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第二回

大阪城

十数年前まではこの地に本願寺顕如ほんがんじけんにょを頂点とした石山寺の広大な伽藍がらんがあった。

宗教の持つ力は戦国の世の中でも強大な勢力となり、またこの国全体に広がり戦国大名を悩ませた。

しかしそれも顕如が倒れると朝廷が仲介となり石山を放棄。

信長は数年前に広壮な大阪城を築城した。

大会堂はその外堀に突き出たようにあり、現在はこの国の政治の中心となっている。




朝日が昇り始める頃、大阪を一望できる峠に信長は馬を止めた。


「輝信」

「これに」

「手配はすでに出来ておるのだろうな?」

「抜かりなく。あとは殿のお指図待つだけでございます」

「相変わらず手際が良い」


信長の言葉に輝信は無言でうなずいた。


「長政!」

「ははっ」

「先に戻って大会堂にて待て」

「衆議はいかがいたしましょう」

「どうせ小田原評定であろう?」


皮肉な言葉に長政は苦笑する。

と、輝信の許に足軽らしき若者が駆け寄った。

彼は若者から耳打ちされると信長に向き直る。


「明智光秀様がこの先でお待ちしているとのことです」

「呼べ」


輝信は若者を走らせる。程なく数騎がやってきた。


「信長様!ご尊顔を拝し奉り…」

「挨拶不要。相変わらず堅い」

「これは申し訳…」


ふっと見上げた信長は笑っていた。


「キンカ頭、健在じゃの。即時御所へ参り、今上陛下へ拝謁せよ」

「ははっ」

「今現在は火急のとき。ご譲位の仰せ出でらるるはいたずらに事態の混乱を招きかねぬ故、今しばらくご忍耐下され…と釘を刺してまいれ」

「ご譲位を?やはりそうなりまするな?」


天変地異など世に災厄がおこることは、天皇自らの不徳に天が罰を加えたと考え譲位を言い出す事態になる。


「優先すべきことが多い。畏れ多いが今しばらくご堪忍くださるようにな」

「ははっ」


すぐさま京の都への道へ駆け下っていった光秀と入れ替わるように新たな一軍が姿を見せた。


「真田か?輝信が呼んだか?」

「御意。此度は真田一党に手伝っていただこうと思います」

「であるか」


真紅の軍装で統一された真田軍。

先頭にいた白皙はくせきの貴公子が信長の馬前に片ひざついた。


信幸のぶゆきか?」

「はっ」

「立派になったものじゃ。委細は輝信と打ち合わせをせよ」


信幸の背後にいまひとり。


幸村ゆきむらか?」

「はい」

「ふふん。才気煥発さいきかんぱつな利かん気な面魂つらだましいじゃ」

「ありがたき幸せ」

「あまり才に溺れるな」


信長の声音に幸村はしびれたように固くなった。


「よい。兄を助けよ」


声もなく幸村は兄信幸の後についていった。




昼間近に信長一行は大阪に入った。

ここまでの道程でも輝信のもとに頻繁に伝令の者がやってきては去ってゆく。

大阪城が至近に入ったとき西から大集団がやってきた。


「禿ネズミのようだな」

「そのようです」

「相変わらず気が利くが…派手好きな奴だ」

「まったく」


荷駄を中心とした集団の先頭には、小柄なからだに不釣合いな金糸銀糸に飾られた陣羽織を着た男が馬上にあった。

彼は信長を認めると馬から飛び降りて駈寄ってきた。


「殿ぉ~~~!!」

「大儀」

「とりあえず城の備蓄米、干物、味噌など総ざらいにして持参いたしました」

「うむ。第一陣ははげネズミじゃと思っておった。真田が差配して差し送る故、引き継ぐがよかろう」

「かしこまりました!」

「その後は大阪在陣の諸卿とすぐにでも動ける軍団を作っておけ」

「戦でもされるので?」


秀吉の問いに信長はにやりと口元をゆがめた。


「ならぬようにする」

「となれば、相当の数がいりますな」

「堺衆とつなぎを取れ。茶屋が大阪におるはずじゃ。氏郷には在国中の領地官どもを急ぎ召集させた。それらと合流して命を待て」

「かしこまり!」


秀吉は身軽に駆け出して行った。


「時がすべてじゃ。俺は大会堂の方を見てからその後の指図する。輝信ついて参れ!」


大阪城の大手門に信長と輝信は騎馬を進めた。






【続】



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