エピソード4 —朝—
暗闇の中に、ざわめきが聞こえる。
何かが崩れる音、叫び声、そして......
――眩い光。
強烈な輝きが視界を奪い、全てを白く染め上げていく。
誰かが名前を呼んでいる。だが、その声は遠く、すぐにかき消される。
レイヴァンは必死にその声を追いかけようとした。だが足が動かない。まるで見えない鎖で縛られているかのように、どれだけもがいても、声は遠ざかっていく。
目の前が真っ白に染まる。意識が引きずり込まれるように沈み――。
――はっと目を開けた。
息が荒い。額には冷や汗が滲んでいた。
ぼんやりとした視界の中で、知らない天井が目に入る。静かな部屋。暖かな空気。窓の隙間から、朝の光が差し込んでいた。
――ここは……。
意識が覚醒するにつれ、少しずつ状況を思い出してくる。蓮花に助けられ、この部屋で眠ったのだ。
少し息を整えながら、ゆっくりと体を起こす。すると、部屋の入り口から視線を感じた。
「……悪い、起こしたか?」
声をかけると、蓮花は少し驚いたように目を瞬かせた。
「……別に。そろそろ起きる頃かなって思っただけ」
彼女は壁にもたれかかりながら、あくびをしていた
「ずいぶんうなされてたけど……大丈夫?」
蓮花の声には、昨夜とは違う柔らかさがあった。
「……よくわからない。何か夢を見ていた気がするけど、内容は覚えてない」
自分で言いながら、胸の奥がざわつく。
今のは、本当にただの夢だったのか。
あの光景。あの感覚。何か、大切なものがそこにあったような気がする――。
だが、どれだけ考えても、思い出せそうにない。
「まあ、無理に思い出さなくてもいいんじゃない?」
蓮花はそう言うと
「それより、朝ごはん食べる?」
「……いいのか?」
「助けてくれたお礼ってことで。パンと卵くらいしかないけど、それでよければ」
レイヴァンは静かに頷いた。
「……もらう」
「オッケー、じゃあ準備するから もう少しゆっくりしてて」
そう言って蓮花がキッチンへ向かうのを見送りながら、レイヴァンはもう一度、天井を見上げた。
夢の中で聞こえた、あの遠い声。
――俺は、一体……。
胸の奥に残る、得体の知れない違和感を抱えながら、レイヴァンは気付けばもう一度、静かに目を閉じていた。