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第26話 戦い終わって

「……な、何事?」


 頭の中が真っ白になって気の利いたことのひとつも思いつかない。

 抱き起こすとか、面を上げよと命じるとか、やれそうなことは色々あったのに。


「私を含めクラスメイト一同を救っていただきありがとうございます」


「う、うん……無事で良かった」


 ……あっ、無視するの忘れた。


「やはりハイエルフに転生していたのですね!」


「え? あ、ああ、うん、そう……」


 ……あっ、馬鹿正直に話してしまった。


「おめでとうございます!」


「あっ、ありがとう……」


 ……いやいやいや、ちょっとまてぼく! 何を素直に……ん?

 ビーちゃんは剣の柄を前にしてぼくに差し出した。


 これで何をしろと? 


 何となく「受け取れ」的な意図を察したので、とりあえず剣を手に取る

 市販品の安物ではないようだけれど、高級品というほどのものでもない。


 なぜ、わかるか?


 いつか剣士にジョブチェンジしたときのために、一時期、武器カタログをなめ回すように見たことがあるからだ。おかげで多少の目利きはできるようになった。


 まあくれるというなら貰うけど、剣関連のスキルが一切無いので、正直、何の技量も必要なく、ただ振るうだけで魔物を肉塊に変えられる鈍器系の方が好みなのだが。


「これで私を処断してください」


「――はぃ?」


 寝耳に水どころか寝耳にジェット水流でちょっとすぐには理解できなかった。


「ハイエルフに転生した今となっては悪評流布はもはや無用と判断し、本来の業務に立ち返り、おはようからお休みまでお側にお仕えさえていただきたいところですが、御前に命じられていたとはいえ、悪口の数々は許されるものではありません」


「は、はあ……え? 御前?」


 セシルちゃん妖精を見る。

 明後日の方を向いて、ふー、ふー、と吹けない口笛を必死に吹いていた。


「お側には置いておけぬというのならもはや存在意義すらありません。かくなる上は来世でまた見えることを期待し、今世はさよならしたいと思います。是非、ご決断を」


 ご決断を! とずずいと寄られても、……マジ困る。


「どういうことさ?」


 判断できるはずもないので諸悪の根源に聞いてみた。


「なっ、なんくるないなんくるない!」


「いやいや、なんくるあるよ。ぼくに隠れてビーちゃんと何かやってたの?」


「なに、有象無象がお主に手出しせぬように美國に流言を頼んだだけぢゃ。おかげで2年生になってからは、あまり虐められんくなったぢゃろ?」


 自分の手柄みたいに、どやっ! って顔するけど……言われてみれば、確かに。


 1年生のときは肉壁やら囮やら酷い扱いを受けた。


 けど、2年生になってからは最初の方に何件かあったくらい。


 なるほど、全部セシルちゃんの入れ知恵か。


 おかげで誰もパーティを組んでくれることがなくなったり、男女問わず汚物を見るような目を向けられるようになったわけだが……虐められるよりはマシ、かな?


 微妙に判断に困るが、ビーちゃんの本意でないなら、選択肢はひとつしかない。


「ん」


 柄を向けてビーちゃんに剣を差し出す。

 ……気の利いたひと言を、と頭ではわかっているのだ。

 だが、素直に許すにも勇気がいる。

 ましてコミュ障のぼくに何を言えと?


「……わかりました。――自刃します!」


「ち、違う、っての!」


 何の迷いもなく白い首に刃物を当てようとしたので慌てて分捕った。


「ビーちゃんは悪くない、だろ?」


「では、お許しいただけるのですか?」


「許す」


「おお! 流石は春空様! では、これからはおはようからおやすみまで誠心誠意、お仕えさせていただきます!」


「いや、お仕えする、ってそもそも、なんで?」


「御前の一族にお仕えするのは、我が珠城家の本願だからです。……まあ私の場合は建前ですが」


「建前?」


「いえ、こっちの話です」


「あ、そう……セシルちゃん、ビーちゃんちに何かやったの?」


「はて、何かやったかの?」


 心底わからんばかりに首を傾げるセシルちゃん妖精。……マジか。


「春空様、私は春空様の下僕なのですから『ビーちゃん』などではなく、『ワレ』とか『オイ』とか『おめぇ』とか粗雑に呼び捨ててくださって結構ですよ?」


「いや、それはちょっと……」


「なら、せめて『美國』とお呼びください。『ビーちゃん』では馴れ馴れしすぎて、私の方が当主に叱られてしまいます」


「むぅ、それならそうする……」


 前のように『ビーちゃん』と呼びたかったが、ビー……いや、美國が叱られてしまうのではしょうがない。


「ぼくのことは『春空』でいいよ。『様』をつけられるのは好きじゃないから」


「ご命令とあらば」


「で、ビー……國に心当たりは?」


「すでに失伝して久しいので当主さえも存じ上げません」


 マジか。理由も解らずに「お仕え」しているのか。

 おそるべき忠誠心……いや、ただの因習か?


「本当に、なんでお前らはわしに仕えておるんぢゃ?」


「さあ、それが古から続く珠城の存在意義としか言いようがありません」


 と、そのとき。遠くから喧噪が近づいてくる気配がした。

 おそらく陽キャが救援を連れて戻ってきたのだろう。


「さて、誰かに見つかる前にぼくらは退散するよ」


「わかりました。後処理はお任せください、春空……の功績は私がばっちり伝えておきます。春空伝説の始まりですね! 手始めに陽キャ共をぎゃふんしましょう!」


 美國は立ち上がると、膝小僧の砂埃を払いながら……え? 今なんてった?


「春空伝説!?」


「無能オークの汚名を返上して、やれやれ俺TUEEEEE! するのでは?」


「やらないよ!?」


「そうなんですか?」 


「ぼくの風聞は無能オークのままでいい。目立ってもろくなことがないからね」


「では、魔王退治の功績はどうしましょうか? 魔王は転んで死んだことにでもしておきましょうか?」


「流石に無理があるから美國が倒したことにすれば? 説得力はあるでしょ?」


「ええ、まあ……これでも冒険実習の成績は学年上位ですから。『ギリギリ倒せた』と嘯いても、それなりの説得力はあると思います」


 流石、優等生だ。劣等生のぼくとは違い、先生方の覚えもめでたくあらせられる。

 まあ期待されるのが嫌なぼくから見えれば「ご苦労さん」って感じだけど。


「じゃあそういうことで」


「――春空」


 ぱんぴ~とにぶるを小脇に抱え、走り去ろうとしたところで声を掛けられた。


「ん?」


「今後ともよろしくお願いします」


 騎士流の厳ついやつではなく、至極丁寧な仕草でお辞儀をされた。

 エプロンドレスに身を包んだ、メイドさんの面影が、何ともなしに重なって見える。

 ……意味不明だ。


「ああ、……うん、こちらこそ」


 社交辞令的に言葉を交わし、ぼくはその場を後にする。


(……なんでメイドさん?)


 その答えはすぐに知ることとなった。


 魔王討伐の帰りにお使いを頼まれ、スーパーの特売の卵を買って帰ると、玄関で三つ指をついたメイドさんに迎えられた。美國だった。それで、合点がいった。


「ああ、おはようからおやすみまでお仕えするって……そういう意味か」


「改めて、よろしくお願いしますね♪」


 どう反応知ればいいのかもわからず、ぼくはただ愛想笑いを浮かべるしかなかった。




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