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第18話 初めての必殺技

「――奥義?」


「名付けて《マジ・カノン》ぢゃ」


「……手を突っ込まなくて良い感じの奴?」


「良い感じの奴ぢゃ」


「んじゃ、よろしく~」


 適当に答え、セシルちゃん妖精の前にM/Mを差し出す。

 すると、ぱちぃん、とセシルちゃん妖精に手の平を叩かれた。


「奥義の継承がインストールが1つで済むと思うな、この戯け者っ!」


「え? 今時、プログラム化されてないのぉ?」


 魔法もスキルもプログラム化されてクリックひとつで発動できるこのご時世に?!


「このっ! プログラムできなっ――いや、いい。使ってみればわかる話ぢゃ」


 出しかけたグーを引っ込め、ふ~、ふ~、とセシルちゃん妖精は荒く息をつく。


「プログラムなしでどう使えと?」


「M/Mを介さんで魔力操作を行う」


「……むずっ」


「必要なのは『解放する魔力』と『圧縮する魔力』の二種類の魔力ぢゃ、『解放する魔力』を砲弾、『圧縮する魔力』を砲身と考えれば、イメージしやすいかの?」


 やってみた。

 まず『解放する魔力』を砲弾の形に整える。


 ……おおっ! イメージ通り七色の魔力が楕円形に渦巻いた。

 綺麗~。プラネタリウムでみたどこぞの銀河みたい。


 次に『圧縮する魔力』を砲身の形に……。

 むぅ、筒状にならない。イメージが悪いか?

 イメージしやすいように両の手を「前へ倣え」の手の平上下バージョンで構える。

 これを砲身に見立てて、と……うん、上手くいった。


「『解放される魔力』を『解放』しながら、『圧縮する魔力』で『圧縮』するのぢゃ。『圧縮』すればするほど。魔力濃度は高まり、付与した魔力の効果は高まる」


 あとは魔力を『解放』しながら『圧縮』……って、普通にむずいわ!!

 例えるなら、片手で英語を書きながら、もう片手で漢字を書いているみたいな?


「ぐっ、むずっ……」


 出力のバランスが難しい。『圧縮する魔力』が強すぎれば、もう片方は力を失い、逆に『解放する魔力』が強すぎれば、もう片方は吹き飛ばされそうになる。


「『圧縮される魔力』に『スライム抹殺』の魔力付与するのを忘れるなよ」


「も、もう無理――」


 一段階『解放する魔力』を強めた瞬間、あっけなく決壊した。

『圧縮する魔力』の中で『解放する魔力』が暴れ馬のように荒れ狂う。


(やばい……!)


 突き出した両手から七色の光が溢れる。見る間にそれは輝きを強める。


「あっ、戯け者っ! まだ早い!」


 セシルちゃん妖精が何と言おうともう遅かった。

 七色の光が極太のビームとなってまずスライムメシアを一息に呑み込んだ。


「ちょ、まずっ……! ――ぬおおおおおおおおおっ!」


 もはや止まらないし、止められない。


 凄まじい勢いに、ぼく自身がビームの付属物であるかのように、右に、左に、上に、下に、水平に、垂直に、散々に弄ばれてる。


 何というか……、やんちゃな馬鹿犬に連れ回される、というか、水流に荒れ狂うホースに振り回される、というか、とにかくそんな感じ。


 時間にして数分は弄ばれた気分だが、実際は数秒のことで、最後に七色の雷が1つ煌めいてビームは消えたときには、ぼくは2本の足で立つことが出来なくなっていた。


「めっ、めっちゃ……魔力が疲れた」


 地面にぽたぽたと汗が滴り落ちる。

 たった数秒のことなのにフルマラソンを走りきったかのような疲労感。

 重力が一一気に10倍になってしまったかのようだ

 けれど、のんびり休んでなんていられない。――速く逃げなければ!

 あれだけ《マジ・カノン》を方々にぶっ放してしまったのだ。

 きっとダンジョンはめちゃめちゃのぐちゃぐちゃに……なってない?


