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プロローグ —カラの空—
気がつくと、俺はそこにいた。
ここが、どこなのかも分からない。
どうしてここにいるのかも。
いや、それ以前に。
「……俺は、誰だ?」
思考を巡らせようとするたび
霧の中をさまよっているような感覚に陥る。過去の記憶が、まるで霧散
してしまったかのように何も思い出せない。
親の顔は? 友達は?
何をしていた? 何が好きで、何を嫌いだった?
……分からない。
覚えているのは自分の名前だけだった
最初は、記憶喪失かと思った。けれど
それなら普通は何かしらの「自分の痕跡」が残っているはずだ。
なのに、俺の手元には何もない。
財布も、スマホも、身分証の類も
自分が何者なのかを示すものが、一切。
存在を証明するものは、どこにもなかった。
これが普通の記憶喪失の類ではないことは、すぐに察した。ならば、俺は何者なのか? どこから来たのか?
いや、そもそも。
「……俺は、本当に“この世界”の人間なのか?」
空を見上げる。
暗く静かな夜空に、冷たい風が吹いていた。
星が見えない今夜はまるで
空っぽな空だった