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萩野谷雪花観察日誌  作者: サツキヒスイ
2/7

4月23日

 4月23日——


 最近、萩野谷さんのことを考えると、夜もちゃんと眠れない。

 身体はどことなく怠いし、目の下が薄ら黒くなってきている気がする。

 萩野谷さんのためにつけ始めた日誌だが、自分の体調不良を気づかせることになるなんて。

 よく眠れない日が続いたが、ようやく作戦を思いついた。


 『萩野谷さんの分までお弁当を作って、一緒に昼食を食べる』


 これでいこうと思う。

 食欲がそこそこある萩野谷さんだからこその、胃袋を掴む作戦。

 それに、放課後はノーチャンだと結論づけた。

 幸いお母さんの手伝いで料理はしていたので、お弁当を作ることは問題ない。

 ただ、ちょっとブランクがあるので練習したかったが、『機を見るに敏』という言葉もある。

 もたもたしていたら、萩野谷さんは手の届かないところに行ってしまいそう。

 なので、作戦実行は明日にした。

 今日の授業中、勉強をするフリをしながら、お弁当の献立を考えていた。

 毎日カツサンドを食べる萩野谷さんなら、お肉は絶対外せない。

 ということで、お弁当の定番、からあげは確定。

 同じく定番の卵焼きも、彩りを踏まえて入れておきたいところ。

 あとはサラダとか入れたら、結構色鮮やかなお弁当になるのではと思う。

 冷蔵庫に卵と野菜はあった気がするので、放課後は鶏肉とからあげ粉を買いに近くのスーパーへ。

 念のためお母さんにLINEで確認したら、あれやこれやと頼まれた。

 たまには親孝行した方がいいだろう。

 手頃な値段の鶏肉とからあげ粉を真っ先にカゴに入れ、あとは頼まれた物を順番に探していく。

 そうしているうちに楽しくなって、鼻歌なんて歌って浮かれていたわたしだが、自分と離れた場所で萩野谷さんを見つけてしまった。

 買い物カゴを持っているので、わたしと同じく買い物に来たのだろう。

 スーパーの雑踏で足音など聞こえないだろうに、わたしは忍び足で近づき、棚の脇から彼女の様子を窺った。

 カゴにはポテチやチョコ菓子などがいくつか入っている。

 あれを全部ひとりで食べてしまうのだろうか。

 いや、それよりも……わたしは自分の目を疑うような光景を見た。


 萩野谷さんがお菓子を選びながら笑っていたのだ。

 

 学校では見たことのない、柔らかくてまぶしい、年相応の女の子の顔で。

 信じられない。

 失礼だが、それがわたしの正直な感想だった。

 そして、はじめて彼女と出会ったときのように、心臓がドキドキしてきて苦しくなる。

 恋煩いなのは自分でもわかるが、この胸の高鳴りは本当に病気なのではないかと疑う。

 偶然を装って彼女に声をかけたら、どんな反応をするだろう。

 しかし、それは愚策だ。

 作戦実行の前に、余計なことをするべきではない。

 万が一嫌われでもしたら元も子もない。

 残念だがわたしはその場から離れ、再び頼まれた物の買い物を続け、レジでばったり会わないようワザと時間をかけた。


 もし、あの顔をわたしに向けてくれたら。

 さっきの光景を思い出すと、今日も寝不足になりそう。

 自分の部屋に戻ってきたわたしは、スマホで料理の手順を確認する。

 この情熱を勉強に向ければ、きっとテストでいい点数が取れるだろうに。

 だけど、これだけ熱心になれるのは、萩野谷さんのことだけを考えているから。

 あの笑顔を見たあとでは、なおのこと。


 あとは、萩野谷さんがわたしの誘いを断らず、一緒にお弁当を食べられますように。

 どうか萩野谷さんと友だちになれますように。

 わたしは萩野谷さんのことばかり考えているが、萩野谷さんはわたしのことをどう思っているのだろう?

 ただのクラスメイト、として認識されていれば御の字。

 それ以下の認識だって考えられる。

「萩野谷さん……」

 と、愛おしさのあまり、ぽつりと名前を呼んでしまった。

 途端に身体が熱くなってくる。

 やっぱり何かの病気ではないだろうか。

 こんな悶々とした日々に、明日決着が着くと思うと、武者震いがしてきた。

 問題はこんな状態で眠れるかどうか。

 明日は早く起きなければいけないのに。

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