4月23日
4月23日——
最近、萩野谷さんのことを考えると、夜もちゃんと眠れない。
身体はどことなく怠いし、目の下が薄ら黒くなってきている気がする。
萩野谷さんのためにつけ始めた日誌だが、自分の体調不良を気づかせることになるなんて。
よく眠れない日が続いたが、ようやく作戦を思いついた。
『萩野谷さんの分までお弁当を作って、一緒に昼食を食べる』
これでいこうと思う。
食欲がそこそこある萩野谷さんだからこその、胃袋を掴む作戦。
それに、放課後はノーチャンだと結論づけた。
幸いお母さんの手伝いで料理はしていたので、お弁当を作ることは問題ない。
ただ、ちょっとブランクがあるので練習したかったが、『機を見るに敏』という言葉もある。
もたもたしていたら、萩野谷さんは手の届かないところに行ってしまいそう。
なので、作戦実行は明日にした。
今日の授業中、勉強をするフリをしながら、お弁当の献立を考えていた。
毎日カツサンドを食べる萩野谷さんなら、お肉は絶対外せない。
ということで、お弁当の定番、からあげは確定。
同じく定番の卵焼きも、彩りを踏まえて入れておきたいところ。
あとはサラダとか入れたら、結構色鮮やかなお弁当になるのではと思う。
冷蔵庫に卵と野菜はあった気がするので、放課後は鶏肉とからあげ粉を買いに近くのスーパーへ。
念のためお母さんにLINEで確認したら、あれやこれやと頼まれた。
たまには親孝行した方がいいだろう。
手頃な値段の鶏肉とからあげ粉を真っ先にカゴに入れ、あとは頼まれた物を順番に探していく。
そうしているうちに楽しくなって、鼻歌なんて歌って浮かれていたわたしだが、自分と離れた場所で萩野谷さんを見つけてしまった。
買い物カゴを持っているので、わたしと同じく買い物に来たのだろう。
スーパーの雑踏で足音など聞こえないだろうに、わたしは忍び足で近づき、棚の脇から彼女の様子を窺った。
カゴにはポテチやチョコ菓子などがいくつか入っている。
あれを全部ひとりで食べてしまうのだろうか。
いや、それよりも……わたしは自分の目を疑うような光景を見た。
萩野谷さんがお菓子を選びながら笑っていたのだ。
学校では見たことのない、柔らかくてまぶしい、年相応の女の子の顔で。
信じられない。
失礼だが、それがわたしの正直な感想だった。
そして、はじめて彼女と出会ったときのように、心臓がドキドキしてきて苦しくなる。
恋煩いなのは自分でもわかるが、この胸の高鳴りは本当に病気なのではないかと疑う。
偶然を装って彼女に声をかけたら、どんな反応をするだろう。
しかし、それは愚策だ。
作戦実行の前に、余計なことをするべきではない。
万が一嫌われでもしたら元も子もない。
残念だがわたしはその場から離れ、再び頼まれた物の買い物を続け、レジでばったり会わないようワザと時間をかけた。
もし、あの顔をわたしに向けてくれたら。
さっきの光景を思い出すと、今日も寝不足になりそう。
自分の部屋に戻ってきたわたしは、スマホで料理の手順を確認する。
この情熱を勉強に向ければ、きっとテストでいい点数が取れるだろうに。
だけど、これだけ熱心になれるのは、萩野谷さんのことだけを考えているから。
あの笑顔を見たあとでは、なおのこと。
あとは、萩野谷さんがわたしの誘いを断らず、一緒にお弁当を食べられますように。
どうか萩野谷さんと友だちになれますように。
わたしは萩野谷さんのことばかり考えているが、萩野谷さんはわたしのことをどう思っているのだろう?
ただのクラスメイト、として認識されていれば御の字。
それ以下の認識だって考えられる。
「萩野谷さん……」
と、愛おしさのあまり、ぽつりと名前を呼んでしまった。
途端に身体が熱くなってくる。
やっぱり何かの病気ではないだろうか。
こんな悶々とした日々に、明日決着が着くと思うと、武者震いがしてきた。
問題はこんな状態で眠れるかどうか。
明日は早く起きなければいけないのに。