19.アメリアの気持ち
一方、アメリアは自室に戻って一息ついていた。オリバーと外出の段取りを考える時間も取らないといけないし、まだまだ忙しさは続きそうだ。
「外出かぁ。オリバーさんからはお忍びだから護衛は最小限って聞いてるけど、コーネリアス様の気分転換にもなるし自然にふれあって心が落ち着くこともあるから、悪いことではないわね」
一人呟きながらライティングテーブルに着き、アメリアはふと思い出す。
「そういえば着いてから手紙、書いてなかった……」
コーネリアスの治療に専念していたせいで、ナターシャ局長に連絡することをアメリアはすっかり忘れていた。
コーネリアスの容態も回復していることだし、近況報告がてら手紙を送るのもいいかもしれない。アメリアは手近な引き出しから便箋を取り出すと、早速手紙を書き出した。
書くのはもちろん治療が順調だということだ。治癒魔法が効くようになったということや、対話する内に打ち解けてきたこと、リムネアの居心地の良さ、などなど。
コーネリアスとの関係を絶妙な加減でぼかしながら軽い報告書形式でアメリアは手紙を書き上げた。さすがに王子を膝枕で甘やかしながら魔法をかけています、とは素直に書けない。
早速宛名を書いた封筒に入れて封をする。これを王立医局まで届けてもらえればいいだろう。
オリバーに外出の段取りを聞くついでに手紙を出してもらうよう頼もう。手紙を書き終えたアメリアの元に、タイミングよくルルが現れた。
「あれ、オリバーと外出の段取り考えなくていいの?」
ちょろちょろと姿を表したルルはライティングテーブルに飛び乗りながらこてんと首を傾げる。
「ルル。その前にちょっと用事を思い出したから、そっちを片付けてたわよ」
「用事、ってその手紙? 局長に近況報告とか?」
ルルの指した手紙にアメリアは頷き、伸びをする。
「まあそんなところ。筆頭ヒーラー様にかかれば魔法が効かない王子だってこの通りよ」
得意げに鼻を鳴らすアメリアにルルはにまにましながら言った。
「コーネリアス王子と仲良くやってるもんね」
「あんまりからかわないの。一応仕事としてもやってるんだから」
「甘えられるのまんざらでもないくせに」
尻尾をパタパタさせながら宣うルルに、アメリアは言葉を詰まらせる。
「ぐっ」
確かに、膝枕で甘やかしながら魔法をかけるのは少しやり過ぎな気もする。だがアメリアが望んでそうしているというより、コーネリアスからアメリアに甘えてきている状態だ。それになんだかんだ甘えられるのは悪い気がしない。
「そりゃあ、確かに膝枕はしてあげてるけど……頭だって撫でてあげてるし、甘やかしてないと言えば嘘になるけど……」
「実際甘えられてどう?」
「めちゃくちゃ母性をくすぐられる」
観念して白状したアメリアに、ルルはふう、とため息をついた。
「最近はそればっかりでもない気、僕にはするけどね」
「どういうことよ」
アメリアが問い詰めるとルルはやれやれといった風にかぶりを振って背をしならせる。わかっているくせに、とでも言いたげだ。
「アメリアってば肝心な所で鈍いよね。そういうことはそういうことだよ」
ルルはしたり顔で答えるとライティングテーブルから降りて窓に駆け寄る。そのまま軽やかに跳ねて窓ガラスに飛び込むと、それと同時に姿を透過させて外に飛び出していってしまった。
残されたアメリアはルルの去った窓辺を見ながら口を引き結ぶ。
「……気付いてないわけ、ないじゃない」