「あ、あれ?」


 狐に抓まれた気分とはこのことか。

 周囲を阿呆のように見渡しても天井ひとつ、壁ひとつ崩落していないのだが……。


「どうかしたか?」


「いや、《マジ・カノン》をぶっ放したのにダンジョンが壊れてないんだけど?」


「そりゃ魔力に『スライム抹殺』しか付与しておらんからぢゃろ?」


「そうなの?」


「魔力は何らかの意図を付与しなければ元来、無害なものぢゃからな。まあ射程範囲内にいて運悪く巻き込まれたスライムは壁があろうがなかろうが『抹殺』されたがの」


「おそるべし《マジ・カノン》……!」 


「いやいや、まだまだぢゃな、《マジ・デミカノン》ってところぢゃな」


「あれで……デミ?! こんなん……本当に制御できるの?!」


「魔力の鍛錬を積めば余裕ぢゃ。そのうち人差し指1本で撃てるようになるぞ」


「んなっ、無茶な……」


 まるで想像できないけど、人差し指1本であのビームが撃てるのは、素直に憧れる。ちょっとがんばってみよう。


「まあ今日のところはよい。水属性の微精霊も想定以上に集まったからの」


「たっ、助かる~」


「それともう一仕事ぢゃ」


「――え?」


 くいっ、とセシルちゃん妖精が偉そう顎で刺したのは、


「あ……」


 ギャルだ。装備を溶かされ、半裸の状態でうつ伏せに倒れている。見たところ、五体満足で、体のどこかが破裂しているとかの怪我をした様子はない。ただ気絶しているようだ。


「まっ、まさかっ! ぼくに持って帰れと?!」


「人として気を失った女子を放置もできまい?」


「そりゃそうだけど……いま、凄く疲れてるんだけど?!」


「【岩巨人創造】でぱんぴ~を増やして運ばせればよかろう?」


「改修作業中でばらしてるから使えないよ」


「なら、立派な手と足で運ぶしかあるまい」


「やれやれだよ」


 重くなった体でギャルに近づく。


「……そういえば、彼女どうしたんだろうね?」


「何がぢゃ?」


「魔法が発動しないとかなんとかって騒いでなかった?」


「ああ、ただの自業自得ぢゃ」


「自業自得?」


「大方、道中でお主の悪口でも言っていたのだろう。それで、精霊がへそを曲げてしまったのぢゃ」


「なんで余所様の精霊がぼくの悪口でへそを曲げるの?」


「前に、精霊の大半は【ハイエルフ】が創った、という話をしたぢゃろ?」


「うん、したね」


「早い話が、精霊にとって【ハイエルフ】は【創造神】のようなものぢゃ。例え、自分の生みの親でなくとも【ハイエルフ】の悪口は気分の良いものではない、彼らにとっては冒涜に等しい暴言ぢゃて、契約しているだけの赤の他人にそのようなことを言われれば、へそを曲げるのも無理はない。反逆しなかっただけ、まだ義理堅いわい」


「なるほど。ま~、わからないでもない……ような?」


 うちはご近所でも評判が良いのか悪く言われたことはないけど、確かに、赤の他人の口から家族の悪口を聞くのは嫌だな~、と小並感に思うぼくだった。



 冒険者詰め所まで戻ると蜂の巣を突っついたような騒ぎになっていた。


 曰く「謎の光によって保管しておいた希少なスライム素材が消えた」

 曰く「製薬会社に明日まで納品しなければ違約金が発生する」

 曰く「この責任は誰が取るべきか。一番冒険者ランクの高い者が取るべきだ」


 騒動の中心に小林がいて周りの冒険者から喧々囂々と責められている。

 弁明に忙しいのか、戻ってきたぼくに気づいた様子はない。


「ナニゴトヂャロ?」


「ナンダロウネ?」


「マア、ワシラニハカンケイナイコトヂャロ」


「ソウダネ、カエロカエロ」


 救護担当の冒険者にギャルを預け、ぼくらはそそくさとその場を後にした。


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