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エピソード7 —少女—

【前回までのあらすじ】

仕事帰りの電車でレイヴァンは突然刺され、意識を失った。目を覚ました時、そこは見たこともない異世界――。現代から異世界へ転生したことを理解した。


___________________________________________


 レイヴァンは混乱しながら周囲を見回す。異世界ファンタジーを描いた漫画の中に飛び込んだような光景だ。

 

 信じがたいが、現実として受け入れるしかない。 


 「……どうするか」


 まずは情報を集めなければ。そう考え、歩き出そうとしたその時。


 「……っ!!」


 カツン、と硬い靴音が止まる。

誰かが、息をのむ音が聞こえた。


 「――レイヴァン……?」


 静かな、けれど震えるような声。


 レイヴァンが振り向くよりも早く、一筋の涙が光の中を舞った。


 そこにいたのは、一人の少女。

 淡い色の髪が陽光を受け、柔らかく揺れている。


 大きく見開かれた瞳が、まるで奇跡を目にしたかのように揺れていた。


 (……誰だ?)


 レイヴァンの記憶には、この少女はいない。

だが――なぜか、心の奥がざわめいた。


 少女は、そっと手を伸ばしてくる。

けれど、その指先が触れるよりも先に、レイヴァンは反射的に一歩後ずさった。


 「……どなたですか?」


 少女の表情が、凍りついた。

まるで、心臓を貫かれたような顔。


 「……え?」


 震える声が零れ落ちる。


 レイヴァンは、戸惑いながらも続けた。


 「すまないが……俺は君を知らない」


 その言葉が、決定的な刃となった。


 少女の顔から、さっと血の気が引く。

だが、すぐに深く息を吸い、震えを押し殺して微笑んだ。


 「……そう、よね」

 穏やかな声。でも、その裏には、張り詰めた何かがあった。


 「ごめんなさい。あなたにそっくりな人を……知っていたの」


 レイヴァンの胸に、小さな違和感が生まれる。そっくりな人――それは自分なのか、それとも本当に別人なのか。


 確かめようとした時、少女は一歩下がり、静かに頭を下げた。


 「驚かせてしまって、ごめんなさい。もう行くわね」

 かかとを返し、ゆっくりと去っていく。


 レイヴァンは、理由もなくその後ろ姿を見送った。


 名前も知らない。けれど――


 少女が離れていくのを、なぜか寂しく感じた。


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