月の光りと辺り
月が見える時間に
ピアノを鳴らした
強いて言うなら
誰かのためじゃなく 自分だけのために
一人の部屋にも色が付く
火花が不意に散るように
偶然が生まれて
増えていって
辺りに充満するのを待った
今日の出来事を思い出そうとして
(たいていロクなものじゃない)
やっぱりやめて、
明日の香りを予想しようとして
(大して利かない自分の鼻のことだ)
それもやめにした
どうせ、過去も今も未来も
そうは違わないから
じゃあ、どうにか手出しくらいはできる この今を
とりあえずは
楽しもうと思ったんだ
曲なんて
難しくて弾けやしない
だから
ピアノは鳴らすだけで
ふらついたのは
ちょっと疲れたせいかな
それとも、単にお酒のせいなのかもしれない
そんなところで
僕の全ては
これでもうすっかり言い表せてしまう
薄っぺらいようでいて
その実 みんなこれくらいの深さなんだ
足りないということはない 満足している
光を十分に浴びた気がしたから
そろそろカーテンを閉めて
鍵盤には赤い布をかける
こうしたって音は聞こえてきた
まだ、弦の唸りは
しゅらしゅらと続いている
当面はきっと大丈夫だ
時計の響きが
少しだけ混ざっていった
そうして眠りにつく
そのうち、いつも通りに
明日が霞んで
いつのまにか、今日になるだろう
いつまで経ったって
色々が
前を過ぎていく
ただそれだけだ