることでもなくなってきているだろう」
「なんというかふてぶてしくなりましたね……ほら、よしよし」
「う……」
全くなんとかわいいことか。年はそれほど離れていないのに、年の離れた弟が懐いてきているような感覚である。
魔法治療の時と違い今回は純粋にコーネリアスを甘やかしているのだ。魔法をかけない分甘やかしている事実に意識が持って行かれ、アメリアは照れくさくなってしまう。
思わず眉間を抑えて頭を振るが、コーネリアスのせがむような視線には抗えない。
「はいはい。甘えん坊な王子さまですね」
「アメリアにだけだ……別にいいだろう」
憎まれ口を叩いても体は甘やかす心地よさに流されている。子供のように丸くなって頭を撫でられているコーネリアスに母性を刺激されて止まないアメリアであった。
「う……か、かわいい」
白い髪を手ぐしで梳きながらアメリアは呻く。そもそもが世話焼きな性分だから、お願いされると断れない。そして、頼られると簡単に屈してしまう。
普段はキリッとして人を寄せ付けない厳しさがあるコーネリアスだというのに、アメリアの前でだけは年の離れた弟のように構ってほしがる。
(真面目にダメにされそうだわ……)
アメリアがコーネリアスをかわいがりながら思っていれば、ふとコーネリアスは視線を小川に向けて話し出す。
「こんな風に息抜きがいつもできたなら、よかったのだが」
「治療が終わればこうして膝枕する必要もなくなりますしね」
「うむ。それなのだが……アメリア」
「はい」
アメリアが答えると、コーネリアスは膝枕から離れ起き上がる。
「話があるのだ……聞いてくれるか?」
なんとなく想像が付いたアメリアだが、何も感づいていないように振る舞う。
「ええ、何かお伝えになりたいことがあれば、聞きますよ」
コーネリアスは起き上がったまま少し視線を彷徨わせた後、静かに目を伏せた。
「これからのことを話したいのだ。その……」
中々歯切れの悪いコーネリアスの言葉を、辛抱強くアメリアは待った。諫めて言葉を急かすより、何を言いたいかコーネリアス自身が選ぶことが大事だと思ったからだ。
「アメリア。私は……」
口ごもりかけて、しかしはっきりとコーネリアスは言った。
「あなたのことを好いているのだ」




