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第17-1話 ギャルと粘液

 ぼくと出会したスライムの末路は、おおよそ二つに分けられた。

 その場で叩き潰されるか、もしくは吹き飛ばれた先の壁に叩き付けられるか。

 スライムは中心にあるコアを破壊しなければ、いくらでも再生できる魔物である。


 決定的な弱点であるため、スライムの中にはコアを透明にして隠すものや、常に体の中を流動させて狙われづらくするものもいるが、ぼくの一撃の前には無意味だった。


 直撃で跡形もなく吹っ飛んだ。掠めただけで吹っ飛んだ。掠めなくとも吹っ飛んだ。

 コアのあるなしなど関係なしに、スライムという存在そのものが吹っ飛んだ。


「あはははは~、た~のし~♪」


「微精霊の回収を忘れるな。この調子だと1000匹くらい倒さんといかんぞ!」


「余裕~♪ 余裕~♪」


 あっという間に1フロア分のスライムを根切りにしてしまった。

 意気揚々と次のフロアに向かう。


(――ん?)


 先客がいた。

 余所のクラスの男女のパーティ。おそらく陽キャだ。


 というのも、男子は純血のエルフのような見目麗しい見た目で、燦然と輝くブランドものの鎧を身につけていたからだ。


 一方で、女子の方は……判断しかねた。


 肌は、夜に溶け込めるかのような焦げ茶色。髪は、毒々しい金色で、ソフトクリームのように盛り付けられ、クリスマスツリーのように装飾品で飾り付けられている。


 目元だけ白に近い銀色で化粧されて、どこぞの部族の戦化粧だろうか、と真面目に思ったほどだ。魔法使いっぽい装備も、防御力ガン無視で、お洒落に飾り付けられている。


「あれは、もしかして……?」


 彼女を表す言葉があるとするなら、ぼくはひとつしか知らなかった。


「ギャル?」


 テレビでしか見たことのない風体に、思わず目を奪われてしまう。

 ……それが、悪かった。


「てめぇ、何、人の彼女じろじろ見てんだよぉ!!」


 突然の罵声に、肩がぴくぅんと震えた。

 見れば、先ほどのイケメンがぜぇぜぇと肩で息をしながら大股で近づいてくる。


「友達か?」


「まさか……、知らない人だよ」


「なぜ、いきなり喧嘩腰だ?」


「あ~……」


 なぜ、と問われ、経験則からすぐに答えが閃いた。


 見たところイケメンはスライム1匹に大苦戦していた様子。

 スライムの残骸がそこら辺に散らばっているのが何よりの証拠だ。

 コアを破壊するのに難儀していたことがうかがえる。

 彼が彼女に格好良いところを見せようと考えていたのなら、明らかな失敗、失策だ。


 ぜぇぜぇと肩で息をし、絢爛な鎧の所々にスライムの残骸を張り付かせた様は、強敵と死闘を演じた勇者というよりは、泥濘に塗れて何とか1日を生き抜いた兵士のようである。


 立派な姿ではあるが、彼女に誇れるような見栄はない。

 彼氏はなんとか見栄を張りたい――そのとき、タイミング悪く現れたのがぼくだ。

 彼女をじろじろと見る不埒者(ぼく)を退治すれば、一応、格好がつく。

 今さらながらに姫を守る騎士様を気取ることが出来る。まさに名誉挽回の機会だ。

 彼氏はそう考え、無辜のぼくに、不条理ないちゃもんをつけようというのだ。


(……迷惑な話だ)


 返り討ちにしてやろうか、とも思った。やめた。

 イケメンに無様は許されないが、なぜか敗北は許されるのだ。

 敗北した姿にファンの女の子は庇護欲をかき立てられるのだとか。意味わからん。

 わざわざ奴らのイチャラヴに貢献してやる謂われもない。


「逃げた方がよいのではないか?」


「だね」


 セシルちゃん妖精のの提案に、否やはない。

 ぼくはさっさと踵を返した。


「お、おい! ちょ、待てよ!」


 早足で追ってくるけど、完全無視してその場を後にした。



 ところが彼らとの縁は切れることはなかった。

 別のフロアのスライムを根切りにし、別のフロアに移動すると、


「あああんっ!! てめぇ、なに追いかけてきてんだぁ!!」


 また彼氏と彼女に出会した。


「なんでやねん……」


 状況にツッコミを入れ、接近される前にフロアを離れる。

 別のフロアのスライムを根切りにして、また別のフロアに移動する。


「おうおうおう! てめぇ! まさか、ストーカーか!!」


 またまた出会した。


「どないなってんねん……」


 状況にツッコミを入れ、またまた彼氏彼女から逃れた。


「どういうことよ?!」


 粘液洞窟は相応に広いダンジョンだ。


 増水対策として何年もの施工期間を経て完成した下水道がダンジョン化したため、街の地下ほぼ全域に渡って無数のフロアが存在し、それが地下深くにまで及ぶのである。


 一度、パーティからはぐれれば、再会は「運」頼みで、多くの冒険者はそんなものに頼らずに、素直に入場口で待ち合わせして、再出発か、解散するが常なのだ。


 それが2フロアごとに出会うなど、奇跡か、運命としか言いようがない確率だ。


「縁が深いの~」


 かかかっ、とセシルちゃん妖精はさも愉快そうに笑う。


「悪い冗談だ」


 彼氏はもちろん、彼女ともお近づきなりとも思わない。

 ギャルとの付き合い方なんて皆目見当もつかないのだから。



 また一つのフロアのスライムを根切りにした。


「もうそろそろいいんじゃない?」


 いい加減、飽きてきた。


 初めは楽しかったが、スライムは逃げも隠れもしないので、叩き潰す行為は段々と単純作業と化して、ついには何の感情も湧かなくなってしまった。


「欲を言えばもうちょっと欲しいかの」


「何匹?」


「アプリを見てみろ」


 見てみた。

 人型の首元まで青く表示された状態で「80%」とある。


「何匹よ、これ?」


「200匹くらいかの」


「うげぇ~……もう明日でいいよ~、明日にしよ~」


「もうひとつフロアを根切りにしてからぢゃ。そうすれば帰り際に何匹か狩れば足りるぢゃろう。ほれ、さっさと行くぞ。今日の晩ご飯は唐揚げぢゃ」


「ひゃほ~い、唐揚げ~♪」


 晩ご飯の唐揚げだけを楽しみに、次のフロアに向かう。


「唐揚げ~♪ 唐揚げ~♪ から……お?」


 フロア間の回廊まで響く戦闘音。

 何やら嫌な予感がしてフロアの外からそ~っと中を覗いてみると、


「――んげっ!」


 いた。またしても、あのイケメンとギャルだ。

 ここまで「偶然」が重なれば、もはや「奇跡」というより「必然」。

 幸い、まだイケメンに見つかっていない。

 この悪縁を断ち切るべく、さっさと回れ右をしよう。


「ちょっと待て。様子がおかしいぞ」


「何が?」


 セシルちゃん妖精に引き留められ、改めてフロアの中を覗いてみた。

 イケメンとギャルが戦っている。相手は、スライム……なのだが。


「――でかっ!?」


 粘膜洞窟の多くのスライムは、ほとんどがバスケットか、サッカーのボールほどの大きさなのだが、イケメンとギャルが戦っているスライムはちょっとした気球ほど。


「スライムメシアぢゃな」



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