プロローグ:桃源の理
遥か西の崑崙山脈。その奥深く、雲海に抱かれた谷間に、一つの村があった。
蕾村——千年の時を超えて精霊と人が共に生きる地。
朝焼けの光が霧を透かし、古い石畳を黄金色に染める頃、仙桃樹の葉が微かに揺れる。
この村では、十五の年に「契霊の儀」を迎え、己の精霊と契約を結ぶ。
それは、強さの証であり、誇りであり、生きるための運命。
岩の精霊は揺るぎなき力を、炎の精霊は灼熱の刃を。
誰もが己の強さを求め、村の掟に従い、より強靭な精霊を望んだ。
「強き精霊を得ることこそ、この村の理」
烈月もまた、その理を疑うことなく受け入れていた。
生まれながらにして快活で、武術の才にも秀でた少年。
村人たちはそんな彼の未来を期待し、烈月自身もまた、契霊の儀の日を待ち望んでいた。
しかし——
その契約は、誰もが予想しなかったものだった。
戦う力を持たない精霊、桃の花の化身。
村の者たちは嘲笑し、彼に憧れていた幼馴染や友人達は失望し、烈月自身もまた戸惑う。
それでも少しずつ、彼は知ることになる。
「強さ」とは何か。「精霊」とは何か。
その答えを探す旅が、彼の運命を、そして世界の価値観を揺るがしていく。
これは、運命に抗う少年と、戦わぬ精霊の物語。
『桃花仙縁――異端の精霊と心を繋ぐ旅』、ここに始まる。
これからどんな出会いや旅が待っているのか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。