エピソード2 —赤く染めて—
「……ありがとう、服」
レイヴァンは肩に羽織ったコートの裾を
ぎゅっと握りながら、目の前の女に向かって礼を言った。
「こんな真冬に裸でいたら死ぬわよ。放置して、それで死なれたら、私が見殺しにしたみたいで嫌なだけ」
女は腕を組みながら
呆れたようにため息をつく。
「ごめん、助かった」
状況が分からないまま無我夢中で動いて、気づけばこのざまだ。殴られ、蹴られ、全身が痛む。
でも、それ以上に、自分と同じ歳くらいだろうか?そんな女性に裸を見られ、思い返すだけで今でも赤面してしまいそうだ。
女はこちらをじっと見つめたあと、少し視線をそらして小さくため息をつく。
「……まぁ、幸い私の家がすぐそこだから、温かい飲み物でも出すわ」
「いいのか?」
思わず問い返すと、女はすぐに睨み返してきた。
「変な気起こさないでよ!」
「こんな格好で言うのもなんだけど、いい加減、変態扱いやめてくれない?」
「無理!」
夜空に響き渡る女の声。男ははなんとも言えない気持ちになりながら、女のあとをついて歩き出した。
ふたりの足音が、静まり返った夜道に響く。
冷たい空気が肌を刺し、吐く息が白く曇る。頭上には、鈍く輝く街灯と、夜空にぽつぽつと浮かぶ星々。道の先に並ぶアパートや家々は、ほとんどの窓が明かりを落とし、静寂の中に沈んでいた。
女はやや早足で歩きながら、ちらりとレイヴァンを横目で見る。
「そういえば、名前聞いてないけど……名乗る気は?」
「……レイヴァン」
「へぇ。変わった名前ね」
「君は?」
「私は蓮花、天瀬 蓮花」
レイヴァンは小さく頷き、もう一度蓮花の横顔を盗み見た。
蓮花の堂々とした態度や物怖じしない話し方は、どこか大人びていた。寒さに頬を赤く染めながらも、真っ直ぐ前を向いて歩く姿は、不思議と頼もしさを感じさせる。
ついさっきまで警戒していたはずなのに、今はさほど距離を取ることもなく並んで歩いている。
……変な人だ。
しばらく歩いた後、蓮花がふと足を止めた。
「ここ」
指さしたのは、落ち着いた雰囲気の二階建てのアパートだった。外壁は少し古びてはいるが手入れが行き届いており、共用の階段や廊下も比較的綺麗に保たれている。玄関前には自転車が数台停められ、住人たちの生活が垣間見えた。
レイヴァンが無言で建物を見上げていると、蓮花がスタスタと階段を上り始める。
「ほら、さっさと来なさい。風邪引くわよ」
レイヴァンは小走りで、彼女の後を追って階段を上った。