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迷宮遺失物回収業者 ハゲタカ  作者: 水越みづき
血河のほとりにて
32/47

第四話 4:自らを白しめろ

 4


 ――汝の名を示せ。

 ハゲタカ。

 ――俗名こそ真名と定義するか。

 その通り。

 ――汝の信頼せし者を示せ。

 叔父さん。アトラ。……ドロテアさん。

 ――汝が我らとの交渉に派遣する者の名を示せ。

 ズゥクジャーン師。ハウド。グラーム。クリステラ。カラス。

 ――信頼に置けぬ者を使うつもりだったのか。

 信用に足りる。

 ――魔法使いよ。汝の魔法は何処で学んだ。誰に教わった。

 故郷。叔父さん。

 ――故郷は何処か。

 帝国。

 ――汝は何故、故郷から離れ、この島にいる。

 叔父さんを踏み躙った祖国に、親兄弟に、忠義を果たす理はない。故郷から逃げられるのなら、都合が良いのなら何処でも良かった。

 ――了承した。ハゲタカへの質疑応答を終了する。祖霊たちよ、()の者の魂より離れ(たも)う。


 俺の腕や肩に絡みついていた何かが払われた。

 ()()()()()、木の幹に俺は背中を預けていた。

 寝ていた? 夢? いや違う、それにしてはいやにはっきりと、目の前で俺を見下ろす男と同じ声が先ほどまで質問を重ねていたことと、意識を失う前に魔法ではない何かが俺に使われたことが嫌な答えを導き出す。


樹人(ジュト)ってのは、自白の(すべ)を持っているのかよ……」

「汝が信頼に足りる平人(ヒト)か知る必要があった」

「他人の頭ン中覗いたら信頼もへったくれもねーだろうが」

「故に、こちらも質疑は最低限に済ませた。汝が我ら樹人(ジュト)を裏切るつもりは無いかは確認したかったが、それを探る疑い自体が我らが汝を信用していない証となる故」


 理屈は通っているが、通ってもやっていいことと悪いことの区別もつかないのか樹人(こいつら)は。

 反射的に怒りは沸いたが、確かに深刻な秘密にしておきたい質問は『信頼する者』だけだった。

『信頼する人間』と利用するにあたって『信用する人間』は別ものだという、俺の持論と樹人(ジュト)の考えが食い違って起きた、不要で不運な質問だったのだろう。

 他はまぁ、どうせこの島に流れ着いた冒険者たちは大なり小なり事情を抱えているので、言わずもがなというところがあり諦めがつく。

 樹人(ジュト)の男は、俺がそういった割り切りをつけるまでの表情を読んでいたのか、突然地面に膝をつき、(こうべ)を垂れた。


「ハゲタカよ。汝の魂を隷属し貶めた非礼を詫びる。申し訳なかった」


 その声は真摯な響きを帯びていた。いくら世間知らずで自尊心が無駄に高い樹人(ジュト)でも、先ほど俺にかけた自白術は相手の心を踏み躙る行為だということは理解してはいたのだろう。

 理解したうえで、それでも使わなければ相手を信用できない不器用な種族だというのは、こちらもわかってはいる。

 立ち上がって歩み寄って来た男は、俺の両手を握り締めた。ガサついた手の皮の感触がする。


「正直に述べよう。我らも追い詰められ、焦っており、我らのみでは答えを出せず、助けが欲しい」

「わかった。とにかく時間が惜しい。俺の要求の牙人(ガトー)の遺体は後回しだ。俺がズゥクジャーン師たちを呼んでくる間に、アンタらは牙人(ガトー)の持っていた装備一式を全部まとめておいてくれ」

「委細承知した。ハゲタカよ、汝との盟約を我らは忘れず、信じる。その事を決して忘れるな」

「そういうとこだよ。騙し騙されるのが怖いのはわかるが、人間は絶対に裏切る生き物だ。お前ら樹人(ジュト)も例外じゃねーってことは、一仕事終わってから教えてやるよ」


 俺は立ち上がり【森】の外へと向かって走り……かけて、樹人(ジュト)の男に向かって振り返った。


「ごめん。この【森】出口どこ? 【森】の外に置いた装備が無いと、大急ぎで飛べないから案内して」

「……まあ、我らが棲み処はそういう場所故、致し方あるまいか」


 おっさん、あんた言葉だけは取り繕っているけど顔はそっぽ向けて肩揺れているから俺を笑ってんのは丸わかりだぞ。確かに俺自身格好が付いてないってことはわかっているけど。

 樹人(ジュト)は背中の樹羽の片方を近くの木に触れさせ、指先を俺の目の前の木に向かって伸ばした。

 ぞるりとした感触が腕や肩、股間に巻きついた。樹上から伸びてきた蔓が俺を絡め取り、吊るし上げているのである。


「お、おわっ? 何するつもりだ!?」

()()()。着地する前に【森】の外には出られるはずだ。魔法使いの汝なら、無事だろう」

「ちょっ、えっ、おまっ」


 いつの間にかハンモックのように枝蔓が編まれており、俺の身体はそこに放り出される。

 樹人(ジュト)が造り出したハンモックの高度は高い。男の頭を見下ろせば、俺の親指ほどの大きさにしか見えないほど高い。

 そのハンモックの高度が()()()()()()()()という嫌な音と共に、下がって行く。

 よく周りを見れば、ハンモックの先端は丈夫そうな太い枝と一体化している。高度が下がっているのは、枝が不可視の力でたわみ、弓のように引き絞られているからなのだ。

 俺の脳裏に、投石器(スリングショット)投岩器(カタパルト)という単語が浮かんで、そして、正解だった。


 全身を殴りつけられるような衝撃が胸と背中、同時に両方に襲い掛かってきた。

 暗い緑があっという間に視界を横切り、空中へと放り出され、朝焼けの太陽が見えた。

 乱暴に撃ち出された俺の身体はどうやら回転しているらしく、ぐるぐる回る視界の中、脳内に魔法式を構築。気流操作魔法を試みると、魔力干渉はあるものの起動できる程度の範囲外にまで飛び出したようだ。

 太陽とそれを遮る山脈を目印に、上下方向を把握して姿勢制御するよう気流操作する。

 空中を飛ぶ際、混乱すると上下左右の方向がわからなくなる瞬間がある。そんな時、最悪なのが()()()()()()()()()()()、といった事故だ。自由落下の勢いもあって、そんなことをやれば確実に死ねる。


 足を地面側に、頭を空に向けて俺は降下。【森】を眼下に、背嚢を置いた地点へと軟着地した。

 火蜥蜴の外套によって空気抵抗を得ることができなかったが、その分気流操作を高めに出力したのでなんとか怪我一つ無く【森】から脱出できた。

 背嚢から(くだん)の外套を取り出し、羽織る。そして背嚢を固定して背負うのももどかしく、俺は気流魔法で飛翔し、ツェズリ都めがけて最速で跳んだ。

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