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第24話 愛故に ★美國視点

 私、珠城美國(たましろびくに)春空(はるく)が好きだった。愛している、と言っても過言ではない。


 だから、珠城家のお役目とはいえ、春空に仕えるのは至上の喜びだった。


 いつでも、いつまでも一緒にいたかったし、なんでもしてあげたかった。


 総理大臣を暗殺してこい、なんて無茶ぶりを言われても喜んで実行したことだろう。


 セシル様に絶対的な忠誠を誓う珠城家のお役目を抜きにしても、これは役得だった。


 ところが大きな転機が訪れた。中学校に入学したときのことだ。


 小学校はいつも一緒で、中学校でもそうなるとばかり思っていた。


「よいか、美國よ、春空様のお情けを受け、春空様のお子を身ごもるのだ」


 ある日突然、父親にそう厳命されるまでは。

 正直、言われた当初は「キモっ!」と思った。

 思春期の娘に何言ってんだ、と父親を軽蔑さえもした。

 同時に、春空とそんな関係になる自分に憧れもした。

 子供はまだしも、愛し合うのはやぶさかではなかったから。


「それは、春空様と夫婦になれと言うことですか?」


 子供を作るとはつまりはそういうことだ。

 愚問と解りつつ問いかけると、返ってきたのは、父親の全力のビンタだった。


「馬鹿者っ! セシル様の血族に、我ら珠城の血が混じるなどあってはならぬことだ!」


 ……ああ、私は失念していたのだ。

 セシル様を絶対君主として崇める珠城のお家事情というやつを。


 二つの世界が融合する以前から珠城家――当時は別の家名を名乗っていたが――はセシル様に仕えていた。


 ハイエルフでも、その祖である「ネフェリム」でもない、セシル個人にだ。


 セシル様に対する忠誠は絶対だった。

 セシル様の役に立たねば親兄弟であろうと容赦なく切り捨てられた。

 セシル様の足を引っ張ったものは一族の誰かが、もしくはそのものが、命を以て償った。

 セシル様の役に立つためなら、一族はあらゆる手段で自らを強化した。


 乱世ならば禁忌を平然と犯し、倫理も人権も完全無視の人体改造に明け暮れ、平時ならば個人の感情や尊厳など完全に無視をして、有能な血族との間に子をなした。


 おかげで、私には、ほぼすべての種族の血が流れているほどだ。

 春空との間に子をなすというのも実のところ、この一環なのだろう。

 ハイエルフの血を一族に加えることで、セシルに役立つ人材を量産しようというのだ。

 さらにいえば、春空には姉と妹がいて、私にも姉と妹がいるが、これは偶然ではない。

 セリア様――春空の母親――の妊娠を知ると、父親が愛妾に産ませたのだ。


 セシル様のため、セシル様の一族ひとりひとりに仕えさせるために。


 唯一の男児である春空に、私が当てられたのも偶然でも何でもない。

 私となら遺伝的に優秀な子供が生まれると、すべては計算の上でのことだ。


 今にして思えば、父親の言いつけを守り、図太く生きればよかった。

 春空との間に子供ができれば、動機はどうあれ、幸せに違いなかったのだから。


 だが、私はどうしようもなく乙女だった。


 中学校に上がると、春空とどう接すれば良いのかわからなくなった。


 春空の顔を見るたびに父親の言葉が思い出され、いつもどおりのはずが、彼に触れられず、目も合わせられない。


 話しかけられてもしどろもどろで、逃げるように立ち去ってしまう。


 結果、中学校の3年間は春空との関係は進展することはなかった。逆に、後退した。

 高校生となってもそれは変わりなかった。


 冒険実習でその恵まれた体躯から一躍、時の人となった春空の盛衰を一喜一憂して見守りながら、なんとか前のような関係に戻れないかと影ながら機会を伺う日々が続いた。


 その機会は高校2年生のときに訪れた。同じクラスになったのだ。

 これを運命と思った。

 底辺まで落っこちた春空を救えるのは自分しかいないと思ったほどだ。

 ここからの私は、我ながら行動は早かった。


 まず、おそらく魔法職で後衛を担うであろう春空のために、前衛職の「見習い騎士」にジョブチェンジして、そのためのスキルも、装備も、つつがなく揃えた。


 あとは、春空をパーティに誘うだけ。

 周りは「成績優秀なあの子が、どうしてあんな無能オークを?」と怪訝に思うだろう。

 が、知ったことではない。もう覚悟は決まっている。


 そして、春空をパーティを誘おうという当日――。


 学校の誰よりも先に登校して、持て余した時間で春空の机をピカピカに掃除した。

 ただ何となくそうしたかった、ただそれだけの行動だった。


「あれ? 美國、何しているの?」


 鼻唄を歌いながら念入りに春空の机を水拭きしていたときだった。

 他愛のないそんな声が私の心臓の毛をむしり取った。

 振り返れば馴染みの生徒が不思議そうにこちらを見ている。

 頭の中は一瞬で真っ白になった。


「それ……無能オークの机だよね? どうして掃除しているの?」


 なんて愚問、と思った。


 答えは簡単だ。


 春空を愛しているから、だから、愛しい人の机を掃除している。何も不自然なことはない。これから一緒のパーティになるのだし、これくらいは当然のことだ。


「じょ、浄化しているのよ」


 気づけば、とんでもないことを口走っていた。


「実は、あの無能オークはオーク・ロードの転生体で――」


 その日はもう春空をパーティに誘うどころではなくなってしまった。

 口から出任せが恐ろしい速度で浸透し、学校中に知れ渡ってしまったのだ。


 誰か疑えよ、そんで立証とかしろよ、と頭を抱えたが、名門である珠城家のご令嬢で成績優秀な私の言葉を疑うものは誰もいなかった。


 春空のいない時間を見計らい、その日のうちに父親と一緒に御珠家を訪れた。

 そして、五段重ねの座布団の上でふんぞり返るセシル様の前で、平身低頭で謝った。

 許しが得られなければ、珠城家の定めに従い、切腹する覚悟だった。ところが、


「よいよい、春空に悪い虫がつかなくて、むしろ助かる」


 セシル様の許しはあっさりと得られた。それどころか、


「ついでに春空に悪さする連中が出んようにしてくれるとありがたいな」


 こうして、春空のあることないことをセシル様公認で流す羽目になった。

 おかげで春空に危害を加えようという連中は出なくなったが……。

 春空とパーティを組むという私の願望は叶えられなくなったのだった。



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